アークバルトの謎解き
レオノールは再び宝物庫へと来ていた。一緒にいるのはロイとアークバルトだ。ザギルとシルヴァは乗り物酔いのため不参加となっている。
本当はレオノールも参加したくなかった。気分が落ち着いたら洗いましょう、と専属侍女のターナがシルヴァに言っていたからだ。レオノールも出来ればシルヴァを洗いたかった、というか洗うべくそのままターナの後をコッソリ付いて行っていたのだが、アークバルトとロイによって敢え無く捕獲された。
「宝物庫の扉が……」
ロイが遠い目で破壊された扉を見ていた。焦ったレオノールがそのまま体当りした結果である。
レオノールはアークバルトの腕から飛び降りると、パンパンと手を2回叩いた。
「お呼びでしょうか。レオノール様」
空間が揺らぎ、影がその場に現れる。ロイは反射的に剣に手をやったが、そのまま離す。その顔には何故か諦めが浮かんでいた。
「このとびら なおす」
「御意」
更に追加で2人が現れ、魔法を駆使して扉を直すべく動き出した。
「使いこなしてんな」
「私の城なのだが……」
「はやく いく」
早く終わればシルヴァを洗えるかもしれない。グイグイ引っ張るレオノールはヒョイっと抱き上げられ、アークバルトにそのまま運ばれて行った。
「宝物庫の地下にこのような場所が」
再び出現していた不思議な扉はロイが触れることでピカッと光り、無事消えていった。
「これは……転移魔法か?」
アークバルトがボソリと呟く。
レオノールとシルヴァは扉が消えたと思ったようだが実際には違う。宝珠に触れた瞬間別の場所へ転移させられていたのだ。
後ろにある扉も最初に見たものとは別の扉で、転移魔法陣は対となって存在している。
そして転移魔法陣は、バレンシアガの核が奪われた時に使われた古代魔法でもある。
「後で回収するか」
調べれば転移を封じることが出来るかもしれない。
念のために感覚を広げて場所を確認すれば、ここはガザールにある無人島の洞窟の中のようだ。回収はそう難しくはなさそうだが……宝物庫にある宝珠を持ち出すにはロイの許可が必要になる。既にレオノールが宝を選んでいるので、手に入れるのは難しいかもしれない。
「脅すか、奪うか……いや、コッソリ盗む方が騒ぎにならねぇか?」
不穏な言葉の羅列は、先に行った二人の耳には届かなかった。
「ぱぱ はやく」
焦れて呼びに来たレオノールに促されて先に進めば、真っ黒い部屋に出た。認識阻害の古代魔法が掛けられているようだが、アークバルトには通用しない。
そのまま中に入ると精緻な魔法陣が見える。ただし、レオノールの根っこでズタズタに破壊されているが。
「一部に神文字が使われてるな」
「神文字?」
「神が使う言葉だ。それ自体に力が宿っている。まあ、テメェら人間には過ぎた代物だな」
金の炎が吹き出し、魔法陣を焼いていく。アークバルトの仕業だ。
「ここに くろい どらごんのまかく あった」
「これのことか?」
アークバルトが腕輪から深い青の魔核が取り出すと、レオノールはコクリと頷いた。漂ってくる美味しそうな匂いに涎をジュルリと飲み込む。
「黒くはないようだが」
「浄化されてんな。バレンシアガが堕ちた影響が眷属にも出たんだろう。色が青いし水竜か」
「そう言えば、昔この辺りには水竜信仰があったと聞く。海の守り神のような存在だったと」
「可能性は高いな。もともと人間に友好的だったのはバレンシアガの方だ。眷属が人間を守っていてもおかしくはねぇ」
「そうなのか?人間を滅ぼそうとしたのがバレンシアガだろう?」
「バレンシアガは人間との間に子をもうけていた。その子どもが人間に殺されたんだ。だから堕ちた。全て人間のせいでな」
アークバルトの目はまるで断罪するかの如くロイを映していた。
「人間はな、テメェが思っているより強欲で罪深い生き物だ。道を違えんなよ」
ポンッと肩の上に置かれた手が、ロイには酷く重く感じた。違えれば殺す、そう忠告された気がして。
重くなった空気を察知したが、レオノールは全く気にならなかった。頭の中はもう魔核一色だ。
「ぱぱ これたべて いい?」
レオノールはピッタリと魔核に引っ付いて、期待の眼差しでアークバルトを見る。シルヴァと約束したので許可が必要なのだ。
「問題ないだろ。いいぞ」
許しを得たレオノールはシュルリと蔓を巻き付けると吸収していく。ヒュドラほどの満足感はないが、それでもレオノールを満たしていく。やがて全てを喰らい尽くして、ほぅっと息を吐き出した。
「美味かったか?」
「うん。わたし けんぞく つくりかた おぼえた」
流石はバレンシアガの眷属の魔核だ。デュオ・アムーレに戻ったら早速試してみよう。
話している内に瞼が重くなり、クァっと欠伸が出た。シルヴァを洗わなきゃ、と思うが体は言うことを聞かず、眠りの波へと攫われていった。
「おやすみ、レオノール」




