第13話 親友の為の仇討ち
【文久三年 九月二十五日】
芹沢鴨らがいなくなった壬生浪士組が新たに新撰組を名乗り五日が経っていた。勘吾達は新撰組隊士として正式に京の治安を守る任に就くこととなった。勘吾は沖田の一番隊に所属する事になり、馬越は怪我が治り次第武田の五番隊に所属する事になった。
その次の日に、一気に芹沢一派残党を一掃する事を幹部達で決行に移そうと画策する新撰組だった。だが、勘吾は別の件で悩んでいた。馬越の正体を知ってしまったからである。だが勘吾は沖田に見透かされ、一人呼び出される。
「お前、馬越の正体に気付いたんだろ?」
と突然図星を突かれるが
「何の事ですか?」
と知らばっくれようとするが沖田に
「俺も気付いてたんだよ。初稽古の時からな。奴は・・・」
と言い切られてしまった。勘吾は
「このことは誰にも・・・」
と沖田に頼もうとすると
「わかってるよ。法度に背くからな。だが奴が仇取ったら言わなければならねえ。この新撰組で奴に切腹なんてさせられねえからな。」
と勘吾と同じ事を考えていたようだ。沖田は
「取り敢えず奴が仇を取るまで秘密だからな。それが終わったら近藤さんと土方さんに俺の口からちゃんと話すぞ。お前が言ったらお前が切腹することになる。これは助勤の勤めだ。」
と約束を交わし、沖田に
「お前はそれまで馬越を守れ。これは命令だ。」
と勘吾に密命を下した。
【文久三年 九月二十六日】
芹沢と平山を討ち、平間は山南と勘吾、馬越、島田が逃がした。だが、平山に左肩を負傷させられた山南は刀が握る事が難しくなってしまった。
残る芹沢一派は野口健司、阿部十郎、馬詰勘介、柳三郎、長州の間者である事がはっきりした六人、楠小十郎、御倉伊勢武、越後三郎、荒木田左馬之助、松井龍三郎、そして松永主計の計十人。ここで馬越と同じく銃で撃たれ負傷している中村が永倉に呼び出され
「御倉と荒木田を呼んできてくれるか?」
と頼まれ、二人を連れてくると
「俺が奢ってやるから祇園に行こう。」
と中村も連れて四人で祇園の一力に登楼する。すると御倉と荒木田は、これを好機と見て永倉の脇差しを仲居に渡し
「永倉を殺るなら今だ。」
と密談しているのを席を外した中村が聞いており、永倉に
「永倉先生、どうも合点がいきませぬ。御油断なされぬよう・・・」
と自らの脇差しを永倉に渡すと
「くそ!」
と悔しがっている顔を見た永倉は
「お前のおかげで全てが明るみに出た。協力感謝する。」
と中村に礼を述べた。
屯所に戻った四人はそれぞれ別れ、永倉が土方に
「中村のおかげで全てわかった。奴らは長州の間者だ。」
と報告し、一部の隊士を集める。集合したのは沖田、永倉、原田、藤堂、井上、斎藤、松原、林、馬越、そして勘吾。土方は
「奴ら二人は斎藤、林、お前等で仕留めろ。楠は左之助。越後は総司、松井は平助、松永は源さん、蟻通、馬越。源さん、二人を頼む。」
と託される。井上は何も知らなかったが沖田に
「後で俺も行く。」
と言って全員所定の位置に付いた。
床屋が来ており結髪中の御倉と荒木田を、床屋の直ぐ背後から御倉は斎藤が、荒木田は林が同時に刺し殺す。
「ぐわあ!」
と悲鳴を上げた二人と
「うわあ!」
と驚く二人の床屋を見た残り四人は逃げ出すが、楠は刀を抜こうとした所を原田に斬り殺されるのを見た越後、松井、松永が逃げ出す。越後は沖田と斎藤が追いかけ、松井は藤堂と林が追いかける。そして松永は
「井上先生!私に任せて下さい!必ず仕留めます!」
と馬越が激昂し松永を執拗に追いかける。勘吾が
「井上先生!先回りさせて頂きます。あいつの援護御頼み申す!」
と声をかけるが、既に井上はバテており二人に追いつけない。負傷の身で単身追いかける馬越が
「絶対討つ!」
と叫びながら追いかけ、勘吾も
(馬越はおめえらのせいで刀握れなくなっちまったんだ!代わりに俺が成敗致す!)
