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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
龍脈の修復
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人間の都合

「しるゔぁ わたし いってくる」

「うん、気を付けてね」


「しるゔぁ わたし いってくるのよ?」

「えっと、うん、待ってるから」


「しるゔぁ さみしい?」

「う、うん。とっても寂しいよ」


 面倒臭い女の相手をする男のような会話が繰り広げられ、我慢の限界に達したアークバルトがシルヴァに引っ付いて離れないレオノールを引き剥がす。その時、ブチブチと毛が抜ける音がしたがシルヴァは黙って耐えた。6歳にして忍耐力はそこらの男より上かもしれない。

 ドナドナされるレオノールへ手を振って見送ると飛空艇が空へと飛び立った。


「ようやく行ったか」


 出発は既に1時間遅れだ。 

 主にレオノールがぐずっていたせいだ。子どもらしい姿をロイが微笑ましく感じたのは、最初の15分だけだった。


「大丈夫かな」


 毛を毟られた相手を思いやる優しさに、ロイは息子の器の大きさを見た。


「ライオネル殿下が付いているのだ。心配あるまい」


 ロイとシルヴァはしばらくの間、飛空艇が消えていった空を見あげていた。





 レオノールたちは高位貴族の屋敷に泊まりながら北を目指していた。貴族の相手はザギルが担当し、見捨てられた土地の救済アピールに余念がない。

 アークバルトは始終不機嫌そうだったが、レオノールが甘えれば機嫌が直るので特に問題はなかった。アークバルトに娘を紹介しようと待ち構えていた貴族たちは、レオノールへの溺愛ぶりを前に全て撃沈された。それはもう木っ端微塵に。

 その余波はザギルに向かったが、流石は皇太子。如在なく相手をして上手く躱していた。


 そして最後の貴族の屋敷へ到着したのは、出発してから10日後のことだった。

 今までの雅やかな貴族とは違い、質素な屋敷には飾りもなく、領主も草臥れた服を着ている。顔には大きな隈が鎮座し、貴族とは思えぬほどガリガリに痩せていた。


「この地を任されておりますバレン・セシル・デザードと申します」


「その方も聞いているだろうが、こちらが龍脈を修復して下さるライオネル殿下とアクアネル公子だ」


「よろしくお願い致します」


 言葉こそ丁寧なものの、その目はアークバルトのことを全く信じてはいなかった。

 100年以上一族が血眼になって解決策を探したのに、諦めた今になって突然出てきた希望だ。それに縋ることが出来るほど、バレンは若くなかった。 


 バレンは若い頃、自分こそがこの地を変えるのだという使命に満ちていた。時とともにそれが諦めに代わり、やがて絶望へと変化する。我々は呪われているのだと。この土地は神に見捨てられたのだと。

 多くの若者が領地を出て行き、それを補うために犯罪奴隷を安く仕入れて鉱山で働かせる。そんな領地にまともな人間が住む筈がない。

 領地を経営するのが手一杯で、領主一族ですら食うに困るありさま。嫁のきてもなく、伯爵とは名ばかりの平民の血が流れている。バレンの妻も平民の出だ。


 必要最低限の言葉だけかわし、バレンは去って行った。


「申し訳ない。デザード伯爵に悪気はないのだ。ただ、それほど生きるのに厳しい土地だということを分かって欲しい」


「ここはもう人間が住める状態じゃねぇよ。よく今まで住み続けたな」


 大地の魔力の枯渇は、植物だけでなく人間にも影響する。人間も魔力を持っているのだから当然と言えば当然だ。体調も悪くなるし、寿命も短くなるだろう。

 アークバルトは人間のしぶとさに呆れ、レオノールは感心した。


「にんげん すごい。ざっそう みたい」


「そういう時はなゴキブリ並みにしぶてぇって言うんだぜ」


「わかった。にんげん ごきぶり いっしょね」 


「もう少し違う言い方はないのか?」


 流石にゴキブリと一緒は嫌だとザギルは思った。 

 その後、バレンの屋敷に泊まる……ことなく、というか用意された部屋を見た途端アークバルトが拒絶したのでそのまま飛空艇で移動する事となった。


「レオノール、どっちだ?」


「あっち」

 

 レオノールが指したのは北西だ。その先に見えるルピナス山脈にザギルは難しい顔をした。ルピナス山脈はガザール帝国とルピナス連邦国の国境だ。もしかしたら、あちら側と話しをつける必要があるかもしれない。


 レオノールの案内で到着したのはルピナス山脈にある魔の森のど真ん中だ。しかも普通より凶暴な魔物が多く住むと有名な場所でもある。


「ところで何故この飛空艇は魔物に襲われないのだ?」


「金獅子の力で動いてるからに決まってんだろ。襲ってくる馬鹿は人間くらいだ」


 魔物より馬鹿だと言われてザギルも苦い顔だ。ただ否定ができないのも辛いところだ。小型の飛空艇の場合、停泊中に賊に襲われることがままあるからだ。実際は小型の方に要人が乗っていることが多く、警備はかなり厳重なのだが。


「このした」 


「場所を空けるか」


 アークバルトがそう呟いた瞬間、金の炎が地表を走り全てを灰にしていく――木も魔物さえも、まるで最初から存在しなかったかのように。

 これが街中だったらと考え、ゾクリと背を震わせたザギルは必死に恐怖を押し隠す。だが次の瞬間……


「ぱぱ りゅうみゃくに えいきょうでる。ちから つかわないで」


 レオノールに怒られ肩を落としたアークバルトを見て、そんな気持ちも吹き飛んだ。


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