タイマンは挟み撃ちで!
吸血鬼がめり込んだ金属棚から身を起こす。
べこべこと金属を歪ませ、怒りの表情で立ち上がる。
「てめえ……!」
「話せよ。
お前はここに何しに来たんだ?
例の収穫か?
ボスの魔石を集めに来たのか?」
「……!
てめえ、どこでそれを聞いた!?」
「当たりか?
集めた魔石を使って、何をするつもりだ?
最終段階ってのは、ボスを複数集めて殺し合わせることか?」
「てめえ、勝手にベラベラとしゃべりやがって……!
知るかよ!
知ってても喋ると思うのか!」
「喋ってくれると助かるんだけどな。
言っておくけど、お前はもうここから逃げられない。
奥の連中が戻ってきたら、生き残る道はなくなるんだ。
今、俺に話せば命までは取らないと保証する!」
特異殲滅課に対話など通じない。
彼らは敵を滅ぼすことを最優先の目標としている。
俺たち特異対策課は違う。
人々を守ることが優先であり、手段は問わない。
吸血鬼だろうと活用する柔軟さがある。
男は苛立たしげな顔で吐き捨てる。
「ここから逃げられないだと?
生き残る道がないだと?
勝った気になって調子に乗ってんじゃねえッ!
てめえをぶっ殺して逃げるくらい余裕なんだよォ!」
「なら、お前を倒した後ゆっくり話してもらうことにするよ!」
男が床を蹴り、一瞬にして距離を詰めてくる。
その勢いで抜き手が突き出される。
俺は身を捩って躱しながら、刀を振るう。
しかし【ファストスラッシュ】はまたも躱された。
「しゃあっ!」
男の逆の手が俺の頭部を狙う。
鋭く尖った爪が高速で迫る!
「ふうっ!」
俺は鋭く息を吐き、手を差し込んで防御する。
【危険察知】と【回避】で攻撃は読めていた。
だがこれはギリギリ反応できる程度。
高速で迫る爪を避けることはできない!
水を纏わせた左手の裏拳で抜き手を受ける!
しかし俺の腕力では吸血鬼の攻撃を抑えられない。
手の甲を突きが滑ってくる。
パワーでもスピードでも負けているのだ。
もちろん、そんなことはわかっている!
俺が勝っているのは別のことだ!
【反発の術】を発動!
男の腕が大きく外側へ弾かれる!
「なにィ!?」
ただ弾いただけじゃあないぞ!
男の腕を吹き飛ばした反動を腕に乗せる。
拳を硬く握り、硬質化した水で拳を覆う。
「うおりゃあっ!」
防御動作をそのまま攻撃に変えた拳が顔面に炸裂する!
「ぐえッ!」
たしかな手応え!
男がのけ反る。
折れ砕けた前歯と水しぶきが花火のように散る。
さらに追撃を入れる!
頭部へもう一撃!
「インパクトストライク!」
「くうっ!」
男は体勢を崩しながらも腕でガードする。
防がれた!
だが振動は伝わった!
男の腕がだらりと下がる。
男はそのまま後ろに倒れ、ドアにぶち当たる。
「ば、バカなッ!
こんな貧弱な攻撃で……!
パワーもスピードも俺が上回っているはずだ!」
「戦いに必要なのは、それだけじゃない。
前にも言っただろ。
いくら速くてもどうにもならないってな!」
速さだけで勝てるなら苦労しないんだよ。
一つの能力に頼っていては、ダンジョンでは生き残れない。
技術、スキル、格闘能力……。
どれか一つでは足りない。
積み重ねて組み合わせてこそ真価を発揮するのだ。
「てめええッ!
俺のスピードが負けるわけはねえッ!
――加速!」
男の体がブレるように動く。
俺はとっさに水盾を展開して防御態勢を取る。
しかし攻撃は来なかった。
ばん! と大きな音がする。
それと同時に男の姿が消えた!
閉じていたドアが全開している!
逃げる気か!?
「ひひっ!
別にてめえを倒さなくたっていいんだ。
ここはいったん退いてやる!
あとでじっくりぶっ殺してやるから、怯えて暮らすんだな!」
男は廊下をもう半ばまで走り抜けている。
視認できないほどの速度は一瞬のことのようだ。
俺はその背にペットボトルを向ける。
「おいおい。
逃がさないって言ってんだろ!」
ペットボトルから高圧の水流が迸る。
そこから放たれた水が矢のように男の背に迫る。
しかし男はそれをなんなく躱す。
水が廊下にぶちまかれる。
「まさか俺が滑って転ぶとでも思ってんのかァ!?」
「いいや、違うね。
【水刃】――水マキビシの術!」
水を操作して男の着地点に術をかける。
水が鋭く尖ったトゲを形成する。
踏めば足裏を貫くマキビシだ!
「ぐああっ!」
赤い血が散る。
だがマキビシが貫いたのは男の足ではない。
とっさに足を引っ込め、手をついて逃れたのだ。
トゲは掌を貫通したが、速度は落ちない!
前転しながら、出口の扉へと突っ込んでいく。
「ひひっ!
逃げ切った!」
男が扉をくぐりながら、あざ笑うような顔で振り返る。
「これで俺の勝ち――ぐえっ!」
男が仰け反って倒れる。
自律分身が刀の峰でぶん殴ったのだ。
「ナイスだ、俺!
言ったろ、逃げられないって!」と俺。
「張ってた甲斐があったな!」と自律分身。
自律分身は初めから入口を監視していた。
吸血鬼が恨めしげな顔で俺を見る。
「うぐ……。
仲間はいないって……」
「その言葉を信じたのか?
まあ、俺しかいないって言葉は本当なんだけど、理解しなくていいぜ」
吸血鬼はそのままがくりとくずおれ、意識を失った。
俺たちはそのまま吸血鬼を縛り上げる。
捕獲成功だ!




