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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
ガザール帝国の陰謀
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華麗なる陰謀返し

 アークバルトは腕輪から豪奢な椅子を出して座ると、観衆たちを睥睨する。

 シルヴァを厳しい目で見ていた者たちも今では戸惑いの方が強いのか、互いに顔を見合わせている。


「おい、いつまで混乱しているつもりだ」


「私は……毒殺されたのか?」


「覚えてねぇのか?」


「いや、よく覚えている」


 焼けるような痛みも、体が冷たくなる感覚も何もかも。そして最期に見た愛する息子(シルヴァ)の絶望する顔も。


 怒りだ。


 ひりつくような憤怒がロイの身を焦がす。

 出来れば穏便にすませたかった。シルヴァは何も言わないが、まだ母親のことを思っているのを知っていたから。だがそれもここで終わりだ。


「シルヴァ、グラスを渡した者の顔を覚えているか?」


 未だ泣いているシルヴァを抱きしめながら、なるべく優しい声でロイは問いかける。コクン、と頷いたシルヴァの頭を偉い偉いとなでる。


「陛下!第三皇子殿下が毒を盛ったのです!ポケットの中からこの小瓶が出てきました」


 バサラが差し出した小瓶には少量の液体が残されていた。それを見たロイの顔が強張る。物証があるとないとではシルヴァの待遇が変わるからだ。

 不安そうなシルヴァの肩を抱き、ロイが反論しようとしたその時……


「それ かんてい した?」


 レオノールが無邪気な子どものように笑う。ゾッとロイの背筋に怖気が走るが、それを押し殺してロイは鑑定の魔導具を持ってくるように言いつけた。




「中身はただの水ですな」


「そんなはずないわ!」


 宰相が鑑定結果を告げた途端、シルヴィアが叫ぶ。


「どういう意味だ?」


 ロイの押し殺した声にシルヴィアはハッとして居住まいを正す。


「アレはずっと皇位を狙っていたのよ。ザギルが皇太子に選ばれたのを恨んでの犯行に違いないわ」


「それこそ何の確証もない憶測ではないか」


「そうだわ。アレの部屋を調べたらどうかしら?きっと毒を隠し持っているに違いないわ」 


 ロイは言葉の通じない気持ち悪さに、思わずシルヴィアを凝視する。物証もなしに皇族の部屋を荒らすなどあってはならないことだ。それは貴族の屋敷にも言えること。

 これには周りの貴族も顔をしかめている。


「何を言って……」

「しるゔぁの むざい しょうめいする」


 突然口を挟んできたレオノールに周囲の目が一斉に集まり、面白そうにアークバルトもそれに乗る。


「俺はそういう手っ取り早い方が好みだ。おい!そこの5人こっちへ来い」


 指差された騎士が前へ出てくる。

 その騎士たちは全員が中立派なことにロイは気付いた。


「コイツらにシルヴァの部屋を探させる。いいな?」


 何故かいつもの無表情を捨て去って、あどけない表情を浮かべているレオノールをロイは盗み見る。

 レオノールがシルヴァに不利になることをするはずがない、とロイもその案に乗ることにした。


「ライオネル殿下がそう仰るなら。ただ騎士だけでは不安ですので宰相も一緒に行かせてもよろしいか?」


「構わねぇぜ」


 騎士と宰相が去っていくのを見送り、ロイはシルヴァとグラスを渡した犯人を探そうとしたが、ウェイターの中にそれらしい人物はいなかった。もう去った後なのだろう。

 ただ、同じような人物を見たという証言もあったことから、シルヴァの話に信憑性が増した。


 ――全てが後手後手にまわっている。自分の暗殺もシルヴァへの濡衣も。


 もしレオノールにもらった腕輪がなければ、自分は死にシルヴァは処刑されていただろう。ロイが自分の不甲斐なさを噛み締めている間に、騎士と宰相が戻ってきた。

 宰相が一歩前に出て報告してくる。


「特に怪しい物はございませんでした」


「嘘よ!!」


 シルヴィアが叫び、近くにいた女を睨む。


「わ、私はちゃんと言われた通りにタンスの中に入れてきました!」


「じゃあ何でないのよ!役立たず!」


 ここに至ってようやくロイは異常に気付いた。周りの人間も啞然と自白合戦を見つめている。


「今のは自白だと思っていいな?シルヴィア」


「あっ!」


 ようやく自分が何を言ったのか気付いたのだろう。両手で口を押さえ、取り繕うように笑みを浮かべる。


「違うのよ。アレのタンスにおやつを入れておいたのよ。驚かせようと思ったの」


 下手な言い訳にロイは呆れる。そもそもシルヴァは生肉しか食べない。


「おうひ むじつ しょうめいする。しるゔぁと おなじ」


 ニコニコ笑いなレオノールの意図にようやくロイは気付いた。


「確かにそうだな」


 レオノールの頭をなでながら小声で問う。


「探す場所は?」


「ゆかの したと とだなにある かくしばこ」


 ロイは宰相を呼ぶと秘密裏にそこを重点的に探すように指示をだす。


「では、平等に先程と同じメンバーでシルヴィアの部屋に向かってもらう」


「私の部屋に下賤な男を入れるというの!?」


「うるせぇな。最初にレオノールが言っただろ。無実を証明するってな。拒否すればテメェを犯人とみなす」


 アークバルトの最終通告にシルヴィアは黙った。

 刻々と時間だけが過ぎ、貴族の間で空気が割れる。好奇心に目を輝かせている者と青褪めて俯く者とに。

 再び宰相と騎士が戻って来て箱の中の物をロイへ見せる。その中にあるのは多くの書状と透明な瓶が2つ。


「この様な物が出てきました」


「やめて!やめなさい!!」


 半狂乱になって瓶を割ろうとするシルヴィアを取り押さえたロイは騎士に命じる。


「シルヴィアを拘束しておけ。鑑定を」


「両方とも毒と出ました。ただし何の毒かは分かりかねます」


 それを聞いたレオノールは子どもらしく元気に手を挙げる。


「わたし ろいの どく もってる」


「私に使われた毒をか?」


「レオノールはテメェに使われた毒を取り除いてんだ。ほらここに出せ」


 あらかじめ用意されていたかのように小さな瓶が出され、レオノールは蔓を伸ばして葉っぱから滲み出た毒液を垂らす。

 すぐに鑑定が行われ、シルヴィアの部屋から出てきた毒の1つと一致した。


「決まりだな」


「なんで私の部屋にあるの!?アレの部屋に移動させた筈でしょう!?」


 シルヴィアが先程の女の髪を掴み引っ張る。


「知りません!本当です!私は確かに第三皇子の部屋に置いてきました!」 


 泣きながら許しを請う女ごと、貴族用の牢屋に閉じ込めておくようにロイは命じた。


 


 

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