陰謀渦巻く舞踏会
「我が国の建国祭に来て頂き感謝する。今日は私の息子ザギルが立太子した目出度い日でもある。皆、楽しんでいってくれ。乾杯!」
一斉にグラスが掲げられ、歓声が上がる。
まずロイに声をかけたのはトライランド王国国王ラシーヌ・トライランドだ。仙狐族という珍しい種族で魔力の多さによって尻尾の数が変わる。
ラシーヌの尻尾は5つ。ここまで来れば大魔術師と呼ばれる魔術のエキスパートだ。
「おめでとう、ロイ。君もようやく肩の荷が下りるね」
「ありがとう。当分引退するつもりはないがな。子どもたちは元気か?」
「わんぱく過ぎて困ってるくらいよ。本当に誰に似たのかしら」
そう言ってじっとりとロイを見るのは、ロイと同じ白虎族の女性だ。そう、姉のイルミカである。
心当たりのあるロイはそっと目を逸らした。今でこそ落ち着いているが、昔は城を抜け出したり、勝手に冒険者になったりして、よく両親を困らしたものだ。
「ザギルは良い国王になりそうだね」
「やはりそう思うか?」
ラシーヌがザギルを見ながら言えば、ロイも嬉しそうに頷く。ザギルはどこか居心地が悪そうだ。
「それで、その子がシルヴァかな?」
ロイの後ろに隠れるように立っていたシルヴァにラシーヌが尋ねる。急に名前を呼ばれたシルヴァは慌てて自己紹介する。
「は、はい!シルヴァ・パレス・ガザールと申します」
「私はベルガ・パレス・ガザールです。どうぞお見知り置き下さい」
シルヴァに被せるようにベルガが割り込み、一瞬にして場が凍る。
あまりのマナー違反に、イルミカはすぐさま扇を広げて口元を隠し、ラシーヌも笑顔はそのままに冷めた目でベルガを見る。等の本人だけが気付いていないのかそのまま喋り続けている。
「他にも挨拶したい方がいるから、この辺で失礼するよ」
「また後で話しましょう。シルヴァちゃん」
「あ、はい!」
ラシーヌとイルミカは去り際にロイに目で合図する。それには警告が含まれていた。
ロイはため息をつきながらベルガに向き合う。
「ベルガ、どういうつもりだ。なぜシルヴァの自己紹介に割って入った」
「私の方が年長者です。シルヴァより先に挨拶するべきでしょう」
あまりに幼稚な考え方に、ロイは育て方を間違ったのだと悟った。いや、ベルガの教育をシルヴィアに一任したことが間違いだったのだ。
チラリとシルヴィアに目を向ければ、元第一王女であるシシリィとその夫であるグレイグ公爵と和やかに歓談していた。こちらには見向きもしない。
ロイは零れそうになるため息を押し殺し、ベルガを叱責する。
「愚かな。一国の王の言葉を遮ったのだぞ。マナーを一からやり直して来い」
「父上!私を蔑ろにした相手が悪い……」
「連れて行け!」
最後まで言わせずに、ロイが合図すれば側仕えがベルガを促して退場させる。何やら喚いていたが、扉を閉めれば静かになった。
その様子を貴族たちは冷静に観察していた。ベルガが見限られた瞬間だった。
それからは順調に舞踏会は進んだ。
各国首脳陣にザギルを紹介していき、シルヴァもそれにくっついて行く。シルヴァを見る目は好意的なものが多く、思ったよりも居心地は悪くなかった。シルヴァがホッとした矢先、ウェイターから声がかけられる。
「どうぞ。ジュースになります」
礼を言って受け取ると、ゴクゴクと飲む。思っていたより喉が渇いていたようだ。
「こちらを陛下にお持ちになりますか?」
新たなグラスを渡され、父上も喉が渇いているだろうと思ったシルヴァは、何の疑いもなくそれを運んでいく。
「父上!その、これをどうぞ」
シルヴァがわざわざ運んでくれたのを見たロイは、笑顔で礼を言ってグラスに口をつけた。その途端……
「ゴフッ!」
鮮血がロイの口を伝い、その体がグラリと傾いた。体が床に叩きつけられる瞬間、腕輪が輝き蔓が繭のようにロイを包みこんだ。
「父上!」
ザギルの声が膜がかかったように遠くで聞こえ、シルヴァは震えながら自分の手を見ていた。自分が、自分が父を殺してしまったのだと。
「国王陛下!この卑劣な!!」
憤りの声を上げたバサラがシルヴァを殴りつけ、床に組み伏せられる。
「やめろ!まだシルヴァが犯人と決まったわけではない!」
ザギルが庇うが、シルヴァの上着の右のポケットからバサラが小瓶を取り出した。
「見ろ!毒だ!!」
にわかに周囲がざわめき、周囲にいた近衛騎士が一斉にシルヴァへ剣を突きつける。
シルヴァはどうしてこうなったのか分からなかった。ただ……ターナに直してもらった右のポケットから出てきた小瓶に絶望する。
「な、なんで」
なんで自分が父を殺してしまったのか
なんでターナが自分を裏切ったのか
シルヴァは分からなかった。理解したくなかった。そんな時……
「しるゔぁ はなす」
レオノールの蔓が騎士たちを薙ぎ倒し、シルヴァを守るように蔓が威嚇する。
「盛り上がってんな」
面白そうなアークバルトの声が聞こえ、人の群れが2つに割れる。その中を悠々と歩いてきたアークバルトはロイを守る蔓の前で止まる。
「生きてんのか?」
アークバルトの言葉に会場中が息を呑む。シルヴァも縋るような目をレオノールに向けた。
「わたしの ちから ろい まもる。いきてる」
心外だとぷりぷり怒り出したレオノールは、小さな手の平でアークバルトを叩く。それを聞いたシルヴァは大きな声で泣き出した。
「うわああああん!ありがと、ヒック、ありがど、レオ、ノール」
泣き出したシルヴァのもとに急いで向かおうとしたレオノールだが、アークバルトが離してくれなかった。
「先にロイを起こせ。コイツがいなけりゃ始めれねぇ」
「わかった」
蔓の中で眠っているロイに、レオノールは蜜を飲ませる。5日間寝ずに働ける特別製だ。ちなみに副作用はない。
シュルリと蔓が腕輪へと戻っていき、ロイが飛び起きた。ペタペタと自分の体を確かめるロイにアークバルトは邪悪に嗤う。
「さて、始めようかニンゲンども。これからが本当の舞踏会だ」




