珍しい魔導具
アークバルトとロイはテーブルに座ってコーヒーを飲んでいた。初めて飲んで以来コーヒーが気に入っているアークバルトは、買い占めて帰ろうと心に誓っている。
「んで、その魔導具とやらはどれだ?」
あれだけ勿体ぶったのだ、それ相応の物でなければ許さない。
コーヒーから手を離したロイが腕輪から魔導具を取り出す。それは丸い玉とタブレットの両端にコントローラーっポイものが付いている代物だ。更に追加で家庭用プリンターのような魔導具も置かれた。
「何だ?見たことねぇな」
「やはり知らなかったか。これは最近イーストエンドで開発されたものでな、市場にはまだ出回っていない魔導具だ。手に入れるのに随分と苦労した」
この魔導具の存在を知って以来、手に入れるべくイーストエンドにあるコネを総動員した代物である。ロイも自信満々だ。
「それで?」
「まぁ少し待て」
ロイがタブレットの両端に付いているコントローラーを動かせば、丸い玉が宙へと浮かんだ。それはアークバルトへと向かって来て……
――パシャリ
と、不思議な音を立てた。丸い玉を目で追っていたアークバルトは反射的にそれを握り、マジマジと見る。
「待て待て待て!握りつぶすなよ!?」
「しねぇよ」
パッと解放された丸い玉をロイは慌ててテーブルの上に戻した。タブレットをアークバルトに見せれば、その中に彼自身の姿が映し出されている。そう、写真である。
「何だこれは!?」
ガシッとタブレットを掴んだアークバルトの目はギラギラと輝き、血走っていた。
「カメラという魔導具だ。この丸い玉はレンズと言う」
タブレット改めカメラを見せながらロイはレンズを浮かせると花の前へ移動させる。
「レンズで捉えた映像がこのタブレットに送られてくるのだ」
カメラの画面には確かに花が映し出されており、ロイが右のコントローラーの上部側面にあるボタンを押せば、パシャリと音がする。
次にロイがレンズを動かしても、タブレットに映った花はそのままだった。
「もう分かったか?これは絵で描かなくても人の姿や風景をそのままの姿で保存出来る。これが保存のボタンだな。キャンセルはこっちだ」
ロイが保存のボタンを押せば花の映像は消え、再びレンズで捉えた風景へと切り替わる。別のボタンを押せば保存されたアークバルトの姿と花の映像が並んで表示された。
この魔導具の真価をアークバルトは正しく理解した。レオノールのあんな姿やこんな姿を永久保存出来るのだ!何と素晴らしい魔導具だろうか。出来ればあと3年早く欲しかった。
「何枚撮れる?」
「200枚だ。一杯になったらココが赤く光る。そうすればこの保存する魔導具……USBを取り替えればいい」
カメラ画面の下部側面にあるボタンを押せば、今度は細長い薄い棒のような物が出てくる。予備で持っていたUSBを新たに差し込み起動すれば、同じ様に使えた。
「あるだけ全部くれ。これからも定期的に購入するからそのつもりでいろ」
「そうだろうと思って手配している。それと削除するボタンもあるからいらない写真……ああ、映像のことだが、削除すればその分撮れるからな」
「レオノールの映像を消すわけねぇだろ」
アークバルトは撮ったり消したりを繰り返し、練習に余念がない。
「あー、そろそろ次の魔導具の説明に入りたいんだが」
そういえばもう1つ魔導具があったなと、アークバルトは意識をロイへと戻した。
「これはプリンターという魔道具でな、先程撮った写真をこれで紙に写せるんだ」
「何だと!?レオノールの映像をか!?」
レオノール一色なアークバルトに若干引きつつ、ロイは先程アークバルトと花を撮ったUSBをプリンターへと挿し込んだ。すると画面に写真の選択画面が出てきて、ロイは迷わず花の写真を選んだ。何となくアークバルトをプリントアウトするのが嫌だったのだ。
ウィーンという音と共に出てきた花の写真を掴み、アークバルトはまくし立てた。
「紙はどんなのでもいいのか!?」
「大丈夫だが、専用の物のほうが綺麗に写るぞ」
「専用の物をあるだけ用意しろ!」
「分かった分かった。ただ発明されたばかりだからな。まだそれほど数はない。それとこれが魔導具の取扱説明書だ」
「よし、投資しよう」
「はあ?」
「カメラとプリンターを発明した奴に投資するって言ってんだよ。いや、この際デュオ・アムーレに誘致するか……」
賢明なロイは沈黙を選んだ。
アークバルトなら攫ってでも誘致(?)しそうだと思ったからだ。製作者の冥福を祈るしかない。まあ、デュオ・アムーレに住みたい者は大勢いるので杞憂かもしれないが。
そうして新しい玩具に夢中なアークバルトをロイが眺めていると、遠くから喧騒が聞こえ、気の所為でなければ徐々に近付いてきている。
「くっ、動けない!」
「この先には陛下がいらっしゃるのだ!絶対に通すな!」
「この卑劣な魔物め!殿下方を人質にするとは!」
もう嫌な予感しかしない。
ロイが現実に目を向ければ、シルヴァとザギルとバカでかい宝石を蔓で抱えたレオノールが猛ダッシュでこちらに向かっているとことだった。後ろに多くの騎士を引き連れて。
「何故こんなことになっているのだ……」
「呼びに行く手間が省けたな」
いつもと変わらぬアークバルトの図太さをロイは羨ましく思った。




