街中散策
「どこか行きたいところはある?」
「ぼうけんしゃぎるど みたい」
初っ端から無理のある注文にシルヴァは髭を下げた。
「冒険者ギルドは平民街にあるから、貴族街にはないんだよ。何で冒険者ギルドに行きたかったの?」
「こだいぶんめい たのしかった。ぼうけん したい」
「古代文明かぁ。確かにワクワクしたよね。でも冒険者は魔物退治が仕事で、あまり遺跡にはいかないみたいだよ」
「そうなの?」
「うん。ほら、冒険者は古代語読めないから」
衝撃の事実である。
確かに古代語を読めなければ、宝物庫の地下にあった扉を開けることが出来なかったので、そんなものなのかもしれない、とレオノールは納得した。
ただ実際には遺跡を専門とする冒険者は存在し、貴族の3男や4男だったりする。勉強は重要なのである。
「取り敢えず歩いてみよう。はい、手」
肉球を差し出されたレオノールは、しっかりと尻尾を握った。
「まあ、いいけど」
流石は包容力のあるシルヴァだ。その姿もばっちりカメラに納められている。
ぶらぶら歩いていると服が飾られている店が多く見られる。雑多な雰囲気はなく、整然とした街並みだ。ただ残念ながらシルヴァは服にたいして興味はなく、レオノールはサイズがないっぽいのでスルーした。
「あそこ はいる」
レオノールが指さしたのはおもちゃ屋だ。
子どもらしいチョイスにシルヴァは思わず笑ってしまった。レオノールにも子どもらしい一面があったのだと知って。だがこの後、シルヴァはここに来たことを後悔することになる。
「いらっしゃいませ。お坊ちゃま、お嬢様」
「あれ みたい」
そこにあったのは大量の獅子のぬいぐるみだった。そう、金獅子ムーブである。
色々な表情をとっているぬいぐるみ達を見定め、レオノールはその内の1つを選ぶ。目付きの悪い獅子だ。
「これ、ぱぱに にてる」
「ぷっ!うん、似てると思うよ!」
その悪どそうな顔が、とシルヴァは心の中で付け加えた。
そしてふとレオノールが横を見れば、巨大な白虎のぬいぐるみがあった。
「しるゔぁも いた!」
思いっきり抱きついたら、お腹にポヨンと受け止められた。しかもフワフワ。しばらくグリグリとぬいぐるみを堪能していたレオノールは、意を決して顔を上げる。
「わたし きめた。せきにんしゃ よぶ」
「え?あ、し、少々お待ち下さい」
子どもの戯言だと聞き流そうとした店員は、後ろに従えている黒い笑顔のジルとバーニャを見て、慌てて店の奥へと引っ込んでいく。
シルヴァは嫌な予感をヒシヒシと感じた。
「お待たせ致しました。私は……」
責任者っぽい人物が丁寧に挨拶をしてきたが、レオノールは途中でぶった切って構わず告げる。
「わたし このみせ かう。いくら?」
余りの大人買いにシルヴァの毛が逆立った。
「ちょ、よく考えて?お店とかいらないよね?」
「きにいったみせ あったら かってこい ぱぱ いってた」
心の中で、盛大にアークバルトに文句を言ったシルヴァは悪くないと思う。責任者っぽい人も汗をダラダラかいている。
「レオノール様、こちらを」
そう言ってジルが差し出してきたのは虹金貨――1枚一億円――の山だ。
「これ たりる?」
ヤバい本気だ、とシルヴァと責任者っぽい人は思った。
「よく考えて?店ごと買っちゃったら選ぶ楽しみがなくなっちゃうよ。買い物は選ぶのが楽しいんだから」
6歳とは思えない切り返しに責任者っぽい人も乗っかった。
「そうでございますよ、お嬢様!ここは特別なお友達を選ぶ場所ですから!」
「とくべつな ともだち」
そう言ってレオノールはシルヴァを見た。レオノールの心は決まった。
片手に持っている目付きの悪い獅子をポイっと捨て、おっきな白虎の手を掴む。
「わたし このこに する。なまえ しるゔぁ」
「うん、分かったよ。でも、あの子も連れて帰ってあげよう?」
命の危険を感じたシルヴァは、目付きの悪い獅子をレオノールに握らせる。
こうしてシルヴァは波乱のおもちゃ屋を後にしたのだった。




