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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
ガザール古代遺跡
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お土産選び

 おもちゃ屋から出てしばらくすると、シルヴァの尻尾が引っ張られる。


「こっち」


 レオノールは途中で止まって、匂いを嗅いで再び進むを繰り返す。

 食べ物にするつもりかと思って止めようかと思ったシルヴァだったが、時間停止機能付きの収納の腕輪の存在を思い出し、大人しくレオノールに付いていくことにした。そして到着した先は何故か宝石屋だった。しかも窓ガラスに皇室御用達の文字が見える。

 流石はレオノールだ。嗅覚が半端ない、とシルヴァは戦慄した。


 扉の前にはボディガードが2人立っており、近寄り難い雰囲気だ。もしシルヴァ1人で来ていたら、入ることはなかっただろう。だがそこはレオノール。躊躇う素振りもなくボディガードに近付いて行って命じる。


「とびら あける」


 ボディガードの目がレオノールに向けられ、次いで後ろに控えるジルとバーニャを見る。


「どうぞ」


 恭しく開けられた扉を潜ったレオノールを待っていたのはモノクルをかけた老紳士だった。


「おみやげ かう」


「どのような品をお求めですか?」


 逆に問い返されたレオノールは困ってシルヴァを見た。お土産を選ぶのは初めてなのだ。勝手が分からない。


「誰に買うの?」


「ぱぱに じぃじ にぃに まりー ぎぃ」


「えっと、じゃあお兄さんから選ぶ?」


 シルヴァもザギルがいるから選びやすい、と思い勧めてみる。


「カフスボタンなんかどう?いつも身につけられるし」


「かふすぼたん?」


「袖口をとめるボタンのことでございますよ。私も身につけております」


 老紳士が袖を見せれば、そこには宝石を使ったカフスボタンがキラリと光っていた。流石は宝石店、宣伝に余念がない。


「かふすぼたん みる」


 レオノールとシルヴァは並べられたカフスボタンを覗き込む。シルヴァもロイとザギルにお土産で買うつもりなのだ。


「わたしの めのいろ ある?」


 透き通るようなエメラルドは並んでいる品の中にもあるが、それと同じくらい美しい金の瞳孔に老紳士は吸い寄せられる。 


「これは……少々お待ち下さい」


 老紳士が持ってきたのはカフスボタンではなく宝石そのものだ。


「こちらの宝石の中に金色の光が見えるのが分かりますか?」


 覗き込めば、確かに散りばめられたように金色の光が見える。レオノールの目に一番近い色合いだ。


「わかる。これ いいもの」


 レオノールのお宝センサーがこれにすべし、と叫んでいる。加工してカフスボタンにしてもらうことにして、うんうん悩んでいるシルヴァを置いてレオノールは店内を見て回る。

 次に目にとまったのは宝石でできた置物だ。レオノールはその中でもウサギの置物に惹かれた。薄っすらとピンクがかった宝石でできており、目の色は赤だ。


「まりーの これにする」


「お嬢様は良い審美眼をお持ちですね。これはピンクダイヤモンドでして、たいへん貴重な物になります」


 老紳士の目に好奇心が宿る。

 その目はこの客できる、と語っていた。


「次は何に致しますか?」


「いやされるもの ある?」


 いつも書類に埋もれているギルバートへの贈り物だ。癒しがあればもっと頑張れるに違いない。


「そうですね……ではオルゴールなど如何でしょうか?」


 そう言って連れて来られたオルゴールコーナーで、レオノールは運命に出会った。蔓が出そうになるのを必死に抑え、1つのオルゴールを手にする。

 深い青色のオルゴールで取手を回してみればカパッと蓋が開き、眠っている金の獅子が出てきた。音楽も誂えたように癒し系だ。


「それを手にされるとは……」


 老紳士は恐れ入ったとばかりに、後ろで唸り声をあげた。値札はついていないが、オルゴールの中で他とは一桁値段が違う代物だ。


「ししのとなり ちっさい ぎんのりゅう ほしい」


 大きさはこれ位で眠っている姿がいいとレオノールは注文をつける。


「新たに付けるとなると少々お時間を頂きますが宜しいですか?」


「いい。ていねいに つくる」


 妥協は許さない、とレオノールが老紳士を見れば、「畏まりました」と満足そうな顔で深く頭を下げた。レオノールと気が合いそうである。


「ぎぃは らぷとる なの。くびわ ほしい」


「成程、では頑丈な物がよろしいですね」


 贈る相手がラプトルだと聞いても、動揺は微塵もない。これが紳士の、いやプロフェッショナルの鏡なのかもしれない。

 老紳士が出してきたのは銀の帯状のネックレスだ。真ん中にはデデンと大きなサファイヤが嵌められていた。


「色違いで金色もございます」


 老紳士の目が輝く。さあどっちを選ぶのか、と面白そうにレオノールを見ていた。


「きんが いい」


「流石でございます」


 金はヒヒイロカネ、銀はミスリルだ。頑丈さでも魔力伝達度の高さでもヒヒイロカネが上だ。ちなみに価格は二桁ほど違う。


「ほうせき わたしの めのいろ かえれる?」


「勿論でございます」


 それと宝石が傷つかないようにヒヒイロカネを細く糸のようにしてして円形状にし、空洞にした内側に宝石を入れられないか聞いてみる。もちろん宝石は見えるように隙間を開けるのだ。


