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第3話 『夢の中なら、強くなれる』

光が差した気がした。

(ひょっとしてレベルアップしなかったのではなくてレベルアップが遅延している可能性がある?)


結界内で討伐しさらに自身は結界外で対象物と隔離されていた場合、討伐報酬が帰属しない可能性がある。しかも多重結界だ・・・。


文献ではこれを使って能力の成長時期をずらせる・・・?


レベル12は本気で練習すれば2、3年だろう・・・一般人よりはそこそこ強い程度だが、レベル40は違う。

10レベル上がるだけで魔力出力はだいたい3.3倍になる。

例えばレベル12からレベル42まで30上がれば、単純計算で約33倍だ。

戦闘能力ならそれ以上の差になる。二十歳以下では最強と言っていい存在になるだろう。


才能ある異能者が20年死ぬほど修行し到達するものがわずかにいるかどうかがレベル40の世界だ。この国で一番レベルの高いわが校の最強女子でさえレベル30前半だからな。


(ドウマンを討滅した時点で多重聖域結界は完全に閉じていた・・・魔晶石の反射を使っていたからな・・・)


この仮説を証明するには霊峰息吹に行けばいいのだすべての結界をくぐればいい。

もちろん上手くいくか確証はないが・・・。

そしていくつも仮説を立てる必要がある・・・仮説を一つしか作らないのはバカと一緒だ。


(うん検証はここまででいい。現実にもどって本当に寝よう・・・だいたい魔力のほとんどを失い疲れているはずなんだ)


―――キュン!




次の日―――。

学校では噂でもちきりだった。


―――異能士協会本部が襲われたらしい―――

―――2-Aクラスは数名休んでいる―――

―――あいつらが本部に見学に行った日に襲撃って運悪い―――

―――大きい声じゃ言えないし非公式だけどドウマンが出たってよ―――

―――おいおい最強の要塞じゃないのかよ―――


そもそも大きなニュースになっていた。

日本異能協会総本部の一角にそびえる霊峰息吹の頂上で大規模な戦闘が行われたというのだ。


最高レベルの魔性生物であるドウマンが封印を破って逃げているのはこの高校の生徒なら知っていた。

それに東都異能高校の生徒の親族には多数の協会関係者がいるわけであっという間に真実は噂として知れ渡っていた。


―――ドウマンと戦ったらしいぜ―――

―――さすがだな、倒したのか―――

―――それはないない、あそこは化物みたいなエージェントが常時3千人はいるんだ―――

―――神話に出てくるレベルのモンスターだろ、どうやって倒したんだ―――

―――あいつら入院してるらしいー――

―――いや検査入院だって―――




そういうわけでわが2-Aの教室は休んでいる者が数名、さらに引率した担任も休んでおり、職員会議も長引き今日は半分ほど自習・自由行動だった。

おかげで図書館に入り浸ることができた。


この高校の図書館の蔵書はかなり多い。

なにかほかにもヒントがあるかもと思ってそれっぽい本を読むのだがたいした情報はない。

このレベル12だとかえって危険なのだ、いつでも殺せるだろうし急激にレベルアップしてるなんてバレるのもヤバい。


(使える情報が欲しい・・・切羽詰まってるくらい危ない・・・自分が死ねば自分だけじゃない龍王家の歴史も終わりだ)


自習時間のたびに図書館へ向かう、でも学校の蔵書では手詰まりに近い。


そして五時間目が始まる・・・また自習だ。

金髪の長身美人とすれ違う。


男子生徒たちがざわつく。


「磐城先輩だ」

「勝手に美人ランキングで校内3位だってよ」

「でもあの人最近様子おかしくないか?」

「雰囲気が大人すぎる、スタイル好きすぎる」

景真は一瞬だけ見る。


磐城瑠璃華は3年生女子だ。

名前はもちろん知っている、3-Aだから彼女も特別クラスだ。


気だるそうに少しブレザーを着崩して着ている、スカートもかなり短い。

髪をかき上げるしぐさと目つきは妖艶ですらあった。


もともとエリートのはずだが2年生のトップ3名には全く歯が立たない。もちろん大会にも出れない。というか全国最強クラスの超高校級異能者がたまたまうちのクラスに3人いるのだ。3年生はたまったものじゃないだろう。個人戦代表に3年生は一人もいない。


彼女は2年生の前期までは個人戦代表者の1人だったのだ。

追い落とされたわけだ。


にしても美人だ・・・。

それにしても午後は学校中が自習だが一人きりでどこ行くんだ?


図書館でもないし。

だいたい3-Aは自習なのか?


それにすれ違った時のこの匂い・・・?

香水かな?

なんだろう不思議な?


少し距離を開けて磐城先輩について行く。

急にすこし興味がわいたのだ。

この匂いって?

