明かされた真相と1つの結末
一旦、休憩にしようという事になり、全員に温かいコーヒーが振る舞われる。用意したのはターナだ。
レオノールは花を咲かすと、蜜を入れて蔓でスプーンを持って混ぜる。レオノールも進化したのだ。
「そういえば、ミルクはないのか?」
「ございます」
ターナがミルクの入った容器をザギルへと渡し、コーヒーに入れていた。その際に腕輪から花が咲き蜜を垂らしている。
「ミルクを入れたら味が変わるぞ」
ザギルにそう勧められてレオノールもミルクを入れてみる。コーヒーの色が茶色へと変わり、コクコクと飲んでみれば先程よりまろやかだ。
「おいしい」
飲み干したレオノールはターナにお代わりを所望する。ちなみにアークバルトはブラック派だ。
周りを見れば、宰相とラシーヌはブラック派でロイとイルミカは砂糖とミルクを入れていた。どうやら白虎族は甘党のようだ。
「先程から気になっていたのだが、何故ザギルの腕輪には花が咲くのだ?」
自分の腕輪を見ながら不満そうにロイが言う。自分も蜜を入れて欲しいとその顔には書いてあった。
「私の腕輪が好みを把握したのではないかと」
嬉しそうに自分の腕輪をなでながら、「ルーちゃん」と呼んでいるザギルにロイは引いた。ヤバい成分が入っているのではないかと疑うロイに、レオノールは真相を教えてあげる。
「ざぎる どく のんでる。わたし げどく してる」
一瞬にして和やかな雰囲気が凍った。いち早く正気に戻ったのはロイだ。まあ、自分の子が毒を盛られていたと知れば当然か。
「バカな!?シルヴィアはザギルを皇帝にしようとしていたのだぞ!?」
「むかしの はなし。いま ちがう」
レオノールはどこから話せばいいのか迷う。蔓が書類の上をウロウロして何枚かの手紙を机の上に置いた。
「よむ」
一番上の手紙はシルヴィアがバサラに送ったもので、あなたの子どもができたと書かれている。このままロイの子として育てるとも。
そして二枚目はエリックがシルヴィアに宛てた手紙だ。ガザールの皇族は代々呪われており、その証が白い血――白虎族の血筋――だとあった。白い血を引く子は排除した方が良いと、末の双子のどちらかに皇位を継がせて呪いを打ち消すように、と書かれていた。
三枚目もエリックからの手紙だ。
毒を手に入れたと。一つは一瞬で死に至るもの、もう一つは徐々に弱らせて死に至らしめるものだと書かれている。そこには好きなように使いなさい、という悍ましい言葉が添えられていた。
四枚目は前に見せたロイの暗殺を唆す手紙の続きだ。
それには綿密な暗殺の手順が書かれていた。今回の暗殺事件と概要は全く同じで、違うことと言えば、ザギルに徐々に毒を盛って病死に見せかけて殺すというものだ。ロイが死んでから半年から1年後が望ましいと書かれている。あまり早く死ねば疑われるから、と。
「トライランド国王として正式に謝罪する」
手紙を読み終わったラシーヌとイルミカが立ち上がって頭を下げる。自国の貴族――しかも公爵位を持つ――が他国の王の暗殺に関わった明確な証拠だ。
「帰国後すぐにエリック・ワンダルサスには毒杯が振る舞われるだろう」
「……謝罪を受け入れる」
ロイの言葉には力がなく、両手で顔を覆ったまま動こうとしない。
イルミカがロイの側に寄り添いその肩を抱く。彼女の顔も辛そうに歪んでいた。よく見ればザギルと宰相の顔も暗い。
事態をよくのみ込めていないレオノールは、助けを求めてアークバルトを見る。
「王妃とバサラの処遇は分かるか?」
「しけい」
国家反逆罪はどこの国でも死刑だ。レオノールもそれを承知で動いていたのだから当然知っている。
「末の双子がどうなるかは分かるか?」
