秘密の遊び
今日はレオノールは珍しく1人だった。
アークバルトはザギルと話があるとかでお茶会へ行き、シルヴァは兵士たちにくっついて、街の外へ魔物退治だ。レオノールも行きたかったが、アークバルトは許可してくれなかった。
まあ、こういう事も偶にあるので、レオノールはいつもの遊びの続きをすることにした。アークバルトがロイに内緒で作ってくれた池に潜り、蔦を伸ばして花を咲かせる。この状態が一番リラックスできるのだ。
レオノールがしている遊びは、以前ワン・ジンでしたことと同じ。根を国全体に伸ばして支配する、名付けて支配ごっこだ。"ごっこ"と銘打ってはいるものの、規模もやっている事も全く可愛くはないが。
もう3ヶ月以上ガザールにいるので根はかなり遠くまで伸びている。ただ暇な時にやっているのと、ガザールがワン・ジンより遥かに大きいために、まだ全域までは行っていないと思う。
"思う"とつくのは、レオノールがガザールの国境を知らないためだ。
南と東は海までたどり着いている。
問題は北と西だ。両方とも山の中を進んでいるので、国境を越えたかどうかが分からないのだ。今日は一日中暇なので取り敢えず、根を伸ばしていくことに決めた。
せっせと根を伸ばすことしばし、北に伸ばしていた根が街へとぶち当たった。
これ幸い、とレオノールは地表に出ると雑草をポツポツと生やす。種類が雑草なのは、以前咲かせた花が珍しかったらしく、冒険者っぽい人間たちが争いながら採取しようとしたためだ。それからレオノールは、現地で生えているのと同じ草を生やすことにしている。
「ライオネル殿下がいらっしゃってから、作物の成長が早いな」
「本当に助かるわ。北はあまり育たないから」
「そうよねぇ。ただもっと北は相変わらずだそうよ」
「ああ、見捨てられた土地か」
「神の恩寵も、見捨てられた土地には届かないのかねぇ」
アークバルトの事を話しているので、ここはまだガザールだと確信する。
以前は近くの音しか拾えなかったレオノールだが、ヒュドラを喰らって力が増したため、今では媒体――根や草などの体の一部――があれば何処だろうと盗み聞きが可能だ。ただし意識を向けないと聞こえないのは相変わらずだが。
レオノールは雑草をそのままにして、更に北に向かって根を伸ばしていく。
またしばらくすると、今度は西の根が山を越えた。その麓には森が広がっているが、何となく植生がワン・ジンに似ている。
ここガザールじゃないかも、と思いながらも根を進めていくと小さな村に辿り着いた。中央には真新しい神殿っぽい建物があり、村人たちが集まっていた。
「金獅子様に感謝申し上げます」
「「「感謝申し上げます」」」
人間たちは熱心に金獅子へ祈っていた。どうやら毒に塗れた土地を元に戻したのと、ワン・ジン一族の力を奪ったことに対する感謝のようだ。
レオノールとしては生贄をもらってしたことなのだが、何故か生贄をもらった事にも感謝されていた。不思議である。
だが話の内容と、ガザール語を話してない事から、ここはルピナス連邦国だと分かった。西はここまででいいだろう、と根っこの侵攻を止める。
北の大地は進めば進むほど荒れ果てていた。
レオノールは根を伸ばすのを止めると、原因を探るべく今度は地中深くに潜っていく。そうすると龍脈の残骸が見えた。
龍脈とは魔力が流れる血管のようなもの。
魔力がなければ土地は枯れていくし、溢れるほどあれば魔の森となる。レオノールからしてみれば、魔物は大地が富んでいる証しであり、デュオ・アムーレに強い魔物が多いのはそのためだ。
魔の森の地下には龍脈の大動脈が走っており、そこから細かく枝分かれしていく。枝分かれした部分に住んでいるのが人間だ。
ガザール北部はこの龍脈が千切れているようで、大地に魔力がほとんど感じられない。植物が育たないのは当たり前だ。
これは異常事態だといえる。このままいくと大地が死んでしまう。死んだ大地は近くの大地から魔力を奪おうとし、徐々に周りの大地も死んでいくのだ。
龍脈の管理は神の管轄。つまりこれはアークバルトが仕事をサボっているということだ。
パッチリと目を開けたレオノールが池から出れば、待ち構えていたバーニャが服を着せてくれる。
「ぱぱ どこ?」
アークバルトをメッ!すべく、レオノールが問えば意外な答えが返ってきた。
「アークバルト様はザギル様と一緒に街を視察中です」
プルプルとレオノールの体が震える。これは怒りのためだ。シルヴァの案内で一緒に街を回る約束をしていたのに、その約束を破ったのだ。
「ぱぱのとこ いく」
「申し訳有りません。今日は離宮で過ごされるように言いつけられておりますので」
つまりは外に出るな、ということだ。レオノールの怒りが更にメラメラと燃え上がる。
「わたし おこってる。ぱぱに つたえて」
そう言ってレオノールは再び池の中へ入っていく。アークバルトが謝るまで……いや、謝ってもここを出る気はない。レオノールはとっても怒っているのだ。
こうしてレオノールのストライキが始まった。




