お祭り騒ぎとその裏で
ガザールは歓喜に湧いていた。
数日前、突如北方で金色の光が大地から天へと立ち昇ったのだ。それを見た人々は理解した。これは神の力だと。神がガザールに降臨したのだと!
多くの人が一目神の光を見ようと外へ出て……跪いた。それは人に備わった本能だ。畏れ、敬い、そして神への感謝が人々の感情を揺さぶったのだ。騒々しい喧騒もやがて静寂へと変わり、ただただ人々は祈っていた。
その光景は光が消えるまで続き、その後はそれまでの静寂が嘘だったかの様なお祭り騒ぎだ。
「ガザールの北部に神聖な何かがあるに違いない!」
「きっとあそこは聖地なのよ!」
「いや、神が見捨てられた土地を救いに来て下さったんだ!」
様々な憶測が飛び交い、それは皇室からの発表があるまで続いた。
曰く、ライオネル殿下が第1王子と共に見捨てられた土地へと赴かれ、大地を癒して下さったのだと。
アークバルトがガザールに長期間滞在していることは既に公になっており、それからは金獅子ムード一色だ。
ギルバートが魔喰樹を討伐して160年、薄れかけていた金獅子教に火……というより業火が灯り、多くの人が神殿へと押しかけた。神殿は入り切らない程の人で溢れ、真夜中になっても熱気が消えることはなかった。
露天では獅子を模した小物や人形が飛ぶように売れ、デュオ・アムーレから来たという人がいれぱ、多くの人が金獅子の情報を得るために詰めかけた。正にお祭り騒ぎである。
そんな騒ぎもようやく落ち着きを見せ始めた半月後、さらなる燃料が投下された。なんと、大地を癒やし終えた金獅子が帝都ニグルに戻ってくるというのだ!
人々は城へと詰めかけたが、ライオネル殿下は静寂を好まれると説明され、パレードも何もないという。だがここで諦める彼らではなかった。
大通りは一目アークバルトを見ようと連日人が詰めかけ、花を持った女性や子どもがチラホラと確認できる。高級そうな魔導車が通る度に歓声を上げて追いかける人々の姿は、ある意味ホラーだったと乗っていた貴族は語ったという。
そんな状態の中、アークバルトとレオノールは皇家所有の発着場へと到着した。ここから城に行くにはどうしても大通りを通らねばならない。
「申し訳ありません。本来なら陛下が出迎える筈でしたが、そんな状況でして」
汗を拭きながら説明する側仕えの男にアークバルトは舌打ちをすると、ザギルに向き直る。
「おい、秘密の通路とかあんだろ?」
こういう通路は緊急脱出のために、地下に作られているのがセオリーだ。
「流石に教える訳にはいかん」
「わたし しってる。あっち」
サラリとレオノールが案内しようとすれば、慌ててザギルが止める。なぜ知っているのかはこの際、横に置いておいた。
「秘密の通路はシルヴァがピンチの時に使うものだ。バレたらシルヴァが使えなくなってしまう」
困った顔でザギルが言えば、レオノールも訳知り顔で頷いた。この一月でレオノールの扱いが格段に上手くなっている。
「ぱぱ、ふつうのみちで かえる」
話がまとまったのを見て、両耳を押さえていた側仕えの男がホッと胸を撫で下ろした。正に命の危機一髪である。
「その、高級車と普通車どちらに致しましょうか?」
普通車には乗せられないが、高級車に乗せたら追いかけ回されて酷い目に遭うのは分かりきっている。それ故の質問である。できれば普通車を選んでくれ、と男の目は語っていた。
そんな思惑の中、並んでいる車を前にレオノールが指したのはオープンカーだった。
「本当にこれに乗るのか?」
「レオノールが乗りたいんだ。仕方ねぇだろ」
皇族が顔見せのために乗るその魔導車は後部座席が高くなっており、遠くからでも顔がよく見える。晒しプレイ間違いなしだ。
