第7話 『10分の制限』
過去認識は特殊で特別な能力であり未来予知も可能なため景真の一番の武器である。
24時間以内の好きな時刻にもどってやり直すことができる。
現実では数秒しか経っていない。
その間に夢の中では何度も同じ過去へ戻り、100回でも検証できる。
以前は一度の検証で10時間以上滞在することも可能だった。
これは予知能力にもなる。
例えば5分前に戻って10時間検証できればそれはもう完全な未来予知能力と呼べる。
過去認識能力なのだが自分の行動を変えることで複数の未来予知が可能なのだ。
ただ大幅に弱体化してしまった。
最初は3分だったが精神を集中することで10分ほどに伸びた。
でも10分を5回がやっとだ。
会話をやり直すくらいは問題ないが10分では未来予知は不十分だ。
(ふう・・・まずいな・・・この能力低下)
景真は夢の大書庫で柱時計を見つめていた。
5回どころか今回は4回しか検証できなかったのだ。
昨日のある時点からやり直してみた。
10分。
10分。
10分。
15分。
そこで完全に魔力が尽きた。
「・・・もう今日は使えない。」
ドウマン戦の仮想戦闘を88回連続使用したのが遠い昔のようだった・・・さらにほんの少し休んですぐドウマン戦の検証を再開できたのだ。
今は丸一日で4回、調子が良くても5回がやっとだ。
(死活問題だ・・・この能力・・・夢属性は伏せて編集長に相談してみるか・・・彼は心を読まれる心配はない)
次の日の朝早く・・・学校だ。
旧校舎へ編集長を呼び出した。
「そうそう、おかげで初めて携帯を買えたよ」
「それは良かったのう・・・」
編集長の勧めで携帯を買ったのだ、連絡取りにくいと言われて・・・まあ持ってない生徒はこの高校にはほかにいなかっただろう。
龍王家の儀式用の陶器を編集長の知り合いの霊的骨董品屋に売ったのだ・・・28万円になった・・・臨時収入は小遣いの全く無い僕にはありがたい。
「RAINってアプリすごいな・・・メッセージも無料通話も、写真や動画も送れて・・・しかも無料だって・・・複数でグループも組めるって・・・」
「ふむ、30年は話題が遅れておるな。王様よ・・・それより要件を言えい」
「相談がある・・・無理をしたらとある能力が弱くなった・・・治したいんだが・・・」
「ほう」
編集長はこう見えて高校で最も知能が高い、さらに精神力は特筆すべきレベルだ。戦闘力は最低レベルでも関係ない。
何を聞いても編集長は一切驚かない。
過去認識・・・夢属性は伏せつつ、とある時刻から数分のあいだ現実と同じように動いたり話したり戦ったり検証ができることを伝えた、未来予知の話はしてないし仮想空間の検証能力のようなものと認識してくれたようだ。
「なるほどのう、男が不能になることはよくある。それはしかしすさまじい能力であることに間違いはない・・・以前はもっと長かったという意味であるな」
「まあね、今は1回につき10分は余裕だ。でも15分前後で限界になる」
「一日に使えるのは5回と言ったか、だが昨日は4回で終わった・・・つまり」
編集長は黒板へ小さいチョークを走らせる。
残り約50分
10
10
10
15
終了
「こういうことであるな。資源管理である。そして10分を超えると消費が跳ね上がる」
「資源って・・・ゲームじゃないんだけど、実際なんで能力低下が起きてるかも分からないしなんとか治さないと・・・」
「治そうとする必要はない、恐らくその能力は安定すまい、使える分だけ有効活用せよ」
ニヤッと編集長は笑う。
「最後まで温存するな、疲れないなら毎日5回使い切れ」
「危険な場面で使うな、効率的に考えよ、5回やり直せるのは凄まじいアドバンテージであるぞ」
「ただ負けるのではなく死因だけは確認せよ、弱体化しておらん・・・強力な能力に変わりはない。それに時間的余裕はもうないのであろう。ネットニュースに載せておいた・・・闇の種子が光の異能者を喰らう、これは聖魔大戦の始まりである・・・とな。校内に敵がいるのであればもう何か動きがあってしかるべきである、時がたてば闇の種子を植えられた被害者は増えて羽化する生徒も出てくるであろう・・・」
確かに大河原先生の中の闇の細胞はもう生体でいつでも羽化して出て来られる。
「・・・昨日4回・・・今日は5回使えるかもしれない。そして明日には倒す。大河原は首謀者の可能性は低いんだよね?」
