初めての冒険者ギルド
一月後、宝石店から注文していた商品が完成したと連絡があった。ただイヤーカフスは問題が発生したので、一度話し合いの席を設けたいという。
レオノールとしてはアークバルトにプレゼントのことがバレたくないので、出来れば置いていきたかったのが、猛反対にあって結局一緒に行くことになった。
その代わり、妥協案として冒険者ギルドに連れて行ってもらう、という約束を取り付けた。
季節は春へと移り変わっているので、今日は薄手のカーディガンを羽織っている。
アークバルトは年中無休でピシっとした長袖なので代わり映えはしない。何故レオノールだけ年中無休で袖なしワンピースではいけないのか……不思議である。
今日のメンバーはアークバルトにレオノール、そしてシルヴァだ。ジルとバーニャも付いてきている。
魔導車で貴族街を抜けて平民街に入ると、雑多な雰囲気になってきた。冒険者ギルドは外門の近くにあるそうなので城からは遠い。
「なんで ぼうけんしゃぎるど まちなかに ない。ふべん」
「本当だよね。商業地区も職人街も過ぎちゃったし、買い物とか大変そう」
「行きゃ分かる」
アークバルトが面白そうに2人を見る。
結局、理由は教えてもらえず、魔導車は冒険者ギルドの前へと止まった。
魔導車から下りたアークバルトを見て、通りを歩いていた人々の間にどよめきが走る。その独特な髪色は遠くからでもよく目立つのだ。
「はやく はいる」
抱っこされたレオノールが急かせば、アークバルトは冒険者ギルドの重厚な扉を押し開いた。
「「……」」
入った瞬間、レオノールは鼻をつまみ、シルヴァは両手で鼻を押さえた。そう、冒険者ギルドは臭かったのだ。これがギルドが外門の近くにある理由である。
魔物を退治した返り血塗れの冒険者がそこかしこで見られ、奥のカウンターにはドッサリと魔物の死骸が乗せられている。併設されている酒場からは酒と肉の焼ける匂いが混ざり、何とも言えぬ悪臭が建物全体に漂っている。
カウンターを見れば、そんな環境に綺麗なお姉さんがいるはずもなく、怪我で冒険者を引退したおっさんが座っていた。
レオノールとシルヴァの冒険者のイメージは、ガラガラと音を立てて崩れ去った。
こちらに気付いて硬直している冒険者たちを無視して、レオノールは蔓でバンバン窓を開けていく。次いで掃除されてなさそうな、赤黒い色が所々に見える汚い床全面を蔓で覆って消臭効果のある花と、いい匂いがする花を咲かせていく。
「うわっ!」
「何だこりゃ!」
「魔法なのか!?」
その場でバタバタ足踏みをする冒険者の姿は滑稽だ。害がないと分かると大人しくなり、興奮した面持ちでアークバルトを見ている。どうやら金獅子の魔法だと思ったようだ。
「こういう時はな呼吸を止めればいいんだよ。レオノールも出来るようになっただろ?」
そう言えば龍脈の修復をするために地面に潜っていた時は呼吸していなかったので、レオノールは呼吸を止めてみる。別に苦しくもなんともない。
「わたし せいちょうしてる」
「あの、俺は?」
「我慢しろ」
可哀想なシルヴァに、レオノールはフローラルな香りがするハンカチを渡してあげた。
「何事だ!うわ!こりゃどうなってる!?」
騒ぎを聞きつけて階段の上から禿頭の大男が下りてくる。片目が眼帯で覆われ、レオノールとお揃いだ。
「ギルドマスターか?」
アークバルトの質問にこちらを向いた禿頭の男が目を剥いた。
「ききききききき金獅子帝!」
「違ぇよ」
「ししししし失礼しました!ライオネル殿下!はいっ!自分がギルドマスターです!」
ギルドマスターの動きがギクシャクとなり、右手と右足が同時に出ている。アークバルトの元へ近付いて来ようとするが、その足は花畑の前で止まった。
「この花は、その、踏んでも問題ないので?」
「いい」
レオノールが返事をすると、初めて男の目がその存在へと向く。アークバルトの腕の中にいるレオノールに、ギルドマスターは叫んだ。
「ライオネル殿下の愛娘!」
実は市民の間でレオノールはアークバルトの愛娘として認識されていた。まあ、ワンピースしか着ていないので、その反応も当然だろう。だれも女装しているとは思うまい。呼び方もパパだ。
アークバルトはレオノールを隠すように両腕で包むと、用件を端的に告げる。
「今日は冒険者ギルドを見学に来ただけだ。俺たちのことは気にすんな」
「わたし いらい みたい」
つま先立ちて花畑を抜けてきたギルドマスターが掲示板の前へと案内する。
そこには様々な依頼が貼られてあった。犬の散歩から買い物といった子どもでも出来るような依頼から、薬草採取や魔物の討伐まで様々だ。レオノールは隅々まで目を通し、目当ての依頼がないと分かると肩を落とした。
「やっぱり いせきたんさく ない」
シルヴァの言う通りであった。ただシルヴァもガッカリしていたので、少しは期待していたのかもしれない。
「遺跡探索はギルドで出るような依頼じゃねぇよ」
「くわしく」
「あれは冒険者が勝手に行くもんだ。ギルドに依頼が出るとすれば研究者の護衛としてだな」
「勝手に行ってもいいんですか?」
「遺跡によるな。国が保護してる遺跡を勝手に荒らせば罰せられるが、どこの国にも属してねぇ遺跡なら話は別だ。魔の森で発見された遺跡なんかがそうだな」
なるほど、とレオノールとシルヴァは頷いた。
「くに きづいてない いせきは?」
「そりゃ、発見者の特権だろ。探索するもよし、国やギルドに報告して金をもらうのも自由だ」
ニヤリと笑うアークバルトにレオノールの夢が膨らむ。
「しるゔぁ いっしょに いせきいく」
「え?でもこの辺に遺跡なんてないよ」
「わたし がざーる しらないいせき しってる」
ザワリ、と冒険者たちが騒ぎ、直ぐに静かになる。その耳は一言も聞き漏らすまい、とレオノールの言葉に集中していた。
「何処にあるのか伺っても?」
冒険者を代表してギルドマスターが尋ねるが、当然教える訳がない。レオノールはツーンと横を向いた。
「えっと、俺、一応ガザールの皇族なんだけど……」
「たんけんしたあと ろいに いう」
「そっか!そうだね!そうしよう!」
レオノールに会って半年、シルヴァは悪い子への道を邁進していた。