無言で並んで座ったアークバルトとザギルを他所に、レオノールは初めて乗るオープンカーに興奮気味だ。
直通の道路を通って街に入ると直ぐに人々が気付いた。騒ぎ始めた住人にアークバルトが神気を解放すれば、自然と頭を垂れて静かになる。レオノールはと言えば……アークバルトかキラキラを放っているので、自分も真似してキラキラを放ってみた。
「グッ!結構キツイのだが」
ザギルは跪くわけにはいかないので、手を着いて何とか耐えている。ちなみに運転手はジルなので問題はない。
「わたし ちから わける」
レオノールがザギルの腕輪に力を注ぐと、フッと強張った体が解れた。
「助かった。ありがとう、レオノール」
ふふん、と胸を張るレオノールの頭をザギルはそっとなでようとして、アークバルトに払い除けられた。どこまでも小さい男である。
「ようやく見つけました我が神よ」
その時、微かに女の声が聞こえた。レオノールはパッと振り返るが、全員が頭を下げているので誰の声かは分からなかった。
「どうした、レオノール」
「なんでも ない」
後ろを向いていたレオノールは前を向くと、シルヴァの待つ帝城を見る。再会が待ち遠しくて、レオノールはソワソワと体を揺するのだった。
神聖王国オフィーリアには教皇の下に6人の枢機卿がいる。
赤のイェルズ、青のラピラス、黄のウラン、白のブライト、灰のアシュレイそして黒のカーラー。
赤は神聖騎士団を率い、青は信徒たちをまとめ上げ、黄は洗脳……いや、布教を主任務とし、白は光魔法士による癒やしを与え、灰は孤児院の運営とは名ばかりの暗部の育成を、そして黒は邪教徒を討伐する異端審問官のトップとなる。
「ガザールは失敗だったな」
「ですから、時期尚早と申しましたのに」
イェルズがムッツリと吐き捨てればラピラスがクスクスと笑う。
「笑い事ではないぞ!」
禿げた頭に青筋を浮かべるのはウランだ。
布教を主任務とするだけあって、ガザールに最も人員を動員したのはウランの部隊だ。
「うるさいなぁ。結果がすべてでしょ」
手元にあるナイフを弄りながら、アシュレイが迷惑そうにウランを見る。今回アシュレイはノータッチなので気楽なものだ。
「金眼を暴走させて、金獅子に責任を押し付けるつもりが裏目にでましたね。せっかく金眼とそれを暴走させる方法を手に入れたと言うのに」
「あの喪服の女かい?あれも異教徒だ。信用するんじゃないよ」
ブライトへ忠告するカーラーはカツカツとヒールを床に打ちつける。イライラしている証拠だ。
「せっかく信者を増やしていたというのに台無しだわい!全員が金獅子教に帰依しおった。儂の部下も含めてな!」
「あんたはまだ替えの利く部下じゃないか。あたしは後継として育てていた娘を失ったんだよ。戦闘面でも精神面でもあんな逸材はいなかった!護衛として貸し出すんじゃなかったよ」
全ては天に立ち昇ったと噂される金の光のせいだ。
それを目撃したウランの部下は全員がオフィーリア教を捨て、金獅子教に入団した。カーラーが手塩に掛けて育てていたエメラルダは本物の神を見つけたと言って出奔中だ。
オフィーリア神聖王国始まって以来の珍事である。
そうやって愚痴りあっていると、パンパンと手が2度叩かれて、全員の視線がブライトへと集まる。
「とにかく今はイーストエンドに集中しましょう。ウェセントはそれからでも遅くはありません。それでよろしいですか?教皇様」
「構わぬ」
6人しかいないと思われていた部屋に、若い女の声が響く。よくよく見れば部屋の奥は御簾で覆われ、薄っすらと影が見える。
「わたくしの名を世界に知らしめよ」
「「「畏まりましたオフィーリア様」」」