「かなり低いであろう、被害者の可能性すら高い・・・最近の言動はやや粗暴、生徒に手を出している噂もある。精神操作されている可能性もある。操られて短期集中講座を始めたのかもしれん。闇の種子事件の首謀者ではあるまい・・・おそらく闇の種子がある程度育てば、その人間はより高位の闇に操られるのではないか・・・記憶があいまいなのは瑠璃華が操られていたからであろう・・・」
確かに無いものねだりしても仕方ない。
誰にも見えない知覚できないのであれば、自分がやるしかない。
サブ属性が光以外の生徒も寄生体はいた。
しかしサブ属性が光の生徒たちの闇の種子は明らかに成長スピードが速い。
このままだと僕も危ないし、こんな化物と同じ建物にいるのもいやだ。
10分しかないのであれば異能警察の特殊チームを呼んだりプロの異能士を協会から呼んでの検証はできない。春期講習参加者全員に闇の種子がプレゼントされているとなると主催者側・・・つまり教員に首謀者がいる可能性が高い・・・つまり先生がたに相談するのは避けたい。
「詰将棋をすればいいのである・・・」
確かに今までは雑すぎたわけだ。
編集長にならドウマンを倒した話をしてもいいのだろうか・・・。
いやそれはまずい、秘匿は最大限重要だ。
昼になった。
2年生の教室に瑠璃華先輩が毎日のように僕を昼食に誘いにくる、あんまり目立ちたくないんだが・・・お弁当があるのでは仕方ない。
なにやら紫苑が睨んでいる・・・ような気がする・・・あれ九条烈華も?
「今日も行こうよ、景真くぅん」
「ああいいよ・・・」
歩きながら話した。
「ちょっと検証したいことがある」
二人で化学準備室へ向かう。
「おっと・・・大河原主任は一人じゃないみたいだ、またにしよう」
これで戻る場所は決まった、ここを過去に戻るポイントにするのだ・・・さっさと屋上へ行く。
霊視すると本当は主任は一人だったのだ。
屋上ですぐ眠る。
瑠璃華さんは終始不思議そうな顔をしている。
1回目のトライだ。
過去の選択肢をやり直すのだ。
今度は瑠璃華先輩と二人で化学準備室に入る。
「なんだね君たち、おや?」そういって瑠璃華先輩をジトっとみる。
剥げ頭のすこし恰幅のいい大河原主任へ単刀直入に質問した。
「春季講座について聞きたいんですけど・・・」
「・・・」
主任が笑う・・・なにか魔力かオーラかやばいものが漏れてる。
「きゃ!」
「やっぱりね・・・」
次の瞬間。
先生の身体が膨れ上がり胸が裂ける。
(ああ羽化だ・・・そうなるわけね)
黒い剛腕。
戦闘前に強制終了するか・・・。
後ずさりする先輩の恐怖と困惑が伝わってくる。
「そんな、そんな」
いや待て・・・。
戦闘力を測るのも大事だ。
変身が終わる前に・・・光の魔槍で一撃入れる・・・。
渾身の一撃!
だめだ、弾かれる。
剛腕の一振りで瑠璃華先輩が紙きれのように消し飛ぶ。
―――光子結瞬
宗家光子術で一撃は防御できたが、逃げて通報する時間的余裕・・・無し。
瑠璃華先輩は生きてるかどうかも分からない。
詰みだ。
(この質問はだめだ・・・)
柱の部屋に戻る。
(もうすでに何かを僕らから感じ取っている可能性が高い?先輩の反応もなんだか変だが・・・まあいい)
2回目のトライだ。
化学準備室には入らない。
適当な理由を付けて緊急回線で異能警察を呼ぶ。
15分後。
・・・まだ来ない・・・
はあ・・・終了。
(時間が足りない・・・だめだ)
一旦柱の部屋に戻る。
(15分持ったが、特殊部隊は15分では来れない・・・やっぱりこれしかないか)
3度目だ・・・。
お願いして瑠璃華先輩だけ中へ。
僕は外から霊視だ。
(ごめん・・・現実じゃないから許して下さい)
部屋の中の状況は良く見えている。
大河原先生の中身はもう人間ではない・・・。
人の皮を被っている闇の化物に見える。
先輩は急に硬直した・・・何かに驚いている、まだ羽化していないが?
それより羽化して変身すると自分の魔力では手に負えない。
であれば人間の姿の間に・・・。
急所を狙い撃つ・・・。
霊視で主任の真っ黒い身体の中にぼんやり光る球体がある。
あれが恐らくあの寄生体の中枢だろう。
いまできる最大の攻撃をするのみだ。
(ドウマン戦でやったあの技だ。出力は千分の一もないかもだが。だが僕の魔力のすべてをのせる)
―――光子貫通弾―――
撃つ・・・。
避けられる。
壁を破って闇の化物が現れる、右腕にぐったりした先輩を握っている。
失敗だ。
(なんなんだ?この反応速度は?)
