第11話 『水属性』
翌日午後15:10。
ホームルームの終わりに・・・。
2-A担任赤木悦子先生は、名簿を見るなり目を潤ませた。
「龍王君・・・」
「はい?」
「先生、信じてたの。いつか校内戦に出る日が来るって」
「・・・」
「よく決心したわ。結果はどうでもいいの。過程が大事なのよ。その心を大事にして」
「ん?」
「応援していますからね」
2-Aの自分以外のクラスメイトは、とっくに参加している。
そういう意味で景真は困惑した。
一番最後に出場申請しただけなのに・・・全員参加がうれしいのか。
(僕ってそんな泣くほど問題児だっけ・・・?)
だれかがヒソヒソ喋っている。
『・・・落ちこぼれがやる気出して熱血教師が感動するパターンだな、クソが・・・』
『・・・まあ来い、ひねり潰してやる・・・』
わかった隼人だ、でも残念ながら個人戦には出ないのだよ、君とは戦わない。
―――携帯で確認する。
(なになに・・・一日3戦。相手は予選運営から指定する。30戦から45戦ほどして、ポイント制で8チームを選抜する。それから8チームで総当たり戦・・・ほう。ポイントが近いものどうしがマッチングしやすい。参加できない場合は事前に連絡必要と。指定の体育館闘技結界内で・・・)
エントリーしてるのは140チームか・・・。
結構多いな。
まあ個人戦の680人に比べたらいいか。
(昨年もペアを組んで予選を戦ったものはポイントが最初から加算されています・・・つまりポイント的には上級生有利か・・・1年生と初めて参加するペアは1000ポイントから開始、昨年ポイントを稼いでいたペアは成績により1000から1400ポイントで開始)
(なるほど400点ビハインドか・・・まあとにかく勝つしかない、昨夜特訓して秘密兵器があるし・・・)
そう、それは特殊魔装鎧だ・・・鎧というか兜でもないが、サングラスとゴーグルを足したようなものだ。防御力はゼロだ・・・それだけじゃない攻撃力も上がらない・・・探知力はもともと自分は高い・・・。
「それって魔装なの?、ゴーグルみたいな?かっこいいかも景真君」
「月乃さんこそ白いジャージが似合うね。前の高校のかな」
「ええそうなの、合うのが無くて特注だけどね」
「そうだ、言っておかないと・・・僕は戦闘前に数秒瞑想するので話しかけても返事できないかもしれない」
「そういうルーティンがあるのね」
―――怒気堅固―――
話しながら簡単な術を発動・・・誰も気づかないだろう。
さて第一試合が始まる。
僕はほんのわずかだけ目を閉じる、サングラス型の魔装のために周りから目は見えない。
先ほどの術があれば、一瞬眠っても倒れることはない・・・怒気堅固は、姿勢保持の気功術だ。
夢の書庫に入るには数秒でも寝ないといけないからな。
「ふうっ!」
「どうしたの景真君?」
まじまじと月乃さんの顔を見る。
(まじか・・・まじか・・・)
「いやなんでもない、始めようか」
相手ペアは二人ともレベル15の1年生だ。
会場からは失笑が漏れている。
龍王景真・水瀬月乃ペアのせいだ。
レベル1と水属性のコンビで二人とも魔装できない。
そして月乃さんは4人の中でもひと際大きかった。
『見ろよ、ヤバいぞあいつら』
『魔装なしで戦うのかよ』
『無能兄ちゃん死ぬなよ~』
『病院送りだな・・・それで夏川先生来てるのか』
『弱そー』
開始三秒。
向こうは最初から魔装鎧をまとって闘技場に上がっている。
僕は黒いジャージで水瀬月乃は白いジャージだ。
「景真君」
「うん?」
「任せてもらっていい?」
「もちろん」
そう言って月乃は静かに両手を合わせた。
大量の水が空中へ集まる。
ゴォォォォォ……
―――大瀑布―――
大量の水がそれこそ滝のように降ってくる。
『あの丸っこいの自分を攻撃してるぞ』
『あんな量の水、結界内に?』
そう、凄まじい勢いで落ちてくる大量の水は飛沫をあげて月乃さんに降り注いでいる。
僕は後ろへ飛び、相手の二人も距離を取っている。
大量の水は月乃さんを包み込んで球体になる。
直径三メートル強。
さらに圧縮・・・。
そして表面は超高速回転。
凄まじい水しぶきだ。
(予知で見ているけど、すごい迫力だ・・・)
景真は戦う気もなく観察している。
「行きます」
そう確かに聞こえた。
―――ゴォォォォン!!!
巨大な水球が転がった、いやすごいスピードそして重量と迫力。
山が迫っているように見えるだろう。
直撃すれば、コンクリートの塊のように感じるだろう・・・表面は超高速回転している。
水しぶきはカミソリ並みに切れる。
唖然としている一年生ペアは我に返ったようだ。
「避けろよ!」
「おおう?・・・いや、間に合わない防御するしかない」
「刺し違えて止める、あとは任せる!」
そう言ってリーダーっぽい方が突っ込んでくる。
「はぁあああ!」
魔装武具である長剣で巨大な水球を水平に斬る。
―――ギンッ!
