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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
ガザール古代遺跡
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お出かけ前に

 シルヴァは奥宮――皇族が住まう場所――を歩いていた。相変わらず冷たい視線が注がれ、シルヴァに誰も挨拶すらしない。例外なのがシルヴァに付けられている侍女のターナだ。 

 以前、シルヴァ付きの侍女が仕事をしていなかったことに気付いたロイが激怒し、自分の侍女をシルヴァに充てがったのだ。ターナはロイの侍女になるため、シルヴィアの権力からも守られている。難癖つけて辞めさせることは出来ない。


「おい、化け物」


 奥宮でシルヴァに話しかけるのは、ロイとザギル、そしてターナを除けば一人しかいない。第2王子であるベルガだ。第1王女は既に降嫁し帝城にはいないし、双子の第四王子と第二王女はまだ3歳だ。

 シルヴァは無視して先を急ぐことにした。今日は大切な約束があるのだから。


「おい!化け物と言ってるだろ!」


 掴もうとした手をヒラリと避ける。

 獣人族は両親の片方の特性を受け継ぐ。普人族のシルヴィアの特性を受け継いだため、ベルガは普人族だ。最強の白虎族、しかも先祖返りのシルヴァにとっては目を瞑っても避けれるほど、その動きは遅い。

 それでも以前はこの兄に恐怖を感じていた。俯いて顔色を窺い、少しでも好かれようと足掻いていた。

 でもレオノールの交流を始めてからシルヴァの世界は広がった。自分の力を恐れていたのがバカみたいに感じるほど、規格外の友人だ。 

 シルヴァよりも遥かに強く、拘束されたら手も足も出ない。完璧な存在だと思っていた父もレオノールには振り回されっぱなしだ。


 もう兄も姉も怖くない。


 嫌われようが恐れられようが、ちっとも気にならない。きっとこれが本来の自分なのだと思った。好きな人以外は無関心、それでいいのだ。


「俺の名前は化け物ではありませんけど。それと、今日はこれから用事があるので失礼します」


「こ、この!金獅子帝の甥っ子に気に入られたからと、いい気になるなよ!自分が偉くなったと勘違いしてるようだな!この人殺しの化け物が!」


 聞く価値なし、とシルヴァは無視して先を急ぐ。後ろから喚く、品のない兄の声を聞き流しながら。






「レオノール、こっちだぞ~」


 言われた通りアークバルトの方へ顔を向けるとパシャリ、と音がした。カメラである。

 カメラを貰ってからというもの、アークバルトは毎日撮影に勤しんでいた。保存の魔導具も既に2桁を越え、ロイが悲鳴を上げている。


「さすがレオノール様!どの様な格好でもお可愛らしいです!」


 バーニャがベタ褒めしている今日のレオノールの格好は、街歩き用のシンプルな物だ。フリルは付いておらず、小さなリボンが襟元を飾っている。その上にはフワフワの真っ白なポンチョだ。

 動きにくいが仕方がない。人間は寒いと死んでしまうそうで、冬は服をたくさん着込むのだとか。どれだけ貧弱なのだろうか。レオノールはシルヴァが心配になった。


「おまたせ」


 走ってくるシルヴァにレオノールはパッと笑顔――パシャリ――を浮かべる。


「ぱぱ しるゔぁと とって」


 メチャクチャ嫌そうな顔をするアークバルトを半眼で睨み、レオノールはシルヴァに抱っこしてもらう。

 レオノールがガザールに来るまでシルヴァはあまり食事を摂らず、6歳にしては小柄だった。生肉を食べるのが嫌だったからだ。そこにモリモリ生肉を食べるレオノールが現れたため、シルヴァの食事量は今では昔の3倍だ。


 そのため悲劇が起こった。


 前まで手を繋いで歩ける身長差だったのが、今では少しシルヴァがしゃがまなくては届かなくなったのだ。レオノールはフワフワのシルヴァに抱っこして貰えるので全く気にしていないが。


「とるぞー」


 やる気のなさそうな掛け声と共にシャッターの音がする……前に、レオノールは素早くシルヴァのフワフワホッペにキスをした。


「テメェ!レオノールになんてことしやがる!」


「俺は何もしてませんけど!?」


 いきり立つアークバルトにシルヴァは無罪を主張する。セクハラ犯であるレオノールは蔓でカメラを奪うと画像を確認して満足そうに頷いた。


「ぱぱ けしたら メッよ」


「…………分かった」


 写真を消すのとレオノールに嫌われるの、勝敗は明らかだった。


「わたし いってくる」


 今日は仕返しの日だ。

 前にアークバルトが約束を破って街へ行ったことへの報復なのだ。そういう訳でアークバルトは留守番である。


「バーニャ、これを」


「お任せ下さい」


 カメラを受け取ったバーニャは恭しく頭を下げる。バーニャとジルは護衛兼付き人として同行するのだ。あとロイの用意した護衛が3名コッソリ付いてくることになっている。ここにはおらず、もう街で待機しているらしい。  

 ジルに扉を開けてもらい、乗り込もうと思ったら足が届かなかったのでアークバルトに乗せてもらう。シルヴァは反対側から乗っていた。


「いいか、何かあればすぐに俺の名を呼ぶんだぞ」


「わかった」


 レオノールは魔導車の窓を開けるとアークバルトへ手を振った。








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