お宝発見
階段の終着点には扉があった。
いや、それは扉と言っていいのか分からない。真ん中に淡く光る玉が埋められており、そこだけ扉の切れ目がなくなっているのだ。
「これって開くのかな?」
切れ目がないということは引っ付いているという事なのでは、とシルヴァが押してみるがビクともしない。レオノールも真似して押してみたが、扉が動くことはなかった。もしかしたら扉ではなく壁なのかもしれない。
「はかいする」
レオノールがちっさい拳を握った時、シルヴァから待ったが入る。
「この扉、何か字が書いてあるよ」
言われてレオノールが見れば、それが古代文字だと分かった。
「わがともの ねむり さまたげるな。しかくなきもの はいるべからず。しかくあるもの ちゅうおうの ほうじゅを さわれ。さすれば とものもとへ みちびかれん」
「凄い!読めるの!?」
「わたし べんきょう した」
「宝珠ってこれのことだよね?資格がない者が宝珠を触るとどうなるんだろう?」
「かいてない。でも だいじょぶ。わたし しかく ある」
レオノールは小さいながらも神である。神に資格がなければ、他の誰にもないに違いない。謎の自信を持ったレオノールが宝珠を触る!
……しーん
残念ながら何も起きなかった。時間差で起きるのでは、と少し待ってみても変化はない。
「わたし しかく なかった」
ションボリと報告したレオノールは、シルヴァにも触ってみるよう促す。
「資格がなくても何も起こらないみたいだし」
軽い気持ちでシルヴァが触れば、ブォンと音を立てて宝珠の光が増し、2人が目を閉じた次の瞬間には扉は跡形もなく消えていた。
「凄い!古代文明だ!」
古代文明とは、堕ちた神バレンシアガとライオネルの戦いが起きる前の文明のことだ。神同士の戦いで人の文明は1度崩壊し、現在もまだ再現できていない。
「しかく がざーるの こうぞくの ち おもう」
「確かに……帝城の宝物庫の中だもんね」
レオノールが何となく後ろを振り返ると先程の扉が出現していた。
「とびら ふっかつした」
「どうなってるんだろ?」
まぁ宝珠を触ればまた戻れるよね、と単純な子どもたちは先に進むことにした。廊下を進めば先に部屋が見えるが、その部屋の中は墨で塗りつぶされたように黒で埋め尽くされている。
レオノールが手を差し込めば、手首から先が消えた。
「大丈夫なの!?」
慌てるシルヴァに手を差し出して見せれば、ちゃんと先までくっついている。
「これ なかみえない だけ」
「びっくりした」
意を決して中に入ると様子はガラリと変わった。床には巨大な魔法陣が輝きを放っており、中央にある巨大な黒い石を魔法陣から伸びた鎖が繋いでいた。黒い石からは微かに黒いモヤが出ていて、嫌な気配が漂っている。
どう見ても、邪悪なモノを封印しています!といった感じだ。
思わず一歩下がったシルヴァとは違い、レオノールは興奮して前へ出た。
「これ どらごんの まかく。おいしそう」
魔核目掛けて飛びかかろうとするレオノールをシルヴァは必死に止めた。
「まずいよ!これ絶対危ないやつだよ!」
食べたらお腹を壊すだけでは済まない気がする。
突然のモフモフ天国により正気に戻ったレオノールも魔核の周りを慎重に回ってみた。
「だいたい わかった」
「え!?もう!?」
「このまかく わたしより よわい。たべても だいじょぶ」
「レオノールの大丈夫は当てにならないよ。さっきも扉が開かなかったでしょ」
レオノールの信頼は地に落ちていた。心外だとシルヴァを見るが、譲る気はないのか腕を組んでレオノールの行く手を遮っている。仕方ない、とレオノールは妥協案を出した。
「ぱぱに いいって いわれたら たべていい?」
「それなら、まあ。いいよ」
何故かアークバルトの方が信頼度が高いのは遺憾だが、レオノールはさっそく魔法陣を破壊した。すると少しだけ出ていた黒いモヤが一気に噴き出し、部屋全体に広がる。
「なんで破壊するの!?」
「くさりある まかく もっていけない」
「連れてくればいいじゃん!!」
もう嫌だ、と叫ぶシルヴァだったが、よく見れば黒いモヤはシルヴァを避けているようだ。
「わたしの ちから しるゔぁ まもる」
シルヴァは薄っすらと輝いている腕輪を見て、安堵の息をついた。
「それでどうするの?これ、外に出したら大変な事になると思うよ」
明らかに「自分、邪悪です!」と主張している魔核にシルヴァが嫌そうな目を向ければ、任せて!と頷いたレオノールは眼帯を外した。
金の目がひときわ強く輝く。
モヤが意思を持っているかの様に後退り、レオノールは口から金の炎を吐く。炎が触れた瞬間、脳裏に凄まじい悲鳴が届いたシルヴァは耳を押さえて蹲り、それを見たレオノールは激怒だ。
「わたしに したがう!」
今度は緑の目が輝きを増し、抵抗していたモヤが嘘のように大人しくなった。
……バレン……シアガ様
最後にそう呼ばれて目を瞬いたレオノールだったが、目の前には深い青色をした魔核があるだけだった。
「しるゔぁ だいじょぶ?」
レオノールはシルヴァの元に急ぎ、巨大な花を咲かせるとジャブジャブと蜜をかける。当然回復効果の高い蜜だ。
「わっぷ、だ、大丈夫だから、うぷ!止めて!」
言われた通りレオノールか止めれば、そこには蜜まみれになったシルヴァがいた。レオノールがチョイチョイと突付くとネッチョリとしている。
「ふわふわが たいへん!」
眼帯を装着し、シルヴァと魔核を蔓で持ち上げたレオノールは猛ダッシュで扉の前に行くと、ベトベトなシルヴァをくっつけた。
ピカッと光って最初にいた場所へ戻るなり急いで階段を登ると、もがいているザギルが見える。蔓でザギルも持ち上げると宝物庫の前で警備していた騎士を吹き飛ばし、城内を爆走していく。
「蔓の魔物だ!」
「ザギル様とシルヴァ様が攫われたぞ!」
「お助けするぞ!誰か応援を呼べ!」
アークバルトの気配を辿ってレオノールが窓から飛び降りれば、庭にいた騎士が雄叫びを上げて突っ込んでくる。
「じゃましないで」
騎士たちは接敵する前に地面から生えた根っこに捕らえられ、剣を振るうことすら許されない。ここにザギルが率いる第3軍団がいれば状況はまた違っただろうに。
ちなみにシルヴァとザギルは早々に目を回している。幸せなことだ。
騒ぎを起こしながら、ようやく辿り着いた離宮の庭には、頭を抱えたロイと機嫌良さげなアークバルトがいた。