4回目の能力使用、これが最後かもしれない、さっき15分使ったし。
瑠璃華先輩だけ準備室の中へ入ってもらう。
僕は化学室の端に位置を取る。
さっきとほぼ同じタイミングで先輩が何かに驚く。
そして光子貫通弾発射だ・・・。
先生の身体に着弾するが闇細胞の核は外れる・・・。
(この距離で避けられたか・・・)
ブツッ・・・
魔力切れだ。
(核の位置は分かったけど)
「ごめんごめん、先輩・・・お弁当いただきます・・・」
「疲れているの?景真くん」
「まあちょっとね」
(攻略方法を考えないと・・・)
―――検討に検討を重ねていたためにあっという間に放課後だ。
旧校舎へ向かう、危険なことはメッセージには残さない。
直接編集長を呼んで話すためだ。
中庭で誰かと誰かが言い争いしている。
「紫苑様!いや紫苑!男と女として付き合って欲しい!」
「ないわ・・・」
「好きな男がいるのか?付き合ってる男はいないはずだ!すでに強大だが自分なら風間家をさらに強大にできる!約束する!2人で風間家を統治しよう!」
「好きな男とか関係ないし、よけいなお世話よ、統治って頭わいてんの?」
「誰か好きな男がいても構わない!いくらでも待つ!」
「・・・ないわ」
「昔から好きだったんだ!全くゼロパーセントじゃないだろ?」
「ないわ・・・」
途中から角度的に女性とは目が合っていた、風間紫苑だ。
完全に僕と目が合っている、知らないふりして通り過ぎよう。
「全くか?理由を言ってくれ!納得できる理由を!15年ずっと紫苑だけが好きだったんだ!」
「生理的にムリ・・・」
ドクン!
なんだ、今の反応?
その後ろ姿の男からだ・・・今一瞬「ムリ」って言葉の後に空間が揺らいだぞ・・・闇の反応だ。
「あ、ねえ景真、一緒に帰ろうよ」
話の途中っぽいがなぜか紫苑がこっちに来る、それはいいが闇の種子持ちかこの男子は・・・。
「・・・」
「喫茶店行く?」
なぜか腕を組まれて・・・そこを通り過ぎると分かった・・・相手は隼人だ。やっぱり闇の種子持ちだ。
よくみるとショックなことがあったのか撃沈しているっぽい。
視線はどこを見ているか分からない。
って・・・ゆっくりとこっちを向いてくる。
怖い顔だ・・・。
ん?しかも殺気だ。
暗い気配、血の気の多い男だ。
まただ、この感覚、隼人からだ。
少し遠いがとっさに隼人を霊視する。
(この距離で見えるのか・・・闇の種子が急激に蠢いている。そして一回り大きくなった。隼人の負の感情が膨れ上がった瞬間だ。そこから紡がれる答えは・・・)
「ねえ行くでしょ、何とか言ってよ」
腕を組んでいる紫苑はすごく柔らかい陽のオーラが出ている、うん紫苑と隼人は対照的だな。
世の中は陰と陽のバランスでできているようだ。
ひょっとして隼人に嫉妬されているのかも・・・ただの幼なじみなだけなのに。
「ねえ聞いてる?」
「うん、いま考え中でね・・・」
(闇の種子は負の感情で育つ?・・・ありうるな。むしろ今までの事例とも一致する)
「考え中って、あたし頑張ってたでしょ?」
「・・・?ああ、うんうん」
(負の感情で育つという仮説は我ながら興味深い、編集長と夜にでも話すか。もし失敗した場合は編集長に異能警察に連絡してもらわないといけない、その場合瑠璃華先輩はどうなる?・・・さらには)
「ねえ聞いてるのってば?」
「聞いてるって・・・」
「じゃあ答えてよ」
「え・・・なんの話し?」
―――編集長は夜、近くの公園で会ってくれた。
もちろん探知不能結界を張っている。
「負の感情で闇の種子は育つ、か。その仮説、ほぼ立証済みというわけであるな」
「今日一日で確信したよ」
「嫉妬、怒り、絶望、傲慢、強欲・・・戦わずして奴らは育つ、しかも闇の対抗属性である光能力者を喰らう」
「まあそうなるね」
「厄介極まりないのである」