「面白い試みですね。やってみましょう。いえ、必ずお嬢様の希望に叶ったものを用意してみせます」


 老紳士の何かに火が付いた。その心は好敵手(ライバル)を前にした戦友(とも)のように燃えている。


「まかせる」


 あとはアークバルトのお土産だ。出来ればビックリさせたい。


「ぱぱ わたしと おそろい したい。なにが いい?」


「そうですね……イヤーカフスは如何でしょうか?」


 ここでありきたりなネックレスや指輪と言わない所にセンスが光っている。

 老紳士が用意したのは耳の外縁部沿いの上の方に留めるイヤーカフスだ。ピアスと違い穴を開ける必要もないし、幅も広いため着けてもズレることなく安定する。レオノールでも安心して着けられる代物だ。気遣いも完璧である。

 全体をキラキラと飾っているのは小さなダイヤモンドで、中心よりやや上の方に大きめの宝石が1つ付いている。デザインはレオノールも気に入った。ただ……


「もっといい そざい ない?」


 素材が納得出来なかった。もっと特別な物にしたい。

 老紳士は初めて難しいそうな表情になった。レオノールに出したのは最高品質のものばかりだ。


「レオノール様、素材でしたら私が持っています。かなり大きな素材ですので、広い場所はございますか?」


「それでしたら中庭がございますのでご案内致します」


 レオノールがシルヴァを振り返ればバーニャと別の店員が付いているのが見えたので、安心して老紳士に付いていった。


 中庭でジルが取り出したのは何と黄金の巨大な爪と銀の鱗だった。


「ライオネル様の爪とバレンシアガ様の鱗になります」


 神の素材に老紳士は腰が抜けそうになるが、何とか耐えた。そして隣にいる幼女の正体にようやく気付いた。次代金獅子帝の()()だと。

 だがしかし、そんな事は関係ない。老紳士を支えるのは今も昔も変わらぬプロ魂だ。

 モノクルを光らせ、老紳士は素材を鑑定する。


「申し訳ありません。この素材を扱える技術者を私は知りません」


「わかった。わたし かこうできるように する」


 レオノールが目を瞑りライオネルの爪に触れると、先端から黄金の小さな雫がポタリと落ちた。すかさずジルがキャッチし、老紳士へと渡す。

 同じようにバレンシアガの鱗に触れて、レオノールは銀の雫を作り出した。

 

「きんは ぱぱの。ぎんは わたしの」


「逆でなくてよろしいのですか?」


 お互いの色を身に着けなくて良いのかジルが聞いてくるが、これでいいのだ。


「にあういろ ちがう。そのかわり ぱぱは みどりのほうせき、わたしは きんのほうせき つける」


「出過ぎた事を申しました」


 構わないと鷹揚に頷いたレオノールは宝石について考える。宝石も特別でなくては。

 そこでレオノールは飛空艇が金獅子の力の結晶で動いていることを思い出した。自分でも作れるかもしれない。

 

 手の平を上に向けてレオノールは集中して目を瞑る。欲しいのは緑の宝石だ。

 段々と手の平が熱くなってきて、目を開ければ小さいながらも緑の宝石が手の平の上に浮かんでいた。イヤーカフスに付けるには十分な大きさだ。


「これ つかう」


「こ、これ、は」


 老紳士は神の御業に言葉も出ない。

 震える両手を差し出し、恭しく受け止める。老紳士がモノクルで確認すれば、澄みきったエメラルドの中に金色の炎が踊っていた。その炎は1度として同じ形を取ることなく揺らめき続けている。生きている、と感じた。


「一度失礼してもよろしいでしょうか?」


「ゆるす」


 老紳士は一つの宝石を手に戻ってきた。


「これと同じ形に出来ますか?」


 それはイヤーカフスに付ける宝石の大きさと全く同じものだった。流石はできる老紳士だ。

 創った宝石はレオノールの意思通りに動き、形を変えていく。 


「できた」


 老紳士に緑の宝石を渡し、今度は金の宝石に挑戦しようとした時、ジルが待ったをかける。


「レオノール様が身に着ける物ですので、アークバルト様がお創りになられたいと思いますよ」


「でも おみやげ びっくり させたい」


「それでした先にアークバルト様のイヤーカフスを完成させましょう。プレゼントしてからレオノール様の分をお作りになればよろしいかと」


 確かに自分のイヤーカフスからアークバルトの気配を感じられれば嬉しい、とレオノールはその提案に応じた。

 そしてレオノールが店内に戻った時、まだシルヴァはウンウン唸っていた。レオノールはシルヴァの後ろで抱っこしてもらい、覗き込むとヤレヤレとため息をつく。どうやらロイとザギルの目の色のカフスボタンを探しているようだ。


「ほうせき もってくる」


 心得たとばかりに老紳士が頷き、青と緑の宝石が並べられる。ロイが緑でザギルが青だ。ちなみにシルヴァの目の色もザギルと同じ青色である。

 その中からレオノールはいくつか見繕ってシルヴァの前に並べる。

 老紳士の目は好奇心から始まり、尊敬、畏怖と続き今では立派なレオノールの信者となっていた。


「このなかから えらぶ」


「えっと、でも俺これだけしか持ってないんだけど」


 そう言って財布の中を見せてくるシルヴァに、レオノールは大丈夫だと告げる。


「ほうせき だきょう メッよ」 


 宝石マイスターなレオノールの言葉に安心したのか、シルヴァはレオノールが選んだ中から真剣に宝石を見定めている。

 その姿を見ながらちょっと離れたレオノールはチョイチョイと老紳士を呼ぶ。


「たりないぶん わたしに つけとく。しるゔぁには ないしょよ」


「畏まりました」


 小さな声でやり取りされた会話にシルヴァが気付くことはなかった。




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