魔装剣が折れ飛んだ。
「え?」
キョトンとした顔のまま巨大な水球に轢かれた。
そして巨大水球は止まらない。
一人を弾き飛ばした勢いのまま、いやさらに速度を上げて少し方向を変え、盾を構えたもう一人へ突っ込む。
「うそだろ・・・!ふぅぐぁああ!」
轟音と断末魔。
闘技場全体が揺れた。
二人目は魔装鎧は粉々になり、さらに吹き飛ばされていた。
剣で切りかかったもう一方は轢きつぶされて闘技場にめり込んでいる。
・・・試合終了。
ヤジが飛んだりと騒がしかった会場はあまりにも規格外の戦いに静まり返っていた。
景真・月乃ペアは注目の的になっていた。
しばらくして歓声が上がった。
『なんだ今の・・・』
『た、玉姫さま、強すぎる!』
『見たか?』
『水属性の攻撃魔法だ』
『すげえ、言葉もねえ、強いよ!』
『こんなの予想できないぜ、めちゃくちゃだ』
『あの丸いの一人で勝ったぞ!』
景真はしばらく動けなかった。
(いや予知して見てるんだけど2度見ても驚くよ・・・水属性って・・・こんな戦い方するの?)
(表面は超高速回転、内部の水は静かだ、月乃さんの顔の周囲だけ空気だまりがある・・・あのスピード、あの重量、凄まじい圧力で回転する水・・・すごいダメージだ。直接触れている水を強力な念動で支配し自由に動かす能力・・・こんなのただの水だと思っていると・・・巨大な質量兵器だぞ。しかも表面は水の刃が無数に回転してると思った方がいい)
勝ち名乗りの途中でもう月乃は景真を見ながら照れ笑いしている。
ぶっ飛ばされた二人は養護教諭の回復魔術で事なきを得ているようだ。
結界内での学生の戦闘は致命的なダメージの場合は各人の周りに防御魔術でバリアがはられるのだが二人ともバリアの球体の中にいる。
「ダブルス誘ったのはあたしだからちゃんと結果は出すわ」
「いや、十分すぎる、予想通り強いね」
「あんまり驚かないのね、景真君、もっと驚くかなって思ってたんだけど。大瀑布の水も避けてたね。すごい観察眼ね」
「分析は得意・・・それにまだたった一勝だよ・・・頼りにしてるよ月乃さん」
その瞬間。
月乃は胸の奥が少しだけ温かくなる。
(ここにいていいのかな)
そう思えるだけで嬉しかった。
―――旧校舎。
17:55。
編集長は腕を組んで笑い続けている・・・試合を観戦していたのだ。
最近は毎日、景真と編集長は密会しているのだ。
「くっくく・・・これはいい、明日の我が異聞録の記事の見出しは決まったのである、革命・魔装せずに勝つダブルスの異端者!・・・ちょっとインパクト弱いのう。王様よ、なんだあの術」
「大量の水を召喚し球体にして操るのだけど・・・おっそろしく強いね、攻防兼ね備えているし」
「確かにのう・・・敵の魔術も直接攻撃も厚い水に覆われていて体まで届かん!」
「要は体当たりなんだけどとんでもない重量とスピードでひき殺される、いや死ぬわけじゃないけど」
「3戦すべて、6人全員が救命バリア発動させた上に病院送り・・・いやはや・・・なんという術なのであるか?」
「知らないよ、水魔法なんて」
「明日の見出しを考えねばならん!」
「水戦車とかは?僕はひき殺し体当たりって心の中では呼んでるけど、術名聞こうか?」
「いや構わん!にしても面白い駒を拾ったのう。」
景真は静かにうなずく。
「うん、僕は実力は隠したい、そういう意味ではベストなパートナーだ。先輩にお願いする気だったけど・・・彼女はしばらく休むかもね」
「まあそっとしておいてやれい・・・それより革命!鋼鉄水球姫!か?むういや違う!暴食水星!ロードローラーの化身・・・むう違う!」
編集長はぶつぶつ言っている。
(大幅に戦術の見直しだ・・・僕は防御に集中でいい・・・既にきゅんちゃんが適した術を探して分身が練習開始している。どんな戦い方もまず一晩もあればマスターできる、便利だな)
きゅんちゃんが分身を攻撃している、様々な術でタイミングをずらしながら。それを景真そっくりの分身が無効化している。
夢の書庫では、その頃すでに分身が光子結瞬(フォトンシールドの一種)という術での迎撃訓練を何百回も繰り返していた。
これは過去認識で大河原と戦った時に使った術で強力な防御魔術なのだがタイミングがシビアで非常に難しい高難度な術なのだ。
現実では一日。
夢では、3か月以上もの修練が積み重なっていく。
不安定なのだが、だいたい現実での一日は夢の書庫では120日前後となる、90日を切ったことはない。
―――今日は疲れたのでもう寝よう。
00:45だ。
(きゅんちゃん頼むよ、もう8時間は練習してるはず、魔力消費しないから無限に練習できるし、便利・・・とりあえず朝までね)
・・・景真そっくりな分身が魔法陣の中央で魔術を迎撃している。
―――光子結瞬―――
盾はあまりに一瞬でほぼ見えない。
攻撃魔術が突然空中でかき消えている。
5、6秒に一回きゅんちゃんが攻撃する。
属性は光・風・炎・雷でランダム。
タイミング、分身との距離も不定。
それを分身がかき消している・・・。
尻尾二本の白狐、きゅんちゃんはずっと計算している。
総迎撃率91.2321%
788245/864000
すでに現実世界換算で36日間・86万回以上も迎撃練習をぶっ通しで行っていた。
「単発魔術は100%迎撃できないと困ります。目標は1万発連続ガードです」
そして分身は無言で魔力を集中していた。
「時間は無限ではありません。ここからさらに難易度を上げます」
無表情に分身はうなずいた。




