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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
龍脈の修復
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神のお仕事

 レオノールとアークバルトが仲直りした翌日、その日は朝から生肉組プラス、ロイとザギルで食事を取っていた。これもザギルと仲良しアピールの一環である。

 ハクハクとアークバルトの口から肉を食べていると、レオノールは重要な事を思い出した。


「わたし ぱぱに メッするんだった」


 ブホッと肉を吐き出したアークバルトは、吐き出した肉がレオノールに掛からないよう慌てて燃やす。


「ま、まだ何かあったのか?」


 恐る恐る問うアークバルトにレオノールはすっくと立ち上がる。眉は心なしかいつもよりキリリと吊り上がり、両手を腰に添えるとビシリと指摘する。


「ぱぱ しごと さぼってる」


「待て待て!最近はちゃんと仕事してるだろ!?」


 ザギルとの親密アピールだ。ちなみに、その前の仕事は金眼の回収である。ただ金眼の大半を回収したのはレオノールなので、言われてみれば余り仕事をしていないような気がする。


「かみの しごと さぼってる」


 神という単語に全員の手が止まった。


「それは私たちが聞いてもいい話なのか?」


 ロイが代表して問うが、残念ながらザギルとシルヴァは興味津々にレオノールを見つめていた。


「神の仕事ってどんなの?」


「やはり世界に関することなのか?」


「お前たち……」


 ロイの気遣いが台無しである。

 でもまあ、ロイも興味はある。金獅子でないレオノールの力があれ程強いのだ。アークバルトの力がどれ程のものか気になるところだ。今までロイが見たアークバルトの力は獅子獣人に変化した時と、今見た肉を燃やす、というしょうもないものばかりだ……もしかしたらレオノールの方が凄いのでは、と一瞬ロイは疑った。


「がざーるの きた りゅうみゃく へん」


 突然でてきた自分たちの国の名前に、ロイたちが顔を見合わせる。


「北か……もしや見捨てられた土地のことか?」


「そう」


 ガザールの北は殆ど植物が育たず、見捨てられた土地と言われている。今まで大地に肥料を撒いたり、植樹をしたりと様々な試みがされたが、結局原因が分からず、今でも荒れ果てたままだ。

 それ故に北にある街は鉱山都市がほとんどで、食料は全て南から運んでいるために割高だ。何故か雨は降るのに空気は乾燥して埃っぽく、大地も干からびている。

 唯一の長所は魔物がおらず安全なこと位だろうか。まあ、肉が手に入らないと言う観点から見れば、それも長所とはいえないが。


 これはもしや見捨てられた土地の秘密を知るチャンスなのでは、とロイは優しい口調を心がけながら質問を重ねる。


「龍脈とは何かな?」


「りゅうみゃく まりょく とおるみち」


「龍脈が変と言うのはどういうことかな?」


「りゅうみゃく ちぎれてる。だいち しんじゃう」


 100年以上分からなかった謎が、ここにきて初めて浮き彫りになった。ロイとザギルが意味深に視線を交わし、シルヴァはあまり詳しくないのか、そんな2人を交互に見ている。


