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第34話 ギルドの介入調査

 青色の液体で満たされた小瓶、三十五階層の階層主がドロップする核に似たゴーレムの鉱石、そしてアムドゥシアスの角以外のドロップアイテム。

 カウンターにぞろぞろと並べられた錚々たる面子を見てか、ギルドの一角から悲鳴が上がった。


 レイノワールは静かに目を伏せ、メルバは手のひらで耳を塞ぐ。ミアがエリシアを見上げると、彼女はぱち、と素敵なウィンクを見せてくれた。なにもやましいことはしていない。丸めかけた背中をまっすぐに伸ばした。


──まさか、エリシアパーティーが……

──三十五階層の階層主を倒せるほど強かったか?

──ほら、リーダーと蟲使いがレベルアップしたって

──にしては少し早すぎるんじゃあ


「無論、私たちだけで倒したんじゃないわ。……とどめは私たちだけど」


 ドロップアイテムを見ればわかるでしょ? と、エリシアは付け加える。ひそひそと交わされるさざめきではなく、セルンにその言葉は向けられる。しかしエリシアは確実に周囲へ聞こえる声量で告げた。


「え、ええ」

「ほら、見たらわかるとおりアムドゥシアスの角がドロップアイテムにないし、他のアイテムも少ないでしょう?」


 セルンは頭の上にあるウサギの耳を立てる。


「そうですね。……待ってください、『アムドゥシアスの角』? ……まさか」

「そのまさかかもしれないの」


 そしてエリシアはカウンターに置かれた小瓶を前に押し出した。


「調べてもらえる? これ、協力したパーティーから貰ったものなの」


 しかし調べるも何も、こちらは大体この先の展開に予想がついている。


「セルン、これの検査ってどれくらいかかりそう?」


 エリシアがカウンターに身を乗り出して、青い光を放つ小瓶を突く。液体で満たされているので底が丸いそれは倒れることなく起き上がった。

 セルンははっとして側にいたギルド職員に小声で話しかける。明らかにセルンより年上の男性職員が眉根を寄せると、会釈だけをして小瓶を奥の部屋に連れて行った。


 しばらくして紙を持ったセルンがカウンターを出て駆け寄ってきた。エリシアは腰に手を当てて真剣な目で彼女に問いかける。


「もうわかったの?」


 セルンは困ったように眉を下げ、そして神妙な面持ちで顔を上げた。


「血液検査に協力していただいてもよろしいでしょうか」


 つまり小瓶の中身は紛れもないハイポーション。エリシアパーティーは目を見合わせるとはっきりと頷いた。


 結果は四人揃って陰性。中毒の兆候もなし。

 小瓶からは四人以外の指紋がついていた。次の矛先はもちろんそちらに向けられることになる。


「多量のアムドゥシアスの角がこの一週間で換金されなかったら、すごく怪しいと思うのよ」

「心配には及びません。すぐに調査に入ります」


 セルンがエリシアの目をまっすぐ見て言った。


「そう。悪いやつが誰かわかったら教えてね」


 エリシアが信頼を込めて伝えるが、セルンは硬い表情のまま頭を下げる。


「ご協力感謝いたします。──が」


 去ろうとしていた足が止まる。

 エリシアは小さく「逃げるわよ」と呟いた。セルンの耳がひょこりと動く。聞かれてしまったようだ。セルンの眉間に一本ずつしわが刻まれていく。


「わかっていてやりましたね?」


 メルバとレイノワールはいつの間にか姿を消している。あの二人はいつもそうだ。ミアは黙って消えた二人と、のろまな自分を呪う。

 セルンに腕を掴まれたエリシアは、顔から血の気を引かせた。そんなエリシアに手を握られてしまってはミアも逃げられようがない。


「……ええと、聞いてほしいの。セルン?」

「いいえ、聞くとか聞かないとか関係ありません。一歩間違えたら、また一年前みたいになるところだったんですよ⁉」

「それはわかってたわ」


 息を荒げるセルンに、エリシアは聞かせるつもりのない声量で答えた。


「でも、四人で何とかなるって信じてたから踏み切ったの。四十階層の階層主だったら諦めていたわ」


 セルンは誠実な言葉に疑いの目をしまうと、今度は優し気な姉の目に変わる。


「……その作戦に踏み切らせたこちらの不手際でもありますね」


 エリシアを引き留めていたセルンの手が離れていった。


「ともあれ三十五階層、階層主討伐おめでとうございます」


 業務的なものより柔らかみのあるお辞儀だった。セルンのつむじをミアは見つめる。少し震えている耳を見て、エリシアとつないでいる手に力がこもる。


「無事の帰還、お待ちしておりました」


 そしてエリシアとミアはギルドを後にした。

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