修復作業・下
レオノールが戻った時、何故か皆が尊敬の目を向けていたが、気にせず次の作業に取り掛かることにした。とはいっても、レオノールでは力不足なので、これから行うのはアークバルトだ。
「ぱぱ がざーるの りゅうみゃく つなぐ」
「分かった。どこへ繋げばいい?」
「あっち」
レオノールが指差すのは見捨てられた土地の方向だ。アークバルトが目に力を込めて行くが、龍脈は完全に枯れており、どこに繋げば良いかが分からない。だがここで分からない、と素直に言えば父の沽券に関わる。
アークバルトは目をグワッと見開いて、更にその先へと視線を向ける。血走った目が、海中にあるこんがらがった龍脈を捉えたのはそんな時だ。
「もしかしてあの玉になってるヤツか?」
「そう ちかくの だいどうみゃくが ちから かしてる」
途絶えた大動脈をフォローするために、複数の大動脈から力が流れてきているのだ。そのせいで、こちらの龍脈もこんがらがって見える。
そのお陰で小規模ながらも大動脈……とは言えない規模だが龍脈が復活していた。
だがしかし、アークバルトの目にはどれも同じような太さの龍脈に見えるので、結局どこにくっつければ良いのかが分からなかった。
「どれがガザールに繋がる龍脈だ?」
アークバルトは父の沽券を捨てて、レオノールに頼ることにした。
「あれ。あれよ」
「……すまん」
必死につま先立ちになりながら指をさすレオノールの姿は可愛らしかったが、残念ながらアークバルトにはどれが"あれ"なのか分からなかった。
むむぅ、と困って腕を組んだレオノールは支配ごっこで広げた根っこを動かす。かつての大動脈をなぞる様にクルクルと巻いて道を作る。ちょっと時間が掛かってしまったが、その道はこんがらがった龍脈の1つと結びついた。
「あれ」
「あれか!もう大丈夫だ。レオノールは根をのけてくれ」
「そのまま いく。わたし きにしない」
「レオノールを傷つけたら俺の心が痛む」
「わたし きにしない」
「……」
根っこが傷ついても気にしないのか、アークバルトの心が傷ついても気にしないのか……気になるところだ。
色んな涙を飲み込みアークバルトは力を振う。そうして出来上がったのは金色の光……いや、道か。それがガザール北部を抜けて海まで走っていく。その光は遠く離れた帝都ニグルからも確認でき、人々は跪いて目の前で起きた奇跡にただ祈りを捧げた。
そんな奇跡に全員が目を奪われていた頃、レオノールは根っこを伸ばし、魔物を養分へと変えていた。ついでに濃くなりすぎた魔力も回収していく。ロバートからは既に宝石を貰っているのだ。手は抜けない。
「レオノール!パパの勇姿を……見ていないな」
食事に夢中なレオノールにアークバルトはガックリと肩を落とし、神々しいアークバルトの姿に感動していた一同も、同じくガックリと肩を落とした。
ジェンヌとベルジュを送った後、飛空艇は龍脈沿いを飛んでいた。
「これは……すごいな」
ザギルはそれしか言葉が出なかった。
今までなかった30メートルの幅の森が延々と彼方へと繋がっている。上空から見渡しても果てはまだまだ見えない。
「もう まのもりに なってる」
一緒に覗き込んでいるレオノールが教えると、ザギルの顔が引き締まる。
「早急に対策を立てねばならんな」
いくら時間があるとは言え、魔物が溢れてからでは遅いのだ。以前使われていた砦を修復するとしても、100年以上昔のものだ。状態を見てみないと使えるかどうかすら分からない。まあ、その辺りはもうロイが動いているだろうが。
つらつらとザギルが考え事をしていると、飛空艇が着陸態勢に入った。
「あとは自然治癒でよくないか?」
適当なアークバルトに、レオノールは眉をキリリと上げると半顔で睨む。
「このりゅうみゃく なおしたばかり。そんなちから ない」
自然治癒出来るほど大地の状態は良くない。
レオノールは地面に潜るとせっせと大動脈から細い道を何本も引いていく。敷設が終わればアークバルトの出番だ。
「ぱぱ おねがい」
アークバルトが龍脈へ力を分け与えると、細かった道は太さを増して更に細分化されていく。まるで草の根っこのようだとレオノールは思う。
これで龍脈からの力が大地へ反映される。回復力も高まるだろう。
そうやってちょこちょこ飛空艇を止めながら修復を続けること半月余り、ついに海へと辿り着いた。ここまで来れば大丈夫だろうとレオノールが空を見上げれば、何か白いものが降ってくる。
手のひらで受け止めれば、それは溶けて消えていった。
「雪だな」
「ゆき なに?」
「寒い地域で降るもんだな。ウェセント大陸ではガザールだけだ」
デュオ・アムーレにも季節はあるが、雪が降るほど寒くはならない。基本年中通して温暖で、冬になると薄手の長袖を着るレベルだ。他の国も大して差はなく、ガザールだけが明確な四季がある。ルピナス山脈が原因ではないかと言われているが定かではない。
故に植生もガザールだけが特別だ。珍しい植物を求めて大陸各地から人が集まる植物学者の聖地になっている。
「ゆき きれい」
最初はチラチラと振っていたのが、今では空一面を覆っている。たまに太陽が顔を出して雪をキラキラと輝かせている。
「初雪だな。寒いはずだ」
人間のザギルは寒さが堪えるらしく、腕を手で擦っている。レオノールもバーニャにフワフワした白いポンチョを着せられ、雪の妖精にジョブチェンジだ。
「帰るか」
「うん」
白い息を吐きながら呟いたアークバルトに応えたレオノールの脳裏には、淋しくて泣いているシルヴァの顔が浮かんだ。早く帰らなくては。




