アークバルト仕事へ行く
ガザールで新たな遺跡が5基発見されたことは大々的に発表された。
1基はレオノールたちが踏破していることもあり、派遣されるのは遺物の搬出と調査にあたる兵と研究員だ。残りはザギルの指揮のもと、兵士と冒険者がチームを組んで踏破することになった。しかもアークバルトが参加することも公表され、街はにわかに活気付いた。
そんな賑わいとは裏腹に冒険者ギルドの会議室は静寂に包まれていた。
集まったのはザギルにアークバルト、ギルドマスターに今回遺跡の調査に参加する高位冒険者のリーダーたちだ。その顔は一様に険しく、アークバルトの手元を見ていた。遺跡で発見された例の研究日誌だ。
「その新人類の強さはどれほどのもなのでしょうか?」
代表してギルドマスターが尋ねれば、アークバルトは事もなげに言う。
「人間が倒すのはまず不可能だな」
小さいとはいえライオネルの力を持っていたのだ。封印することは出来ても殺しきれまい。
そのことはザギルも聞かされているので、無言で目を瞑っている。
「何を今更深刻になってんだ。稀に危険なモノが封じられているのは前からだろうが」
呆れるアークバルトに高位冒険者の1人が噛み付く。
「しかし、人類が対応できない危険な遺跡など聞いたことがない!追加報酬を要求する!」
「「「そうだ!そうだ!」
他の冒険者も同意し、アークバルトの機嫌は急降下だ。
「テメェらが知らないだけだろうが、無知な冒険者ども。行くぞザギル」
アークバルトに促されて席を立ったザギルは、ギルドマスターと冒険者を冷ややかに見る。
「義理は果たした。交渉は決裂だ」
遺跡に関する冒険者ギルドへの依頼は暗黙の了解と言うやつだ。遺跡探索に一枚噛ませろという冒険者ギルドの要望と、罠の解除などの探索に必要な専門技術者がいない国軍のメリットが一致したためだ。
ただし今回はアークバルトの参加が決まっているので冒険者は必要ないのだが、国としての信用もあるため報酬は規定より多少色を付けての依頼となった。大国の見栄というやつだ。
それにも関わらずこの反応。ザギルが憮然とするのも無理はない。
「カザールの冒険者の質は最悪だな」
「返す言葉もない。バンベルの悲劇を知らないとは」
バンベルの悲劇
それは遺跡から外に解き放たれた化け物が、人間を次々に襲った事件だ。襲われた人間も化け物に変わり、その数は爆発的に増えていった。最終的にアークバルトが国ごと焼いて事を収めた。80年前の出来事だ。
だが権力者の間でこの事実は隠蔽された。
遺跡の調査に反対する勢力の台頭を恐れたためだ。遺跡にはそれ程の価値と魅力があった。
ただし例外もあり、研究者や高位冒険者にはバンベルの悲劇の情報は公開されている。遺跡に携わることの多い彼らが誤って封印を解かないようにするための措置である。
「まあ、これで足手まといが減った。結果オーライだな」
早いとこ仕事を終えてレオノールに会いたいアークバルトは、参加人数が少なければ少ないほどいい。本当なら飛空艇を飛ばして1日で全てを終わらせたい位だ。
「おい、人数は最低限にしろよ」
「……」
国家の一大事業となったのにこの発言。ザギルは先を思いやり、そっと胃に手を当てた。
出征式は派手に行われた。
その中には公の席に初めて姿を見せるアークバルトの姿もあった。渋りに渋ったアークバルトを説得したのはレオノールだ。
レオノールとシルヴァも出席して、アークバルトとザギルに花の首飾りをプレゼントすることになったのだ。発案者はレオノールで、ロイも政敵と目されているザギルとシルヴァの仲の良さをアピールできると喜んで応じた。
「ぱぱ おしごと がんばって」
抱っこされたレオノールが首飾りをかけて、アークバルトのホッペにキスをする。それを見たシルヴァも首飾りをかけようと背伸びをし、ザギルも背を屈める。
「兄上、その、気を付けて行ってきて下さい」
「ありがとう」
その時シルヴァがレオノールを見て、レオノールは大きく頷ずき返す。
立ち上がろうとしたザギルのホッペに素早くキスをして、シルヴァは恥ずかしそうに元の位置へと戻った。尻尾はその感情を表すかのようにパタパタと揺れている。
「私の弟が可愛すぎる」
「目が腐ってんのか?レオノールの方が可愛いだろうが」
その後、盛大に見送られたガザール軍団の大半が、数が多いと置いていかれることになった。