と心の中で叫ぶ。そして遂に馬越が松永に追いつき
「松永主計!覚悟!」
と刀を抜くがその瞬間、馬越は肩の傷みから振り上げた刀を放してしまう。しかし、咄嗟に追いついた勘吾が馬越の刀を上段で拾い、馬越に
「そのまま持ってろ!絶対刀から手を放すな!」
と叫びながら松永の背中を一刀両断。馬越はその勢いで地に転ぶが、その隙に勘吾は「播磨住昭重」を抜き、松永の首を
《ズバン!ゴトッ・・・》
と刎ねた。地面に転がる松永の首と胴が真っ二つになり、勘吾は「播磨住昭重」と馬越の刀を器用な手つきで同時に鞘へ納めると、鮮血で真っ赤に染まる汚れた地面から、負傷していながらここまで追ってきた馬越を両腕でひょいと抱きかかえ上げる。馬越が照れながら
「あうっ・・・ちょっ・・・蟻通君、下ろしてくれ。」
と勘吾の両腕から降りようとする馬越だったが
「お前は身体も掌も血で汚しては行けねえ。松永はお前がやった。そう報告する。だから今だけこうさせてくれ。どうしてもお前を両腕に収めておきたいんだ。」
と呟くと馬越は頬を赤らめ思わず
「・・・はい。」
と小声で答える。勘吾は道端に咲く桔梗を見ながら
「すまない。俺はお前の正体を知ってしまった。だから汚れて欲しくない。こんな気持ちになったのは、心底お前を守りたいと思ったのは初めてだ。お前はあの花のように美しくあってほしい・・・これからもずっと・・・」
馬越は勘吾に対して
「蟻通君。私は・・・」
と何かを話そうとしたが勘吾に
「何も言うな。もう全部わかっている。お前は仇を撃ったんだ。それでいいだろ。」
勘吾はそのまま馬越を抱きかかえ、歩いて屯所に戻っていった。屯所には皆残りの二人を追っており余り人がいなかったが、残っていた川島と宿院に
「松永はこの馬越が斬った。お前等、奴の死体をここへ運んで来てはくれぬか?」
と頼むと二人は戸板を持って松永の死体を運びに出る。だが、まだ最後の残党が残っていた。松永の死体を運んで来た川島と宿院に対し、懐に隠し持っていた拳銃で
《バン!》
と発砲した阿部が逃走する。勘吾は馬越を床に降ろし、川島に預け
「お前等!手伝え!」
と屯所に残っていた中村と奥沢の三人に呼びかけ追いかける。
「阿部え!待てごらあ!」
中村は阿部に銃で
《バン!》
と狙撃され、再び負傷した。楠達の事を永倉にばらした腹いせとして発砲し
「ちっ!弾切れか!」
と舌打ちをしながら四条木屋町付近で突然いなくなった。
「・・・あの野郎!次会ったら必ずぶっ殺す!」
と勘吾が怒っているが、奥沢が
「中村!くそ!あいつ銃持ってやがったのか!」
と怒りながら中村を介抱する。再び撃たれた中村だったが
「・・・へへへ、大した事ねえよ。」
と強がるが、脇腹を撃たれたようで奥沢と二人で屯所まで運んだ。この時、阿部は新見を匿っていた水戸浪人、吉成勇太郎に助けられ、四条木屋町の家屋の影からこの様子を覗いており
「蟻通勘吾!・・・今に見ておれ!」
と吉成に執念をぶちまけていた。だが、その吉成に
「・・・貴様はもう京から離れろ。庇い切れん。芹沢も新見も死んだんだろ?いくら銃一丁持ってたって勝ち目はないよ。俺が大坂に宛てがあるからそこに移れ。」
と諭され、しばらく吉成の元に潜伏しながら後日京を去って大坂に流れていった。
勘吾達三人が屯所に戻ると、残りの越後と松井はまだ見つからず、皆で追っていた。中村が負傷し奥沢に医者に診せるよう伝えると、勘吾は三度追いに行こうとするが、近藤と土方が
「お前等、話がある。」
と勘吾と馬越を呼ぶ。前川邸に呼び出された二人だったが勘吾は馬越を庇い
「松永はこの馬越が斬った。それでいいじゃないですか?」
と説得するが、土方は
「別の話だ。おい、馬越。」
と馬越の襟首を掴もうとするが勘吾が慌てて
「副長!どうかお止め下さい!」
と庇おうとするが
「てめえは引っ込んでろ!」
と突き飛ばされる。土方は勘吾のいない間に馬越の正体を知ってしまっており、勘吾が脇差しを抜き
「俺は今こいつを売ったから切腹します。けど、こいつにだけは切腹させたくはない。だからこいつの脱隊を見届けてから腹斬らせて下さい。」
と涙を滲ませると、屯所に丁度戻って来た沖田が勘吾を庇い
「待て。先に気付いたのは俺だ。それにお前に馬越を守れと命じたのも俺だ。お前の前に俺が腹を斬る。」
だが土方は
「お前ら待てよ。こいつを入隊させたのは俺だ。お前らの前に俺が腹斬らねばなるまい。流石に新撰組が壬生浪士としてこいつを入隊させたとあらば、日ノ本一の恥さらしよ。」
と話すと
「こいつの事知ってるのは他にいるのか?」
と勘吾と沖田に尋ねると
「多分いません。」
と返答するが
「おい、山崎。お前も知ってんだろ?」
と突然二人に背後から図体のでかい山崎が小声で
「もちろんわこうとります。今のところここにおられる御仁しか気付いておりまへん・・・言える訳ないやん。そなたが・・・なんて。」
と馬越を見ると
「安心してくれなはれ。わて地獄耳ですけど口は堅いねん。御心配なきよう・・・」
とぶつぶつ言いながら去って行った。土方は
「お前等が隠しててもこうしていつかばれるぞ。その時はこの新撰組そのものがバラバラになる。それを忘れるな!」
と勘吾と沖田に釘を刺し、馬越を睨み
「ここから先は本当の地獄が待ってるからな。おめえも覚悟決めるんだな!」
とドスの利いた声で馬越に忠告するのであった。
史実の松永主計は逃走し行方不明です。間者の中でも目立たないので採用しました




