今日は水の日!
宝箱を回収し、罠を避け、迷宮階層を駆け抜ける。
そうして一気に十階のボス部屋までたどり着いた。
今はボス部屋前で休憩している。
リンが楽しげに言う。
「水蛇さんは便利ですねー!
おかげでスイスイ進めました!」
「罠探しローラーを持ってこなくていいのは楽だな。
荷物が減るのは大助かりだ」
と言っても、ローラーは今後も使う機会がある。
自律分身が罠のある階層を攻略するときだ。
トゲ罠がある階層ではマークをつけた安全な床だけを踏んで進む。
これは少し窮屈だ。
うっかり罠を踏む心配をしながら進まなければならない。
今回、水蛇で新たな罠を確認できた。
もちろん蓄光塗料でマーキングしておいた。
これで自律分身が低階層を周回するとき、楽になるぞ。
「やっぱりクモには飛び道具が効く。
巣に近づかなければ駆除は簡単だよな」
「クモさんはよく燃えるので、戦いやすいです。
見た目は苦手ですけど……」
道中のザコクモを相手に水忍法を試した。
クモは柔らかく、【水刃】がよく効く。
巣を張って待ち受けるクモと、遠距離攻撃の相性は抜群。
ボス相手にも有効だろう。
「ボス戦だし、念には念を入れよう」
今日はトウコがいないことだし、自律分身を出しておく。
「――自律分身の術!」
「よう、俺!」
と、現れた自律分身が片手を上げて言う。
俺は愛刀と、自律分身用のカバンを渡す。
自律分身は手早く、各種忍具で武装していく。
「よし、準備万端だ」と自律分身。
使った魔力は【瞑想】で回復した。
さらに遅効性の魔力回復丸を飲む。
「よし行くぞ!」と俺。
「おう!」と自律分身。
「はいっ!」
重い大扉を押し開け、ボスエリアへ踏み込む。
すぐ横にはリン。
少し後ろから自律分身がついてくる。
ボス部屋は暗く、闇に沈んでいる。
【暗視】があっても暗すぎて見えにくい。
俺は持ってきた蓄光塗料の残りを、ノズルの先端へ注ぎ込む。
蓄光塗料は水ではないから水忍法の対象にならない。
直接操れなくても、流れる水で押し流すことはできる!
「――【操水】!」
背中のタンクからホースへ水を送り、そのままノズルの先端に詰めた蓄光塗料を室内にまき散らす。
蓄光塗料には充分な光を当ててあり、励起状態にある。
塗料が部屋の床や柱に付着して、わずかな光を放つ。
この程度の明度でも【暗視】を持つ俺にとっては充分な光源となる。
さらに道中の壁から拝借してきた松明に火を灯し、ポイポイと部屋に投げ込む。
これでリンと自律分身の視界も確保できた。
ボスクモの姿は見えない。
気配を隠してどこかに潜んでいるのだろう。
俺は部屋に目を走らせ、姿を探す。
柱の陰、光の届きにくい天井の暗闇。
いない。
隠密状態のクモは簡単には見つからない。
部屋のそこここに、きらりと光るクモの糸が見つかる。
この糸にかかれば、こちらの動きが察知される。
それだけではなく、粘着性を持った糸で動きを鈍らされてしまう。
「じゃあ、焼いちゃいますねー」
リンはファイアボール、と明るい声で詠唱する。
そして見つけた糸を次々に焼き払っていく。
もう対策の分かった相手だ。
炎がてきめんに効くこともわかっている。
だが今日は水の日!
水忍法さんにも活躍の場を!
「コソコソ隠れる相手には……濃霧!」
まき散らした水から霧が立ち込める。
この霧は【水探知】によってそのまま索敵センサーになる。
範囲は広くないが、近づくものがいればわかる。
リンが糸を焼き、自律分身が周囲を警戒している。
索敵を続ける。
どこだ、どこにいる。
む?
霧が動く……いや、動かされた。
俺は霧を通じてその姿をぼんやりと知覚する。
ボスクモ……大アミグモだ!




