プレゼント
出征式の翌日、レオノールはジルとバーニャを連れて宝石屋へと来ていた。デザインについて相談したい、と連絡を受けていたが、なかなか都合がつかなかったのだ。アークバルトを追い出し……いや、送り出してようやく来ることが出来た。
レオノールが宝石屋に着けば、老紳士がにこやかに出迎えてくれる。そのまま応接室へ通されて紅茶を供されると直ぐに、老紳士が手に持っていた箱を開けた。
「こちらが試作品になります」
そう言って見せられたのは、金獅子の爪から作られたイヤーカフスだ。ただし宝石も何もついていない土台だけのものとなる。
それでも内側から光を放っているような美しい金色にため息が漏れる。これ1つで完成されているような完璧さだ。
「見ての通り、これだけで他の宝石が霞んでしまう美しさです。予定通りダイヤモンドを散りばめてもこの美しさに負けてしまうだけでしょう」
なるほど、確かに老紳士の言う通りだ。流石のセンスにレオノールも深く頷き賛同する。
「そこで地金に直接模様を掘ってみては如何でしょう?」
老紳士はいくつかのデザイン画を並べる。繊細なものから大胆なものまで様々だ。その中でレオノールの目が吸い寄せられたのは、蔓っぽいデザインのものだ。何となく自分の印のようで気に入ったのだ。
「これにする。あと わたしの ほうせき ついかする」
レオノールはイヤーカフスの横に置かれている自分の力の結晶を指差す。
「おおきさ かえる」
追加で1つ創り出した結晶は最初のより小さくなっている。そしてもう1つ。もっと小さな結晶だ。
「なるほど。大中小と上から並べるのですね?」
「そう。ほうせきに あわせて でざいんも すこし かえて」
「お任せください。そう言えば、新しい宝石を仕入れたのですがご覧になられますか?」
「みる」
宝石評論に花を咲かせ、レオノールは満足して店を後にした。
そこからは完成までは早かった。
僅か3日で連絡が来て、レオノールは早速宝石屋へと向かった。
「何度もご足労をかけて申し訳ありません。私が伺えれば良ろしかったのですが」
「わたし このみせ すき。もんだい ない」
何せレオノールはガザール帝国の国賓だ。老紳士を呼ぶためにはロイに許可を貰わなくてはならない。昼は通常の政務を行い、夜は建国祭の書類を血走った目で確認しているロイの姿をレオノールは知っている。ちょっとのぞき見したので。
「ほっほっほっ!それは光栄なことです」
そう言って頭を下げた老紳士は綺麗な藍色の箱を取り出した。その箱には宝石が付けられており、それだけでも価値があると分かる。
レオノールが箱を開けると光り輝く黄金と燃えるような緑の光が目を打った。緑の光は金の輝きに負けることなく煌めき、彫刻された紋様も陰影を描いて奥深さを演出している。
レオノールの予想通り……いや、想像以上の出来だ。
「すごい。かんぺき」
「ありがとうございます。その箱は仮にご用意しましたが、ご要望があれば変更致します」
「いろはそのまま。あかい ほうせきが いい」
「丁度良いのがございますよ」
リボンは自分の髪の色である銀色にしてもらい、レオノールは満足してプレゼントを見る。アークバルトが帰ってくるのが待ち遠しい。
その日、レオノールは枕元にプレゼントを置いて眠りについた。
翌朝、何故か目が覚めるとアークバルトがいた。
「ぱぱ しごとは?」
「もちろん終えてきたぞ」
力技で全てを解決し、「古代遺産が……」と研究者が泣いていた。攻略だけして後はザギルに押し付けて帰ったので、ザギルも「仕事が……」と泣いていた。
「どうだった?」
興味津々に聞いてくるレオノールに、アークバルトは冒険譚……はないので結果を教える。
「3基は外れだな。おそらく地下街か何かだろう」
「のこりは?」
「大当たりだ。魔導具の生産所だった。研究者はしばらく眠れねぇだろうな」
おお!とレオノールの顔が輝く。詳しく話しを聞こうとしたその時、枕元に転がっているプレゼントが目に入った。シュパッと蔓で枕の下へと押し込み、レオノールはドアを指差す。
「ぱぱ ごはん たべる。さき いってて」
「一緒に行けばいいだろ」
「ぱぱ ひさしぶり。わたし ばーにゃに かわいくしてもらう」
「そうか!隣で待ってるからな」
彼女の着替えを待つ彼氏のようにウキウキとした足取りでアークバルトは出て行った。相変わらずのチョロさだ。
レオノールは宣言通りバーニャに可愛くしてもらい、プレゼントを手に持って後ろに隠す。アークバルトの側まで行くと急に恥ずかしくなり俯いてしまう。普通に渡していたシルヴァは凄いと思う。
「どうした、レオノール?」
覗き込まれ、赤くなったホッペを突付かれる。
「ぱぱ これ」
そう言ってレオノールはプレゼントを差し出す。一晩一緒に寝ていたのでリボンが少しヨレてしまっている。
「ぷれぜんと なの。いつも ありがと」
後半になるにつれ声が小さくなっていったが、それでもアークバルトはちゃんと伝わった。
プレゼントを手に顔を覆ったアークバルトは耳まで真っ赤だ。
「礼を言うのはこっちの方だ。生まれてきてくれて、俺の元へ来てくれて、ありがとう。レオノール」
そう言って抱きしめられたレオノールはちょっと泣いてしまった。
アークバルトはプレゼントに感動し、全然開けてくれないので、レオノールは早く開けるように促す。
「綺麗だな。まるで緑の炎みてぇだ」
宝石には全く興味のないアークバルトも思わず見惚れた。
「わたしの ちからの けっしょう つかった」
「ああ、レオノールの力を感じる。まるでずっと一緒にいるみてぇだ」
「そうよ。わたしたち ずっと いっしょ。だから わたしも いやーかふす ほしい。おそろいなの」
ずっと一緒にいられるように。
これは一種の願掛けだ。アークバルトとレオノールを結ぶ呪具。
「ああ。ずっと一緒だ」
いい雰囲気でイチャついていたアークバルトだったが、その後地獄を見ることになる。
宝石に妥協を許さないレオノールに叱られながら延々と力の結晶を創らされ、合格をもらったのは1週間後のことだった。




