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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
故郷への帰還
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兄との再会

 知り合いに挨拶を済ませたレオノールは帝城の正面にいた。今からアクアネル公爵領まで魔導車で移動するのだ。


「もう少しここに居ても良いのではないか?」


 そう未練がましく言うのはギルバートだ。その横では呆れた目でギルバートを見つめるマリアベルの姿があった。


「お父様、そう言って一月もレオノールをここに押し留めていたではありませんか。いい加減になさいませ」


 そう、ラプトル隊に訪問してから既に1ヶ月以上が経過していた。

 何故ならアークバルトも用事があるとかで、出払っていたからだ。その間レオノールも仕事をしようと思い、ギルバートの政務を手伝っていたのだ。やっていた仕事は書類の分別なのだが、それでも内容を把握してなければ出来ない仕事だ。

 

「悪かったな。待たせちまって」


「ぱぱ おしごと。しかたない」


 仕事へ行くアークバルトを「ぱぱ がんばって」と見送ったのは記憶に新しい。()()()自ら仕事に行ったので、レオノールも我儘は言わなかった。

 普段どれだけ仕事をしてないと思われているのか……知らない方が幸せだろう。


「わたし いってくる」


「直ぐに戻って来るのだぞ」

「知らない人について行ってはダメよ」


 こうしてレオノールはサイフィードのいるアクアネル公爵領へ向かって出発した。

 運転手は毎度お馴染みのジルで、助手席はバーニャだ。今回は影の中にギィも入って付いてきている。


 街道を魔導車が爆走する。


 都市間を結ぶ街道を魔導車が走るのは極めて稀だ。というか、皇家の魔導車しかいない。

 エネルギー問題と魔物の襲撃に即座に対応できないからだ。車から降りるという動作が、どうしても初動を遅らせるのだ。

 魔導車の周りを騎獣して護衛すればいいのでは?と思うかもしれないが、それでは魔獣車に乗っているのと変わらない。魔導車は何と言ってもそのスピードの速さが肝要なのだから。


「もうすぐサルバンだぞ」


 サルバンとはアクアネル公爵領の領都がある港湾都市だ。

 レオノールが窓から顔を覗かせれば、街道の先に多くの魔獣車が列になっているのが見える。チラホラと徒歩の人間も見えるが、誰もが武装していて冒険者っぽい。

 魔導車は列の横をすり抜けて外門へと辿り着いた。

 

「ようこそおいで下さいました、皇太子殿下。そしてお帰りなさいませ、アクアネル公子」


 既に知らせが届いていたのだろう。

 感無量、といった様子の兵たちに見送られ、レオノールはあっさりとサルバンへ入った。まあ、今まで通過した街も魔導車を見た瞬間、ビシリと敬礼されてそのまま通過できたが。


「ついた?にぃに どこ?」


「あそこに城が見えるだろ。あれがサイフィードが住んでいるアクアネル城だ。遺跡を利用して建ててあるからな、もしかしたら秘密の入り口があるかもしれねぇな」


「いせき」


 レオノールの目がキラリと輝き、アクアネル城を熱心に見ている。そうしている内に城が段々と近付いてきて、今では見上げるほどだ。


「おお〜」


 窓から体を乗り出せばツルリと滑って、落っこちそうになった所をアークバルトに回収された。まぁ、レオノールも蔓をアークバルトに巻きつけたので落ちる心配はないのだが。

 城門まで来るとプアーとラッパの音が鳴り響き、門がゆっくりと開いていく。


「アクアネル公子に敬礼ィィィ!」


横にズラリと並んだ騎士が、一斉に剣を胸元に垂直に掲げる。その顔は誰もが喜びに満ちていた。

 6年だ。6年もの間、彼らはただ待っていたのだ。かつての主の忘れ形見を。


「レオノール!」


 騎士たちの間を通り抜けた先に、懐かしい顔があった。


「にぃに!」


 魔導車が止まるのを待てずに窓から飛び出したレオノールは、そのままサイフィードの胸に飛び込む。「グブッ!」というカエルを潰したような声と共に、サイフィードに抱かれて3回転したレオノールは頬にチュッとキスをするが……何も反応がない。


「にぃに?」


「あば、あばら、が」


 サイフィードは思った以上に重傷だった。

 大変!とレオノールは花を咲かせて、その蜜をサイフィードに飲ませば、瞬く間に肋骨がくっついた。


「お、お帰り、レオノール。会いたかったよ」


「わたしも」


 立ち直ったサイフィードがキスを返してくれてレオノールも満足だ。2人で笑い合い、再会を喜んでいる所にアークバルトが水を差す。


「おい、もう少し体を鍛えろ。軟弱すぎだろ」


 サイフィードは領主で魔術師だ。本来なら体を鍛える必要はないのだが……流石にレオノールを抱きとめられないのは、自分でもないな、と思った。


「……明日から鍛えることにします」


 そう奮起するサイフィードにレオノールはそっと種を差し出した。いつものアレである。


「くれるの?ありがとう」 

 

 サイフィードが素直に受け取れば、勢いよく種から蔓が出てきて手首に巻き付いた。瞬く間に腕輪となった種に、サイフィードは困惑顔だ。


「これは?」


「にぃに よわい。わたし まもる」


 ドーンと胸を叩いてレオノールがそう宣言すれば、何故かサイフィードは崩れ落ちた。

 

「ざまぁねぇな。何がレオノールを守るだ」


 アークバルトは懐から手紙を取り出すとヒラヒラと振る。それはサイフィードがアークバルト宛に書いたもので、「アクアネル領にいる間は自分が守るからついて来なくていいよ」的な文面がしたためてあった。


「くっ!」


 何も言い返せないサイフィードは、悔しそうに歯噛みする。明日から騎士団の訓練に参加しようと心に決めて。


「これ にぃにに おみやげ。わたしの めのいろ」


「わぁ、カフスボタンかぁ。ありがとう。大切に使うね」


 早速とばかりに袖に取り付けたサイフィードは、今まで着けていた物を執事に渡す。


「ゴホンっ!では改めて、お帰りレオノール」


「「「お帰りなさいませ、公子様」」」


 レオノールの髪を穏やかな風がくすぐり、歓迎するかのように花びらがヒラリと舞った。

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