建国祭の幕開け
いつもより短いです。
今日はガザールの一大イベントである建国祭だ。昼間はパレードが行われ、皇帝の姿がお披露目される。特に今回はザギルが立太子することもあって近年一番のお祭り騒ぎになっている。
他国からも多くの主要人物を招いており、今回は盟友国であるトライランドの国王も王妃同伴で出席していた。つまりはロイの姉とその夫だ。
もちろんシルヴァも参加しており、ザギルが次期皇帝に指名された時は嬉しくて拍手を送った。アークバルトが参加したこともあり、ザギルは金獅子に選ばれたのだと民たちは大いに沸いていた。
シルヴァもひとこと祝福の言葉を贈りたかったが、人に囲まれ近付けそうにない。どうしようか、と所在なげに立っていると虎人族の男が話しかけてくる。
「シルヴァ様、一度部屋に戻りましょう」
本日のシルヴァの護衛を任されているバサラ・デューン・ドミニク将軍だ。
一体なぜ将軍がシルヴァの護衛なのか……不思議に思ってロイに尋ねたほどだ。その時は誤魔化されたが、何か不穏なことがあるのかもしれない、とシルヴァは気を引き締めた。
バサラに促されて部屋に戻るとターナが待っていた。いつもの光景にシルヴァの肩から力が抜ける。思っていたより緊張していたようだ。
「舞踏会は夜からですので、少し休憩いたしましょう」
舞踏会は8時から開始なのだ。
支度に時間のかかる女の人は、すでに舞踏会の準備に取り掛かっていると聞いてシルヴァは震えた。男でよかった。ちなみに今は15時をまわったところだ。
昼も食べ損ねているのでお腹はペコペコだ。皆いつ食べているのか謎である。
「立食形式になっておりますが、身分が高い方ほど食べるのは難しくなりますので、今のうちに食べておいて下さい」
「どうして難しいの?」
「人に囲まれてしまいますから」
なるほど、とシルヴァは納得する。ならばしっかりと食べなくては、とドドン!とテーブルに乗せられている生肉ステーキをターナに取ってもらい、フォークとナイフで丁寧に食べていく。
アークバルトはいつも豪快に骨までバリバリと食べるため、一緒にいたらマナーを忘れそうなので、一人の時は気を付けて食べているのだ。真面目なシルヴァらしい。
いつもはシルヴァが食事を終えたら直ぐに片付けを始めるターナは、どこか心あらずといった感じでボンヤリとしている。
「ターナ?」
シルヴァが声をかければ「失礼しました」と、慌てて片付け始める。ターナも疲れているのかもしれない。
「ターナも少し休んで?」
「私は大丈夫ですよ。シルヴァ様こそ少しお休み下さい。舞踏会は長いですから」
途中で退場するつもりだが、それがいつになるかは分からない。朝から緊張しっぱなしだったシルヴァは横になると、あっという間に夢の中へと旅立った。
次に目を覚ましてからが大変だった。
シルヴァは丸洗いされ、乾かされると次は丁寧に全身をブラッシングされる。全身毛で覆われているシルヴァのブラッシングは重労働で、終わるとターナは汗まみれだ。ちょっと罪悪感がわく。
それからシワ一つない服を着せられると、最後に宝石で胸元を飾られる。これで完成だ。
「いかがですか?」
「大丈夫。ありがとう」
「あ、お待ち下さい。ポケットの蓋が内側に入っております」
ターナにしゃがんで右ポケットを直してもらい、シルヴァは時計を見る。もういい時間だ。そう思っていると扉がノックされた。
ロイに不用意に開けないように言われていたので、シルヴァは「誰?」と誰何する。
「ドミニクです」
ホッとしてシルヴァがターナを見れば、サッと扉を開けてくれる。
「もう時間?」
「少し早いですが、遅れるよりはよろしいかと」
確かに、と納得したシルヴァはターナに「行ってくるね」と挨拶すれば、無言のままだ。
「ターナ?」
「……いえ、気を付けて行ってらっしゃいませ」
深くお辞儀をしたターナの顔はシルヴァからは見えなかった。