もし双子がロイの子なら助かっただろう。だが、バサラの子なら話は別だ。国家反逆罪は子や孫に至るまで死刑となる。
ロイは今まで自分の子として愛してきた存在を、自分の手で殺さねばならないのだ。辛くないはずがない。双子はまだ3歳なのだから。
「ろい こども しんじゃう つらい?」
どうにかならないのか、とアークバルトを見れば首を横に振られる。ロイが悲しいとレオノールも悲しい。きっとシルヴァもだ。
「このてがみ なかったこと する?」
レオノールは蔓で手紙を奪い、ギュッと胸元に握る。許可が出ればこの手紙は燃やしてしまおう。
「ありがとう、レオノール。だがそれは国王として決してやってはならぬ事だ」
顔を上げたロイの目は赤く、辛そうな表情は見ていられない。だがその口調は決然としており、国王としての信念を感じさせる。
レオノールは視線を落とす。自分は間違えたのだろうかと。
「レオノールは何も悪くない。私が……私が道を誤ったのだ」
「ろい わるくない。わるいの おうひ」
何とかロイを慰めようとするが、その悲しみは変わらない。結末は一つなのだから。
周りを見ても、誰もがこの結末を受け入れているのが分かった。
「わたし ふたごの たましい ししゃのせかい みちびく」
レオノールは眼帯を捨てて真っ直ぐにロイを見る。輝く金と緑の目で。
「やってもらえ。死の神が直接導けば道に迷うこともねぇ。人間にとって一番の苦痛は死者の世界に行けねぇことだ。永遠の苦痛と共に現世を彷徨うことになる。魂が消滅するまでな」
アークバルトにそう言われてロイはレオノールを見る。小さな小さな死の神を。
「お願いする。私の愛しい子どもたちを導いてくれ」
ロイは跪いてレオノールの手を握る。その手を握り返しながらレオノールは問う。
「こどもの なまえ おしえる」
「アルマとタラバだ」
「しのかみの なにおいて あるまと たらばに えいえんの あんねいと やすらぎを あたえん」
その瞬間、レオノールの体が輝き髪の毛が宙を揺蕩う。気付けばレオノールの両隣に小さな子どもが2人いた――アルマとタラバだ。
『ちちうえー』
『あそんで』
キャッキャと笑いながらロイにまとわり付き、ロイは両手を広げて抱きしめる。透き通った体はそれでも温かく、ロイの頬を涙が伝う。
『あのね、きょおね』
『ありゅまと おはな ちゅんだ』
「そうか、楽しかったか?」
『『うん』』
語り合う内に、人の形が溶けて丸い魂となったアルマとタラバはレオノールの側に戻って来る。
「いつでも おくれる。ろい どうする?」
「今から頼む。この子たちには幸せな記憶の中で過ごして欲しい」
これから起こる断罪は子どもたちにとって辛い記憶になるだろう。それならば幸せの中でせめて逝って欲しい。これはロイのただの我侭だ。
「わかった」
レオノールは小さな扉を創り出す。
それはレオノールがギリギリ通れるくらいの大きさで、蔓とドラゴンの紋様が刻まれている銀色の扉だ。
ゆっくりと扉が開き、光が溢れる。アルマとタラバは一度ロイの元に帰るとクルクルとその上空を飛んだ。
『ちちうえ またね』
『また あそんで』
そう言い残して2つの魂は扉の中へと消えていった。
「ろい しんだとき わたし むかえにいく。おなじとこ おくる。なかないで」
レオノールはロイを小さな体で抱きしめる。蔓で涙を拭いて背中をポンポンと叩く。
「また……会えるのだろうか?」
「あえる。わたし あわせて あげる」
死者の魂は長い間死者の世界にいるのだ。ロイが死ぬ時まで、双子も待っていてくれるだろう
レオノールはロイの悲しさを思って一粒の涙を零した。




