工房へ
冒険者ギルドを後にした一行は、皇室御用達の宝石屋に到着した。シルヴァは出来た品を見て喜んでいるが、レオノールは違う。
宝石をいろんな角度から見てチェックしては次の品を手に取り、鑑定に余念がない。後ろでは固唾をのんで見守る老紳士の姿があった。
レオノールが最後に手に取ったのはギィへのお土産だ。ヒヒイロカネがクモの巣のように宝石の周りを囲んでいる。隙間からみえる金を含んだエメラルドの輝きが、より一層ヒヒイロカネの繊細さを際立たせていた。最高の出来だ。
「かんぺき」
「最高の褒め言葉です。手掛けた職人にも伝えましょう」
老紳士は深く一礼すると微笑みを浮かべた。
「初めて見るデザインだな」
「わたし かんがえた」
「俺のレオノールはどこまで天才なんだ!」
レオノールと言う名に男の子だと気付いた老紳士だったが、直ぐに驚きから立ち直った。審美眼に性別は関係ないのだ。
アークバルトがレオノールのお土産に目を奪われている隙に、膝をついた老紳士が小声で尋ねてくる。
「それで、例の件ですが……一度職人に会って頂きたいのです」
「かこう むりだった?」
「申し訳ありません。どんなに炎の温度を上げても融解できないのです」
「わかった」
レオノールはシルヴァの所に行くとムンズと尻尾を掴む。
「わっ!どうしたの?」
「わたし でかける。ぱぱのあいて おねがい」
「無理だから!!」
店から出る前に気付かれるのがオチだ。それとシルヴァも命は惜しい。
「しかたない」
レオノールは最終奥義を出すことにした。
その場でドテッと転ぶとポロポロと涙を零す。
「いたい」
「レオノール!!」
アークバルトの注意が百パーセントレオノールに向いた瞬間、一気に蔓がその体をグルグル巻きにする。それでもビッタンビッタン動くので、更にグルグル巻いて動けなくした。
異様なオブジェと化したアークバルトを応接室に詰め込んで、レオノールは掻いてもない汗を拭く。
「いいしごと した。はやく いく」
「これ直接的すぎない?ホントにバレないの?」
「みられなきゃ だいじょぶ」
レオノールは脳筋だった。
心配するシルヴァの背を押して車に乗り込めば、ササッと老紳士も横に座る。流石は宝石一筋の男だ。動揺は微塵もない。
車は老紳士の案内で職人街へと向かって行った。
「こちらです」
そこは鍛冶と細工を専門にやっている工房だ。ちなみに武器は作っていない。
背は低いが、がっしりした肉体を持つドワーフの職人を紹介され、作業場へと案内される。煌々と熱を放つ炉の中には、全く形を変えていない金と銀の塊があった。
「この一月色々試したんだが、この通りだ。どんなに温度を上げても何の変化もなかった」
悔しそうに顔を歪めるドワーフの男は無念の気持ちで一杯だった。今まで培っていた経験もプライドもズタズタだ。
「ほのおの ねつ ちがう。しつが もんだい」
「炎の質?」
「いまから みること ひみつよ」
心得たとばかりに、ジルが誓約書を取り出して老紳士とドワーフに配る。老紳士は躊躇いもなくサインし、それを見たドワーフも恐る恐る自分の名を書いた。
さて準備は整った。
いくら加工しやすく柔らかくしたとはいえ、元は神の素材。人間ではやはり力不足だったようだ。
レオノールは燃え盛る炉の中に手を突っ込み、金獅子と銀竜の素材を回収する。
「手!手!大丈夫なの!?」
シルヴァが慌ててレオノールの手を見るが、いつものスベスベお手々だ。
「どうしたの?」
よく分からなくてシルヴァに尋ねれば、こんこんと火の危険性についてお説教された。
どうやら人間は火に触れたら火傷なるものをするらしい。あまりに酷いと死んでしまうこともあるのだとか。
「しるゔぁ はなれて。ひに ちかづいたら メッよ」
「危ないのはレオノールだからね」
心外である。レオノールは火で怪我したりしないのに。
気を取り直して炉に向き直ったレオノールは、口から金色の炎を吐く。金獅子の炎だ。金が赤を飲み込んでいき、今では金色の炎が我が物顔で炉を支配している。
「これで かこう できる」
「神の炎だ……」
ドワーフは拝むように炎に跪いた。鍛冶と共に生きる彼らにとって、もともと火は神聖なものなの。それが神の炎となれば感動もひとしおだろう。
「この炎、全然熱くない」
不思議そうなシルヴァにレオノールは説明する。
「このほのお ほろぼすもの えらべる。それいがい きずつけない」
触っても平気だと教えれば、シルヴァは恐る恐る炉に手を入れた。流石はこども好奇心旺盛だ。
「本当だ!綺麗だなぁ」
手に絡まる金の炎を見つめてうっとりとシルヴァは呟く。それはそこにいる全員の思いでもあった。
頼もしく「任せてくれ!」と張り切っているドワーフに、絶対に失敗しないように、と特大のプレッシャーを与えたレオノールは工房を後にした。
レオノールが宝石屋に戻った時、アークバルトはグルグル巻きのままだった。パラパラと蔓を解いていき、念のためちょっとだけ残してレオノールはアークバルトをチョンチョンと突付くが……反応はない。
思い切って全部蔓を外せば大きな手がコショコショとレオノールをくすぐった。
「きゃー!」っと悲鳴を上げて、クスクス笑いながら身をよじれば、アークバルトの膝の上に乗せられる。
「どんな悪さをして来たんだ?」
「ひみつ」
そう言ってチュッとアークバルトの唇にキスをすれば、仕方がないなと頭をなでられる。
あっさりと誤魔化されたアークバルトに、シルヴァはダメな大人を見るような、憐れみの視線を向けていた。




