第2話 『夢の大書庫』
汗びっしょりで自宅の自室に逃げ帰った。
広い邸宅をどう走ったか覚えていない。
廊下で使用人二人とすれ違ったがどうでもいい。
どれだけ考えても分からないのだ。
ショックは続いているが山から転げ落ちた時とは比べものにならないほど冷静だ。
(次の手を考える前にもう一度再検討だ・・・レベル12はショックすぎる。どこかでミスったはずだ?どこだ?)
もちろん1日でレベル1から12にアップでも十分おかしいのだが、普通は数年かかる。
よし!徹底的に原因を追究してやる。
じゃあ・・・寝よう。
服も脱がずにベッドに横になる。
すぐに自分を取り巻く世界は暗くなる・・・安寧の夢の世界だ。
そして―――青白い光の扉が現れて左右に開いた。
だだっ広い部屋の中心に僕はゆるりと降りていく。
巨大な本棚だらけの書庫だ。
何か白いものが顔面に飛びかかってくる。
(うわっ!)
白いモフモフだ。
―――キュン!
ああ!
忘れてた、唯一の味方だ。
子狐のきゅんちゃんだ。
契約によって授かった僕の召喚獣だ。現実世界に呼び出すと魔力切れで一瞬できえてしまうがここなら問題はない。
光属性の召喚獣だ。
そしてここは龍王家に伝わる夢の大書庫だ、入れるのは僕だけだ。
よほどうれしいのか僕の周囲を走り回っている。
この子とは精神でつながっている。
僕がパニックになっていたのも感じ取っていたのだろう。
「ってあれ?いつもより少し太った?いや大きくなってないか?」
澄んだ瞳で少し顔を傾けで僕の顔を除いてくる・・・うん、僕から生まれたと思えないほどかわいい。
―――ああそうか、自分のレベルが上がったからそれに連動して成長したのか。
―――まあそんなことよりも、だ。
(なぜ失敗したのか検証しなければならない、ここなら少々時間がかかってもいい、それについさっきレベルが上がってできることが増えている可能性もある)
―――スーパーレアな属性と言っていい夢属性。
たぶん自分以外にこの属性を使いこなすものはいない。
日本異能士協会の研究院でさえ知る者はいない。
ここで何ができるのか。
まずは膨大な情報を記録・記憶できることだ。
8歳にして龍王家の大書庫を引き継いだ。
また現実世界の1分前後でこちらでは2時間以上の検討ができる。
他にも―――。
―――キュン!
また鳴いた。
契約と自分の精神力で作られた召喚獣だ。
現実世界に呼び出すとレベル1の僕には魔力消費が激しく一瞬で消えるが。
ここなら問題はない・・・ずっと遊んでいる。
それにレベル12になりすこし大きくなっている。
ステータスを数字化して見れば筋力も上がり俊敏性も増している。
―――キュン。
でも相変わらず話し相手にはならない。
キュンキュン言うのできゅんちゃんと呼んでいる。
話し相手になればな・・・。
でも必要な本を探してきてくれたりする。
―――今までは無理だったがひょっとして地下で戦闘訓練できるかも・・・。
それより検討しないと。
やっぱり何度見ても時間をおいても自分のレベルは12のままだ。
最低35は必要で、ドウマンを倒せば40を超えている計算だった。
40だとエージェントとしてもかなりの強さだ、これなら人災にも天災にも抗うことができる、異能者として超越者と言っていいレベルなのだ。
幾度も検討したのにどうして間違えたのか分からない。
強敵を倒せば自身の霊魔力回路に負荷がかかりレベルアップ・・・急激に成長する。
レベルアップは1人で練習するより同じ異能者と練習したほうがいいし、さらには魔族や妖など魔性生物と命がけで戦うとさらに効率いい。その上自分より格上を倒せば格段に霊魔力は成長し跳ね上がる。
つまり50年分の修行を一瞬で終わらせるつもりだったのだ、しかもそれを誰にも知られないという理想的状況・・・敵だらけの僕には生き延びるために必要だったのだ。
計算では。
ここではふさぎ込んだ変な顔をしても別にいい、他人はいないからな。
「ああ、きゅん大丈夫だよ・・・」
―――気分を変えて別の部屋に移動する。
ここ夢の書庫には闘技場もあり情報を検証する部屋もある、行ったことないが地下にダンジョンもある。
移動しながら考える。
最重要危険魔性生物に分類されるドウマンを誰かが結界外から狙撃して1撃で倒した。
これはすぐに協会本部の知るところになるだろう。
龍王景真がやったなどと継母たちにバレれば大変なことになる。
無能だと思われているからまだ生きているのだ。
ふう・・・。
溜めた魔力も失ってしまった。
8年も溜めた魔力を開放したのだ・・・一発だけ切り札の弾丸を持っている状態だったのだ。
ドウマンを1撃で仕留められたのはこの夢の書庫で猛練習したからだ。
残ったのはレベルたった12・・・これだけか。
―――着いた、ここは様々な記憶を検証する部屋だ。
ここでは自分の記憶はもとよりこの書庫の主だった人物たちが残した記憶・記録も見ることができる。
レベル差のある魔性生物を倒せば膨大な経験を積んだこととなりレベルアップする。
これは間違いない。
この謎が解き明かせないと僕の人生はすぐに終わりを迎えるだろう。
僕には時間がない。
継母が風間当主に言った言葉を思い出す。
「私たちの息子をいつまで待たせるの?」
あれが答えだ。
もちろん二人は遠く離れた僕が聞いているなんて予想もしていないだろうが。
つまり龍王家を継ぐのは風間家の弟というわけだ、まあこの事実・・・弟は知らないだろうが。
龍王家は既に分家もない。
自分が死ねばこの夢の大書庫も一族の奥義もあらゆる知識も歴史も・・・そして龍王家の長きにわたって世界を守ってきた尊い精神も多くの犠牲も背負うべき責務も全てが胡散霧消するだろう。
孤立無援・・・戦力自分だけ・・・戦場で援護射撃はない状態は生まれた時から続く。
でもピンチはチャンス・・・ずっとピンチだが・・・こういうギリギリも知的に楽しまないとな・・・。
独特な考え方だ・・・一人きりでも命を落とす本当にギリギリまで限界まで・・・自分を高めて人生を楽しもう・・・。
「きゅん・・・レベルアップに関する本や資料を集めてくれ・・・再検討する・・・」
―――キュン!
言われなくてもきゅんがはもう数冊の本を運んでくれていた。
半分くらいはすでに読んだ本だ。
「再検証だ・・・」
しばらくしてその中の一冊を開いた瞬間。
僕は動きを止めた。
「……なんだ、これ」
そこには見覚えのない記述があった。
『結界を用いた討滅報酬の帰属遅延方法』
『―――ただし対象が聖域級結界内で消滅した場合――』
僕は本を取り落としそうになった。
「……まさか」