他の人は気づいていないようだ・・・


(霊峰息吹は完全に封鎖された、部外者どころか関係者も入れない・・・まあ当然だ・・・忍び込むのは無理だし・・・同級生に頼むのも無理だ・・・しばらく無期限に閉鎖されるとの噂だ、警備も厳重になるだろう・・・これは慌てないといけないが慌ててもどうしようもないな)


図書館にめぼしい情報もなくすることがなくなっていた。

学校ですることはもうない、情報収集も終わりだ。

それで匂いにつられて金髪美女の先輩をなんとなく追いかける気になった。

去年の先輩はあんな死んだ目していなかったし、もっとなんていうか清楚だった・・・毎日練習していたのに・・・。


―――化学準備室―――

そこに入っていった。


(あいにくと僕の五感は鋭くてね・・・壁一枚くらいなら・・・)


中は誰か先生がいるようだ。


「遅かったね、磐城くん、では進路相談を始めよう・・・」

「・・・はい。先生・・・」


(ん?近いな・・・なんだこれ・・・これってまさか・・・)


「龍王景真さん・・・なにしてるの・・・」

「はあ?」飛び上がるほど驚いたが両手で声は抑えた。

磐城先輩を気配を消してつけていたら誰かに尾行された訳だ。


「え、なに・・・」

「あたしよ・・・」

「はあ?」

「久我よ。久我真白。去年同じ保健委員だった」

「ん?ああ?」


全く覚えていない。

黒髪のショートカットの子だ・・・胸元を見る、2-Hか全く知らない。


「磐城さんを追いかけて告白する気だったの?」

「はあ?・・・いやいや進路相談だよ・・・ここに来たのは・・・」

「ふぅううぅん・・・これは失恋かな、あんなおじさんとねぇ。あたしだったら嫌ね・・・じゃ代わりにあたしとイイことする?」

「はあ?」

「冗談よ・・・喫茶店でも行かない?今日休みみたいなものだしさ?」


数値化する。

こいつ戦闘力は・・・レベル2・・・無属性・・・。

なんだゴミじゃないか。

気配消してたけどまあ姿は丸見えだよな。

おごってくれるなら行こう。




―――本当に喫茶店をおごってくれるとは。

「いやあ本当にありがとう。おいしかったよ」

「そぉ?・・・本当に去年5回は話しかけたのよ」

「覚えてるって・・・」

何一つ覚えていない。


「このあとどこへ行く?」

(なんなんだ?この子?何がしたい?それならそうだ・・・)


「そんなに暇ならさ・・・久我さん」

彼女の目を見ながら喋ると向こうも見つめ返してくる。




―――もう夜だ、バスを降りる。

人気のない坂道だ。人もいないし車通りもそこそこだ。


僕は背の高い金髪の女性の後をつけている。

もう暗い。


すこしずつ距離を詰める。


金髪の髪をふわりとなびかせて磐城瑠璃華が振り向く。

確かに人目をひく美人だね、その表情は見るものをなんとなく不安にさせる・・・。


「あの何か用ですか?・・・あなたうちの高校よね」


緊張の一瞬だ、予想通り気づかれた。

その瞬間、速やかに魔装武具を生成。

僕は何か言いたげな彼女の下腹部に刃部分が光り輝く魔槍を深く突き刺した。


「うっ!あ、なにを!」


彼女は訓練された異能者だがここ最近は練習不足のだし、虚を突けば容易かった。

ゆっくりと槍を引き抜くと彼女の目は光を失い、どうっと倒れた。


引き抜いた魔槍には黒いアメーバのようなものが蠢いている、わずかだが魔力を発している。

破裂するように一瞬大きくなりそしてその黒いアメーバは消えていった。


「これが匂いの原因か・・・」

(異能者にとりつく細胞?寄生型?ほとんどの探知魔術に引っかからない・・・なんだこれ?僕にだけ見える?匂いもか?)


「久我さん?見えた?」

ひょこっと景真の真後ろから久我真白が顔を覗かせる。


「ああびっくりした、本当に刺すなんて・・・ケガはしないのね。その武器、便利ね。でも、ええ、見えたわ。気持ち悪い・・・なんなの?呪いなの?」

「わからないけど多分そう」

(たぶん違う・・・もっと邪悪な・・・もっと闇そのものに近い感じだ。呪詛なら本人も周りも気づく。ここは異能者のエリート高校だぞ・・・ほぼ全員が超能力者だ・・・)


実は彼女を追っていたのは理由がある。

妙な匂いを嗅いですぐに霊視していたのだ。

磐城瑠璃華の体内には、黒いナニカがいた。

印象としては何かの悪意を物質化したような。

蠢いていたが最初はそれほど大きくない塊だった。

だが時間とともに成長していた。

下腹部から伸びた黒い触手は広がり、その一つがウネウネとゆっくりと脳へ向かっていた。

(まずいな……)

光属性の影響なのか、僕にはそれが見えていた。

だが本人も周囲も全く気づいていない。

(なんで周りの異能者に見えない?先生は?)

異能者の探知能力にも反応していないようだった。

呪いとも違う。

妖気とも違う。

もっともっと暗くて不気味な何かだ。

そして――。

もう少しで触手は脳に届く。

猶予はなかった。

そして問答無用で黒い寄生体を狙ったのだ。

光の魔槍で貫いた腹部には傷一つありはしない。


・・・ちなみに久我真白には保健委員なら手伝えっと言ってついてこさせた。


―――近くの公園に磐城瑠璃華を二人で連れて行く間に彼女は目覚めた。


「信じるわ。声が消えているの。ずっと調子悪くて誰かに見られて何かに引きずられるみたいに声がずっと聞こえていたの・・・それが消えた」




―――3人でしばらく話し込んだ。


「一番輝いていたのはインターハイで16位入賞したときね、それ以来あたしは落ちるとこまで落ちちゃったんだ」

「ん?あ!インハイって決勝トーナメントは確か協会本部でやるよね?行ったんだ?協会本部に?」

「ええ……16位になると霊峰息吹の麓で儀式があるの」

「魔晶石との契約もそこで行うわ―――」


その先は聞いていなかった。

霊峰息吹。

協会本部。

結界の内側。

僕が取り逃したものがある場所。

レベル12のまま死ぬか。

それとも――。

「全国大会で16位以内に入る」

僕は初めて明確な目標を口にした。

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