俺はいらないもの
「うわ、ゲイかよきっしょ」
ああ、その言葉を聞くだけで、ビクッと、心臓が鷲掴みにされた気分になる。なんだか言い当てられたような気がして、着替える手が早くなる。冷や汗が背中をつたる。いやまあ、出たことがないのだけれど。
「ゲイは死んどけ」
また聞こえる。その言葉が。
もう、ずっと、何十回も聞いている。
「っていうか普通にきしょいよな」
わかってる、わかってるから。そんなこと知ってる。――ずっと知ってる。
俺の行っている中学校はこういう、ゲイとかレズとかは無理っていう雰囲気。みんなそれで遊んだり、ひたすらにヘイトをむけたりして、あまりそれに対して寛容的ではない。あまりっていうか、ほぼ拒絶に近い。主に男子がそれをことごとく嫌っていて、そういう同性愛者たちはこの学校にいないものとして喋る。さっきのも、俺に言ったんじゃなくて、別に男が好きではないであろう人に言っている。そして、言われた男子も大声を出してけらけらと笑い声をあげる。本当にネタなのだ。ただ、いじめ用語でしかない。それだけだった。何回もこの会話を聞いてそのたびに身を震わせている自分に、もうそろそろ早く慣れろと言いたいものだが、仕方がないと思う自分もいる。きっと、この中でこんなにも驚き焦っているのは自分だけだ。そういう小さな喪失感が自分に包まれる。まるで自分がここにいないような感覚になってちょっぴり、悲しくなる。
「普通にガイやろ。子供も産めへんし。誰が求めんねんそんなやつ。」
また一つ、言葉が俺の胸に刺さる。その言葉は、大きくはなく、小さい。でも、体の中に埋め込むように、胸を裂いて俺という体の中に埋まる。周りから見ると、俺ってそう見えるんだ。別に俺を指さして言っているわけではない。でも、俺に言っていることと何も変わらない。だって、俺がそうなんだから。所詮、誰も必要としないごみでしかない。誰も求められない、ただのごみ。
――そんなごみが、一人前の恋をしていいのか。
ふと、隼人の顔を覗いてしまう。どうしてかはわからない。ただ少し願っているのかもしれない。俺の願望を押し付けてるように、顔を見てしまう。その顔は後ろを向いていて見えない。でも笑っていないように見えたのは、きっと願いのあまり、そう見えてしまっただけなんだろう。
時は過ぎ、教室の電気が消された。教室は、閉め忘れていた窓がひゅうひゅうと風を吹き込み、カーテンが大きくなびいていた。
期待した分だけ、きっと悲しくなる。




