第6話 『あふれる黒』
景真は夢の大書庫にいる。
レベルがあがり様々な機能が使えるようになっている。
検証したいが他にすることがある。
巨大な柱時計のある薄暗い部屋だ。
昨日のとある時間に戻るのだ。
(この能力は僕の能力の中で最も強力だ)
柱時計が巻き戻っていく。
昨日の午後3時10分頃に戻る。
まだ2-Aの教室だ。
だいたい24時間前まで戻ることができる。
「景真、暇なら・・・い、いっしょに帰らない?」
「ああそうだ、聞きたいことがあったんだけど・・・」
「え、わ、わたしに・・・」
本当は昨日は「いや2-Jに用事がある・・・」と言ってさっさと教室を出たのだ。
「ちょっと聞きたいんだけど能力強化委員会の春季講座って受けた?」
「いいえ受けていないわ・・・」
(なんだ受けていないのか・・・闇の種子関係のことは何か知らないだろうか・・・様子のおかしな生徒とか)
「様子がおかしいのはあなたでしょ・・・最近一緒に帰ってくれないんだから・・・」
・・・ブツッ・・・
あれ・・・。
もとの柱時計の部屋だ。
いきなり切れたぞ・・・過去認識・・・。
非常に強力な術だ・・・夢過去認識と呼んでいるが。
過去に戻って好きなようにやり直せる能力だ・・・実際に過去が変わるわけではない。
ただし紫苑からどんな情報を得ても現実の紫苑はそれを知らないわけだ。
(過去へ戻ったとき、そこの時空間に数時間はいられるはずなのに・・・3分くらいで戻ってきてしまった)
ま、まさか。
ドウマンを倒してから久しぶりに過去認識を行ったのだが・・・弱体化している?
・・・数回紫苑との会話をやり直したが答えは一緒だ。
正確に測っていないが3分ほどしか保てない・・・それに5、6回で疲れてしまう。
(はあ・・・まずいぞ弱体化している・・・生き残る唯一の能力なのに・・・)
継母や風間当主の情報はこれで集めたのだ。
いくら盗聴や尾行がバレても夢の中の話だから現実とは関係ないのだ。
現実では一度もないが宿敵である風間家当主とは幾度もさまざまなシチュエーションで会話を交わしている。継母の弱みや恒一の秘密もそうやって・・・。
(今はそんなことはどうでもいい・・・どうしよう)
ドウマン戦はこうして夢の中でだれに来気付かれず数百回戦って勝利方法を編み出したのだ。
夢の中で僕自身が大ダメージを負わなければ6時間以上とある時間から検証が可能だったのだ。
(ドウマン戦のような検証はもうできない・・・ああ翼をもがれたな)
もちろん次の日の授業は全て憂鬱だ。
だが午前中のわずかな休みにきちんとやるべきことはした。
そしてなかなかの驚きもあった。
―――編集長とは人気のない場所で短く情報交換した。
弱いが探知不能結界で自分と編集長を包む。
「ふむ、やはり全員が種子持ちであるか・・・すばらしい確定情報である」
「個体差はある・・・」
「例の化学教師が怪しいのう・・・」
「悪いんだけど何も聞かずに霊峰息吹の情報も欲しい・・・」
「む?・・・了解である」
「それよりも王様よ、龍王家には何かが起きる。起きつつある・・・もしくは手遅れかもしれんがのう・・・弟は高級車でボディガード付き・・・ここに至って龍王家へのネット記事の辛辣さよ」
「まあ今はどうでもいいけど・・・」
長い付き合いになる予感がする。
であればもう少し彼も詳しく霊視してもいいかもしれない・・・。
やっぱり・・・レベル2雑魚・・・。
能力特性も一般人よりは高い程度・・・。
ん?精神耐性・・・高い?
なんだこれ・・・。
知力155・・・!
精神力256だって・・・!
どっちも学園最高値だ!
