背取り合戦! 背後の死角へ誘い込め!
「――用が済んだから帰るだけなんだぜェェ!」
「お前はどこへも行かせない。
ましてや、のうのうと家に帰れると思うなよ!」
俺はドアを背に刀を構える。
この部屋はありふれたオフィスの一室で、このドアが唯一の出口だ。
男が左右に目を走らせる。
部屋の奥にダンジョンへ続く転送門がある。
窓はあるが、ドアは俺の背後の一つだけ。
男は逃げ場がないことを確認したのか、警戒した様子で言う。
「おい、てめえ一人か?
仲間は連れて来てねえのかよ!?」
「ここにいるのは俺だけだ。
仲間は連れてきちゃいないさ」
この言葉に嘘はない。
リンたちは学校だし、スナバさんは領域外だ。
「邪魔をするつもりなら、てめえを片付けるだけだ!
通らせてもらうぜェッ!」
俺は右手に刀を握って半身に構える。
「そう簡単に通すつもりはない。
このダンジョンに何しに来たか、話してもらうぞ!」
男がこめかみに青筋を立てて言う。
「ハイそうですかと話すと思うのか、おい?
てめえをぶっ殺して、そのまま帰るだけだ!
この間、スピードだけじゃどうにもならないとか抜かしてたよなァ。
俺だって学んだんだぜ!
もっともっと速けりゃ、どうとでもなるってなァ!」
男の姿がブレるように動く。
一瞬にして視界の外へ。
だが、どこへ行ったかは想像がつく。
自律分身として戦ったからわかる。
奴は背後に回り込む癖がある。
今、俺は扉を背にしているので相手は回り込むことができない。
本来ならそれでいいのだが、今はそれじゃあ困る。
奴を誘い込みたいからだ。
そこで俺はあえて、体を傾けて右手を前に構えていた。
つまり右側が背面になる。
狙い通りに、奴は背後に回ってきた!
俺は意識を背後に向け、刀を振る。
最速の一撃を打ち込む!
「そこだっ!」
予想通り、奴は背後にいた。
【ファストスラッシュ】によって刀身が加速する。
切っ先が奴の喉元へ伸びる。
「おおっと!」
しかし、刀は虚しく空を切った。
躱された!
奴は一歩引いてのけ反り、刀をやり過ごしている!
まさか……!?
見てから躱したのか!?
それとも攻撃を読んでいたか!?
「そんなトロい攻撃、食らうかよォ!
――もらったァッ!」
男が攻撃動作に入る!
のけ反った体勢から体を起こしながら、両手で手刀を放ってくる!
速い!
鋭く伸びた爪は、まるで研ぎ澄まされた大ばさみのようだ。
両側から鋭く速い攻撃が迫る!
刀を振ったばかりでは受けられない!
崩れた体勢では、避けることもできない!
となれば入れ替える!
俺は既に室内の一点に術の焦点を合わせ続けていた。
すぐに術を発動するためだ!
男が勝ち誇った顔で攻撃する。
その寸前で【入れ替えの術】が発動する!
男の手刀が閉じられ、破壊音が響く。
「な、なんだこれは……!?」
俺はもうそこにいない。
破壊されたのは俺と入れ替わったソファだ。
俺は男の背後に回り込んでいる。
たとえ動きが速くとも、瞬時に位置を交換すれば対応できまい!
前にこの男と戦ったのは自律分身だ。
そのときはスピードに少し手を焼いた。
今も男は想定を上回る速度と反応を見せている。
実際、大したものだ。
俺の速度も成長したっていうのに、早くも俺より速いヤツがいるとはね!
だが、今回は俺にもスキルがある!
どれだけ相手が素早かろうが打つ手はある!
男は入れ替えに驚いて動きを止めている!
ここで、さらに次の一手!
心の隙に【金縛りの術】をねじ込む!
「動くなっ!」
「ぐっ!?」
吸血鬼がびくりと驚いて硬直する。
その隙はわずか一瞬。
だがそれで十分!
俺は大きく踏み込み、横薙ぎに刀を叩きつける!
「うおりゃあっ!」
「ぐげえっ!?」
男が【フルスイング】の一撃をもろに食らう。
硬直して避けられないのだから当然だ。
吹き飛ばされた男が、金属の棚に背中を強打する。
棚をべこりと凹ませて、めり込んだ。
「さて、話を続けようぜ。
口じゃなく拳で語り合いたいってんなら、相手になってやる!」
俺は立ち上がろうとする男に切っ先を向けた。




