隠しコマンドと師匠と相談役と!
リンとトウコを伴い、エレベーターに乗り込んだ。
「開くボタンを押しながら一階のボタンを三回押すらしいけど……。
お、点滅した。
これで目的の階に行けるらしいな。
なんだこの隠しコマンド……」
エレベーターで間違えて階を選んだとき、連打でキャンセルできる場合がある。
メーカーによって二回か三回か違ったりする。
リンが思いついた顔で言う。
「あっ、御庭さんのことですし、忍者屋敷みたいで面白い、って思ったのかもしれませんよ!」
「あー、だからっスか!
言われてみればそうっスね!」
「拠点をおもちゃにするなって話だが、セキュリティ対策なのかな。
どうせパスワードがないと開かないドアだらけなのに、意味あるのかコレ」
「念には念を入れているのかもしれませんねー」
そうこう言っている間にエレベーターが止まる。
見た目は他の階と同じだ。
ここが何階なのかを示す表示はない。
階段は見当たらないし、火事にでもなったら困るだろ。
違法建築じゃないか?
まあ、忍者屋敷が法令順守で作られている訳もないか。
って、納得してどうする。
「この部屋っスかね?
今日のパスワードは、えっと……ポチポチっと!
お、正解っス!」
トウコが廊下の端末にパスワードを入力してドアを開く。
自動ドアが開いたところで、壁をノックする。
こういう場合の作法は、ちょっと混乱するな。
ドアをノックしてからパスワードを入力すると間が開いてしまうし……。
そもそも、自動ドアの場合はノックは要らないのか。
室内には御庭とナギさんがいた。
先ほど捕まえた吸血鬼が担架に寝かせられている。
それと……しかめっ面の爺さんもいる。
誰だ……?
御庭が笑顔で俺たちに手を振る。
「やあクロウ君、待っていたよ!」
「ああ、それで魔石を取り出すって言っていたが、どういう――」
と言いかけたところで老人が面倒そうに言う。
「じゃあさっさと済ませるぞい!
なにかと言えば老人をこき使いおって!
儂はもう楽隠居しとるんじゃからな!」
御庭が笑顔で諫める。
「まあまあ、師匠!
そうおっしゃらずに、お力添えをお願いします!
クロウ君、こちらは公儀隠密の相談役で、キンダテさん。
黄金のキンに、建物のタテと書くんだ」
金建さんか。
変わった名前だな。
金と建の二文字をつなげて書けば鍵になる。
それで鍵爺ってあだ名なのか。
続けて御庭が俺たちを金建さんに示す。
「こちらはクロウ君、リン君、トウコ君で――」
御庭が老人を示し、次いで俺たちを紹介する。
そこでトウコが驚いた顔をする。
「あれ?
爺!?」
老人が長い眉毛を動かし、トウコを見る。
「ありゃ?
トウコちゃんじゃないかい。
さっきぶりじゃの!」
「こんなところで何やってんスか?」
「何って、お仕事じゃよ、お仕事。
頼まれたら断れないたちじゃから、儂」
先ほどと変わって好々爺といった、朗らかな調子で笑う爺さん。
豹変したな。
「ええと、トウコの知り合いか?」
「この人がさっき言ってた爺っス!
なんか用事があるとか言ってたけど、これっスか?」
老人がうなずき、御庭を指差す。
「そうなんじゃよー。
この小僧がこき使いよるんじゃ!
トウコちゃんからも何とか言ってやってくれんか!」
「爺って社長の師匠なんスか?
で、店長に用事っスか?」
なんか、ぜんぜん誰が何なのかわからん会話だな。
謎の老人はトウコのゲーム友達で、御庭の師匠にあたるのか。
公儀隠密の相談役ということだが……。
どうやら偉い人らしい。
「師匠とか相談役てーのは、小僧が勝手に呼んでるだけじゃ。
まー、たまには色々教えてやるがの。
いつも用事があるのは小僧のほうじゃがな」
「はは、師匠のお力添えあっての公儀隠密ですから!」
「おべっかはいらんわ!
それで、お前さんが噂の店長か」
じろり、と老人が俺を値踏みするような顔で見る。
長い眉毛の下からのぞく眼光は鋭く、ただ者ではない雰囲気を醸し出している。
俺の噂というのは、トウコから聞いたのかな?
御庭からかな?
妙な噂じゃないといいが。
特にトウコは余計なことを言っていそうだが……。
そんなことを考えつつも、俺は礼儀正しく頭を下げる。
「どうも、クロウゼンジです。
トウコがお世話になっています」
「オトナシリンです。
よろしくお願いいたします」
俺に続いてリンも自己紹介をして頭を下げる。
「おお、そっちはリンネーちゃんじゃな!
噂通りの美人さんじゃのぉ!
ふぉふぉっ!」
老人が何やら機嫌をよくしてリンに笑いかける。
なんか、俺とぜんぜん態度が違うな。
鋭い眼光は消え、だらしなく目じりが下がる。
ただ者でない雰囲気がすっかり消えて、もはやただのエロじじいになっている。
ナギさんがいつも以上に硬い表情なのはこの人のせいか。
そう言えば前に、公儀隠密には隠居したご意見番が居ると言っていたっけ。
セクハラがひどいのでナギさんは苦手だと聞いていた。
いつもなら御庭を守るように毅然と立っているのに、今は御庭の陰に隠れて距離を取っている。
ナギさんがごほんと咳払いする。
御庭が老人を促す。
「それで師匠。
魔石の件ですが、お願いできますか?」
この人が魔石をどうにかしてくれるってことか?
それでここへ呼ばれたのか。
例の吸血鬼は担架に乗せられ、固定されて身動きが取れない状態だ。
目だけをぎょろつかせて冷や汗をかいている。
その上で凶悪犯罪者に着せる拘束服を着せられている。
これなら肉を斬ろうが骨を断とうが、逃げられないだろう。
ちょっと哀れな感じだ。
「じゃ、さっさとやるかの!
奥の部屋へいくぞい!」
そういうと金建さんはドアを開けて奥の部屋へ入っていく。
俺たちも後に続く。
「……これは!?」
奥の部屋には異様な光景が広がっていた。