ほぼあらゆる精神波攻撃無効・・・
こいつギフテッドじゃないか・・・
―――ひょっとして彼らとの出会いはプラス材料なのかもしれない。
(ただここで能力低下は痛い・・・数時間を数百回と3分5回では検証のレベルが・・・ああもう昼だな)
・・・闇の種子事件に自身の能力低下、霊峰息吹の封鎖・・・考えることは山ほどある。
屋上に独りで黄昏に行こう。
しかしあの編集長は自分の能力に気づいているのか・・・。
どうやら屋上で一人で考えるのは無理なようだ、だれか真後ろにいる、だれかも分かっている。
「どうしたの、辛気臭いわね景真」
「あ、紫苑か。気づかなかったよ」
数秒前には気づいたよ。
『おい美人ランキング1位だ・・・』
『まじ!本人じゃん紫苑サマだ・・・美人すぎる』
男子どもの声が聞こえていたからだ。
「どうせお腹空いてるんでしょ、パン食べる?ん?・・・食べないの?」
(どうにもこの紫苑は世話を焼くのが好きみたいだ、うざいったらありゃしないが・・・)
「食べるよ・・・」
「なんかショックなことでもあったわけ?お姉さんに相談しなさいよ?」
「だれがお姉さんだ、3か月年下じゃないか」
「あら誕生日覚えてくれててうれしいわ・・・」
何も考えてなさそうな・・・いやちょっと頬が赤いが・・・その紫苑の顔がぐっと近づいた。
(喋らなければまあ美人なほうなんだろうけど・・・はあもう一人来た。だからこいつらは嫌なんだよ)
身長は僕よりかなり高い、眼光も鋭くキビキビと歩く、訓練された歩き方で隙がない。
「紫苑様!こんなところで何をしているんですか?おや景真もいっしょか」
知ってて着いて来てるんだろうに。
2-Aのクラスメイト鷹城隼人だ、風間紫苑と同じく風属性の名家出身の嫌な奴だ。
会うたびに嫌味を言われる。かなりの強者だが紫苑には遠く及ばない。
「こんな弱っちいやつと次期風間家当主がいっしょにいるべきではありませんよ」
「なんなの、あんた?」
「自分はお父様から紫苑を守るように言われていますからね」
「・・・いつからわたしを呼び捨てにできるようになったわけ?」
「は!いえこれはこれは・・・申し訳ありません。紫苑様」
「呼ぶまで来なくていいわ・・・下で待ってて!」
そう言われた瞬間、隼人は滑るように去っていった。
思い出すといつも景真の前で紫苑と隼人はケンカしている。
子供っぽいが隼人は紫苑のことが好きなようだ・・・それは分かる。
紫苑はそれに気づいていない様子だ。主従関係をまず乗り越えないと隼人に明日はないだろう。
「ほんと男って鈍いのよ・・・」
「隼人のことだね」
「・・・半分は正解ね・・・」
「え?」
そういった瞬間、紫苑は両目を見開いて仰天していた。
「え?」紫苑がそうつぶやくと。
金髪の美女も「え?」と発した。
景真の後ろにはいつの間にか磐城瑠璃華が立っていた。
というか瑠璃華は景真を軽くハグしていたのだ。
周囲の男子の視線がわれわれに集中している。
紫苑の右の眉がピクピク動いている。
「だ、だ、誰よその女ぁ!」
「ああいやあの・・・あ、友達の・・・」
がっつりと僕は睨まれて瑠璃華先輩に凄んだ後でズカズカと紫苑は去っていった。
明らかにそこには殺気が漂っていた。
―――ヒソヒソと周りから声が聞こえる。
『美人コンテスト1位と3位とあの男子だれ?』
『あれって龍王家じゃないの・・・例の無能王子・・・』
『無能の兄の方!』
これ変な噂たつんじゃないか・・・。
瑠璃華先輩は周りの目は気にならないらしい。
「ねえ、お弁当作ったんだけど食べてくれる?」
「うん、もちろん」
「そのカレーパンはどうするの?」
「もちろん食べるよ」
「ふふ・・かわいいね景真くん」
「先輩、向こうへ行きましょう。30秒だけ休みたい・・・」
実は匂いがしたのだ、霊視はしていないが間違いない。
それに彼も能力向上委員会の受講者だ、隼人の能力なら必要ない気がするが。
そして壁にもたれた瞬間僕はもう書庫に飛び込んでいた。
すぐに柱時計の部屋に入る。
(過去をやり直して検証する・・・瑠璃華先輩が来る少し前だ)
―――時と場所はほんの少し前の屋上に戻っている。
紫苑とまだ二人きりだ。
制限時間は3分・・・。
「ほんと男って鈍いのよ・・・」
「ちょっと紫苑・・隼人と話してくるよ」
「え?なんの話し?わたしの話なわけ?そんなことしなくてもわたしの気持ちは・・・」
そこに瑠璃華先輩が近づいてくるが無視だ。
1回目・・・隼人はイラつきながら階段を下りている。躊躇せず魔槍で後ろから隼人を狙う・・・だが防がれた。隙無いな。しかも全身魔装までが早い・・・やり直しだ。
2回目も失敗した上に紫苑を巻き込んだ。
3回目は成功した・・・隼人の下腹部に寄生している闇の細胞の核を僕の魔槍が貫いた。
「実は隼人、君は寄生体に・・・」
―――ゴッス!!
