6歳の誕生日
レオノールは6歳になり、今日は小さな誕生パーティーが開かれていた。
参加者は主役であるレオノール、そしていつものメンバーのアークバルト、シルヴァ、ロイ、ザギルだ。人数は小規模だが参加者の身分はべらぼうに高かった。
ちなみに、ジルとバーニャは空気の如く後ろに控えている。
「そういえば、今日デュオ・アムーレの飛空艇が秘密裏にやって来たのだが」
明け方、ロイはそれで叩き起こされた。何せ連絡も何もなく、寝室へやって来たのはデュオ・アムーレの者だった。暗殺か!と思って跳ね起きたロイに渡されたのはギルバートからの親書。殺意が湧くのも仕方のないことだろう。
「この国がゴタゴタしてるからだろうが。父上なりの配慮だろ」
ロイの文句をサラリと流し、アークバルトは腕輪からプレゼントを出してレオノールへ近付いていく。レオノールはといえば、ザギルからのプレゼントである巨大なチョコレートケーキの周りをシルヴァと一緒に回っていた。
「すごい」
「これ全部食べるの無理じゃない?」
やや呆れ気味なシルヴァの言葉に、レオノールは力強く答える。
「わたし たべる」
たが悲しいかな。レオノールは1人で食べれない。アークバルトを探して後ろを向けば、丁度こちらに向かって来ている。その手に持っているプレゼントにレオノールのお宝センサーがビビっと反応した。
「それ なに?」
シュバッと素早くアークバルトの前へと移動したレオノールは、両手を上げてプレゼントをせがむ。
「誕生日おめでとう」
「あけて いい?」
「ああ」
早速開けようとしたレオノールの手からプレゼントが奪われ、ジルの手に渡る。自分の代わりに箱を開けようとしているのは分かるのだが、我慢が出来ずにレオノールはジルの足元をチョロチョロと動き回る。
「ほら、これなら見えるだろ」
アークバルトに抱き上げられて、ジルの手元をじっと見ていると巨大な宝石が現れた。
その宝石は深い青から緑、そしてレモンイエローへと色が変わり、角度によっては全てが混ざり合い、綺麗なエメラルドに見える。
「ふおおおお!」
ビッタンビッタン蔓が床を叩いたかと思えば、もの凄い勢いで宝石へと巻き付く。
「これは虹宝石と言ってな、宝石によって全く色が違うんだ。ほら、こうして見るとレオノールの目の色と同じだろ?」
アークバルトは巻き付いた蔦を剥がし……剥がれないのでそのまま角度を調整して見せる。
「わたしの いろ!ぱぱ ありがと」
ちゅー、と唇にキスされてアークバルトもご満悦だ。ちなみに宝石の価値を知っているロイとザギルは青ざめている。大きさと色から見て、小国の国家予算並みの価値がある。
「俺はこれ、レオノールのために作ったんだ」
純粋な子どもは、価値を金でしか計れない汚れた大人とは違った。シルヴァが取り出したのは花冠だ。練習したのか、以前レオノールが教えた時よりも格段に上手くなっている。
「ありがと シルヴァ」
花冠を頭の上に乗せてもらい、レオノールは嬉しくなってその場でクルリと回った。
「私からはこれだ」
ロイから渡されたのは巻かれた紙だ。巻いてある豪奢な紐を解けば、透かしで皇家の紋章が入っている何らかの書状だった。
「それがあればガザールの中なら何処でも行ける。何か問題が起きたらその書状を見せるといい」
それは皇家の特別な客人を指す。レオノールが何かやらかせば、それはロイが責任を負うということだ。発行されたのは歴史を紐解いても2人だけ。レオノールで3人目だ。
「へぇ、やるじゃねぇか」
「これ すごい?」
価値がよく分からないレオノールか問えば、アークバルトは頷いた。
「それがあればガザールで好き放題出来るぞ。なんたって全てタダだ」
「おかしな使い方を教えるな!トラブルが起きた時に使うものだ!」
まあ、アークバルトが言っていることも間違いではない。この書状を見せて買い物すれば、支払いは皇家持ちだ。悪用されると大変なので本当に信頼する者にしか渡さないのだ。
「ありがと」
レオノールがお礼を言ったところで、バーニャがもう1つプレゼントを持って来た。
「これはギルバート様からになります」
「じぃじから?」
アークバルトに開けてもらうと、そこには台座に乗った丸い水晶玉のような物があった。
「これ なに?」
レオノールが手を触れれば、フワリと水晶玉が輝き中にギルバートの顔が映る。
『誕生日おめでとうレオノール』
水晶玉の中のギルバートが笑う。それは長距離の会話を可能とする魔導具だった。
長距離通信の魔導具は2種類ある。魔核の魔力で発動するものと、自分の魔力で発動するものだ。
前者は魔核の等級によって会話できる距離が決まっており、強い魔核ほど通信できる距離が伸びる。ただ等級の高い魔核ほど大きくなるので、場所を取るというデメリットがある。
逆に後者はコンパクトで持ち運びも簡単だが、使用者の魔力が少なければ距離が短くなる。デュオ・アムーレからガザールを繋ごうと思えば、それこそ莫大な魔力が必要だ。
アークバルトが着けているピアス型の通信具は後者で、音声だけのものとなっている。当然、莫大な魔力保持者であるレオノールのプレゼントも同じだ。
「じぃじが いる!」
『驚いたか?これは通信の魔導具だ。これがあればいつでも儂と話が出来るぞ』
「ほんと?」
『本当だ』
レオノールがパッと笑うと、さらなるプレゼントが登場した。
『レオノール!にぃにだよ~』
『私もいるわよ。誕生日おめでとう』
「にぃに!まりー!」
喜ぶレオノールに3人は満面の笑顔だ。サプライズ成功である。
『おお、そうだ忘れていた』
ギルバートが影に手を突っ込むと、そこから黒い物体が引きずられる様に出て来た。
「ぎぃ!」
『クルルっ、クルっ、クルルル!』
ベロベロと水晶玉を舐めるギィにレオノールも涙目だ。でも……
「わたし もうちょっと ここに いる」
友達との時間を大切にしたい。レオノールの返事に、クルっと物悲しく鳴いたギィはギルバートの影の中へと帰っていった。どうやらいじけたようだ。
『すまんな。かえって悲しませたか』
「ギィ あえて うれしい」
それはギィへと向けた言葉だ。姿が見えなくてもちゃんと届いている。
『そうか、それなら良かった。ところでレオノール、儂も誕生日プレゼントを用意したのだが、それは帰ってからのお楽しみにしようと思う。去年よりもすごいぞ』
去年もらったダイヤモンドで出来た自分の像を思い出し、レオノールは目を輝かせる。
『僕も今年はキラキラしたプレゼントを用意したよ』
『私もよ。楽しみにしていて』
少しでも早くレオノールを帰ってこさせようとする3人の思惑が透けて見えるが、レオノールの天秤は残念ながらキラキラよりもフワフワに傾いた。
「しるゔぁと あそんだら かえる」
期間はない。レオノールが満足するまでだ。ククッと後ろでアークバルトが嗤い、水晶玉へ手を掛ける。
「そういう事だ。じゃあな」
何か言っているギルバートを無視して、アークバルトはブチリと通信を切った。
その後、誕生日会を満喫したレオノールはシルヴァと一緒に眠りについたのだった。




