海へ行こう!
レオノールは海へと来ていた。
今まで吸収したことのない海の植物を手に入れるためだ。
今日は海に行くとあって水着を着ている。当然ワンピース型の水着でスカートはヒラヒラと波打っている。その上から白いシャツを羽織り、麦わら帽子を被れば完成だ。
先程からパシャパシャとカメラのシャッターを切る音がするが、慣れっこなレオノールは気にしない。ザザン、と繰り返す波と追いかけっこをして遊んでいる。ペロリと海水を舐めてみれば余りのしょっぱさに蔓がみょーんと伸びた。
遊びに夢中になって本来の目的を忘れていたレオノールは、ハッとして立ち上がる。
「わたし しょくぶつ さがしてくる」
「遠くには行くなよ」
「一人で平気?」
心配してくるサイフィードに力強く頷いみせると、レオノールは海の中へ潜った。
後はいつもと変わらない。蔓を伸ばして広げていくだけだ。念のため根っこも伸ばしていく。
海の中は面白かった。
海中を漂う小さな植物はまるで胞子のようだし、根を張らずにそのまま海面を漂う植物もいた。適当に魚と魔物をつまみながら、レオノールがどんどん蔓を伸ばしていくと海底に沈んだ船に辿り着いた。
お宝の匂いプンプンである。
ガサガサと船の中を漁ること暫し、思った通りキラキラ光る宝飾品を発見した。箱の中に入った金貨は特に興味がなかったが、サイフィードが喜ぶかも、とお土産にすることにした。
レオノールが遠慮なく漁ったせいか、蔓が船を離れればズズンッと音を立てて崩壊していく。古かったし仕方ない、とレオノールがそこを離れようとすれば、巨大な影が海面を覆った。
レオノールは知らなかったが、それはイカの魔物でクラーケンと呼ばれている。魔力濃度でいえばA級の魔物だが、海中に生息することもあり討伐難易度はS級だ。
そんな魔物がレオノールに攻撃してきたのだ!これにレオノールは……激怒した。
『わたし なめられてる』
魔物ごときが神に攻撃してきたのだ。その怒りもひとしおだ。
太っとい蔓を作ってクラーケンをボッコボコに殴ると、ようやく彼我の実力の差を悟ったクラーケンが逃げ出そうとするが、それを許すレオノールではない。蔓で海上まで引っ張り上げて、ブッチブッチと魔物を引き裂いた。
汚い魔物のシャワーが海面に降り注ぎ、同時に肉片もボトボトと落ちる。正に蹂躙という名に相応しい。
暴れたことで少し落ち着いたレオノールは、もしかして美味しいかも、と心臓――魔核がくっついているので分かりやすい――と足を一本持って行くことにした。
大量のお土産を手に……いや、蔓に、レオノールは砂浜へと戻って行った。
その日、サルバンの冒険者ギルドに激震が走った。
魔導船を護衛する冒険者から緊急連絡が入ったためだ。内容は普段はもっと南に縄張りを持つクラーケンが航海路上で発見されたというものだ。しかもサルバンの港からそう離れていない場所でだ。
それだけでも大事なのに、事はそれだけではすまなかった。何とクラーケンを圧倒する強さの魔物が現れ、あっという間にクラーケンを引き千切って殺したと言うではないか。
「それは本当なのか?」
サルバン冒険者ギルドのマスターであるジェノガが問えば、通信水晶越しに冒険者が抗議の声をあげる。
『俺はAランクの冒険者だぞ!嘘をつくと思うのか!』
Aランクからは貴族を相手にすることも増えるため、昇格条件がより厳しくなる。マナーや言葉遣いは勿論のこと、その人格までが審査対象だ。その狭き門を潜り抜けた冒険者が、後から調べれば分かるような事に嘘を付く筈もない。
「すまん、失言だった。俺も混乱していてな」
『ああ、いや、気持ちは分かる。デカい蔓がクラーケンを真っ二つにしただなんて、この目で見ても信じられないからな。それよりもだ!その魔物……恐らく植物系の魔物だが、サルバンに向かっているんだ!沿岸にいる奴らを避難させなけりゃ大惨事になるぞ!』
「何だと!」
ジェノガが怒鳴れば、一緒に話を聞いていた秘書が書類を取り落とした。
「今日はアクアネル公爵が弟君に案内すると、砂浜を貸し切っております!」
「クソがっ!公爵家に連絡しろ!手の空いているB……いや、Aランクの冒険者はどれだけいる!?」
「無茶を言わないで下さい!Aランクとなると簡単には集まりませんよ!?」
「とにかく連絡をつけろ!クラーケンを引き千切るような魔物だ!Bランクだと相手にならん!Bランク以下は避難誘導に回せ!」
元Aランク冒険者のジェノガは、壁に立てかけてあった大剣を担ぐと冒険者ギルドを飛び出した。