(痛ったい!)
鋼鉄のハルバートが僕の左腕にめり込んだ、余裕で折れてる・・・。
殺意の塊のような隼人の一撃だ。
・・・しかも止めに来た生徒たちを薙ぎ払っている・・・え・・・暴走?
紫苑が僕を助けに来てる・・・やり直しだ。
4回目・・・だめだ。闇の細胞破壊には成功するが隼人が襲い掛かってくる、逃げるが生活指導の先生たちが魔装してやってくる・・・このままだと捕まる、失敗だ。
―――はっと目を覚ます。
久我真白と瑠璃華先輩が僕の顔を覗いている、ほっとしたようだ。
ほんの少し寝ている間に久我真白もやってきていた。
「顔が青いわ。景真くん」
「大丈夫ですか、景真さん」
(1分も寝ていないはずだ・・・それより検証は失敗だ・・・隼人と敵対してしまう・・・とにかく・・・)
(とにかく今日のランチは豪勢だ・・・紫苑からカレーパン・・・瑠璃華先輩から手作り弁当・・・そして久我真白からもカレーパンだ。素晴らしい、夕飯分まである感じだ)
「いや食べるよ・・・もったいないし・・・」
(隼人はすぐには助けられない・・・でもあの殺意は一体・・・)
―――その日の夜。
汗びっしょりで僕は自室で目覚めた。
過去を検証したのだ。
検証する時間と場所は決まっている。
今日の朝へ戻る。
瑠璃華先輩から聞いた時間――08:23だ。
化学準備室へ行く。
「あれ?景真くんどうしてここに」
「先輩が教えてくれたんですよ」
5回も6回も試す必要はない。
入って行って間近でみるだけだ・・・どうせ夢で現実じゃない・・・体感ではほぼ現実だけど。
ノックもせずに化学準備室に入る、男の先生が一人いる、容疑者の1人・・・大河原先生だ。
「なんだね?君は・・・おお磐城君もか・・・」
無視して45センチまで近づく・・・そして霊視・・・。
「無礼じゃないか、君は・・・」
その瞬間・・・先生の身体は大きく膨れ上がり脈打った、服がメリメリ破れていく。
バレた・・・先生の中にいる何か黒いものは人間の殻を破って出てこようとしている。
とんでもないレベルの・・・この反応はなんだ?・・・霊視しても正体が読めない?
―――ま・・・真っ黒・・だ・・・急に世界がそこで途切れたような感覚。
井戸を真上から見たら真っ黒い無限に続くような闇の世界が奥底で広がっているよう。
そんな感覚だ。
大河原先生の顔はそのままで身体は黒く5倍くらいに膨れ服は破けて身体はひび割れて中から何か邪悪な何かが出てこようとしているのを見て僕は撤退した。
ショックで柱時計の部屋じゃない・・・夢から覚めてしまった。
こんなに全身が寒い・・・こんなの初めてだ。
(あれはもう人間じゃない・・・あの寄生体はもう成虫だ・・・いつでも・・・すぐにでも出てきておかしくない)
(レベルも正確には読めない。羽化して出てくればもう少しきちんと霊視できるだろうけど・・・ひょっとしてドウマンクラス?・・・僕の勝てる相手じゃない・・・もし夢が現実になれば全校生徒の半分は死ぬな、だれも倒せないぞ・・・)