「あー、それはあれだ、父上のせいだな」


「じぃじの?」


「この辺りの龍脈がダメージを負ったのは魔喰樹が食い荒らしたせいだな。父上が直したはずたが、俺も詳しくは知らねぇ」


「わたし じぃじに メッする」


 お説教の対象がギルバートへチェンジし、アークバルトはいい笑顔で通信水晶をレオノールへ渡す。淡い光を放ち、すぐに水晶にデレデレとした顔のギルバートが映った。


『おお、レオノール!どうした?寂しかったのか?』


「わたし じぃじに メッしにきた」


 突然のお怒りの言葉にギルバートの顔が固まり、説明を求めてアークバルトを見るが、本人は素知らぬ顔だ。


「がざーるの きた りゅうみゃく へん。だいち しんじゃう」


『ガザールの北……?確かに直した筈だが、どこかおかしかったか?』 


「りゅうみゃく ちぎれてた。なおって ない」


 ギルバートは天を仰いだ。

 もともと力任せに力を振るうことは得意でも、細かい作業は苦手なのだ。大動脈と言うべき重要な場所は直したつもりだったが、何処かに不備があったのだろう。 


『丁度いい。アークバルト、直してこい』


 未だに我関せずな顔をしている息子に、ギルバートは苛立ちを込めて命じる。


「はぁ?何で俺が父上の尻ぬぐいをしなきゃなんねぇんだよ」


『ではそなたが戻って来て、儂の代わりに政務をするか?うむ、それも良いな。儂がレオノールと一緒にガザールで龍脈の修復にあたろう』


「じぃじと いっしょ?」


 久しぶりにギルバートに会える、とレオノールも喜んでいる。たがそんな事はさせない、とアークバルトはレオノールを抱き上げると頬と頬をくっつけた。


「レオノールはパパとじぃじどっちがいい?」


「ぱぱ」


 子どもは残酷な存在だった。

 敢え無く敗退したギルバートは、心の中で血の涙を流しながら通信を切った。






「そういう訳だ。しばらく城をあけるぞ」


「ちょっと待って欲しい。龍脈が修復されればどうなるか事前に知りたい。それと、ザギルをその旅に一緒に連れて行って貰えないだろうか?」


「どうなるかは過去の文献でも見てみろ。元に戻るだけだ。ザギルは……まあ、連れて行くだけなら構わねぇ」


「できれば高位貴族に挨拶しながら行ってほしいのだが」


「なんで俺がそこまでしなきゃならねぇ」


 金の目が細められ、不快そうにロイを見る。


「勝手な言い分だと理解している。この件をザギルの功績にしたいのだ。そうすれば祖霊信仰派だろうとザギルの立太子に文句はつけられん」


 ロイは冷や汗を流しながらも、アークバルトから目を逸らさない……が、金獅子の本質をロイは理解してなかった。ロイが見てきたアークバルトの姿はレオノールを挟んでのもの。本来の金獅子は……それほど甘くはない。

 ガっとロイの首を片手で掴むと、アークバルトは軽々と持ち上げる。


「いいかニンゲン。調子に乗るなよ。俺にものを頼みたいんだったらなぁ、贄を寄越せ。確か子が6人いただろ。その内の半分でどうだ?どうせ役に立たねぇガキどもだ。俺が始末してやる。感謝しろよ」


 クツクツと嗤うアークバルトにロイはゾッとする。今まで見せたことのない冷たい表情に、人を人とも思わぬ言動。この瞬間、ロイはようやく理解した。アークバルトにとって自分は路傍の石と同じ、何の価値もない存在なのだと。

 締められた首からおかしな音が聞こえ、ロイの意識は急速に遠ざかっていく。


「「父上!!」」


 ザギルとシルヴァが止めようとするが、アークバルトの発する覇気によってその場に倒れ込み、顔を上げることすら出来ない。ただその中、平然と動く存在がいた。


「ぱぱ まつ」


 その一言でロイは解放され、地面に転がる。首が折れているのかヒューヒューとか細い息が漏れている。

 このままでは死んでしまう……そう、ザギルとシルヴァが思った時、レオノールの腕輪がピカリと光りシュルシュルと伸びた蔓が花を咲かせると、蜜をロイに飲ませた。

 死が遠ざかり、ロイは咳き込みながら体を起こす。

 

「「父上!」」


 ザギルとシルヴァに支えられたロイを見てレオノールは安堵すると同時に、アークバルトの気持ちもよく分かった。神はタダ働きしないものだ。以前、自分も贄を要求したように、ケジメはつけなければならない……そう、本来ならば。

 レオノールはシルヴァが皇帝になるの反対派筆頭だと自認している。つまりザギルが皇帝になるのはレオノールの望みでもあるのだ。なら、やり用はいくらでもある。

 

「わたし かわりに たいか はらう。ぱぱ なにほしい?」 


「……何でも良いのか?」


「いい」


 うんうんと悩み始めたアークバルトを見つめるレオノールに、バーニャがスススっと近付いて来て、ゴニョゴニョと何事か耳打ちする。レオノールは1つ頷くと、アークバルトに向けて言い放った。


「わたし ぱぱと けっこんする」


「よし!全部俺に任せとけ!」


「式はデュオ・アムーレに帰ってからということで、よろしいですか?ウェディングドレスはお任せください」


 返事を待たずにバーニャが弾む足取りで消えていき、後には呆然とするロイとザギル、そしてシルヴァが残されたのだった。

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