偵察待ちは自由研究で! ペットボトルで氷を作ろう!
俺たちは安全な階段で休憩中だ。
偵察に出た自律分身の帰りを待っている。
その間に【瞑想】でできる限り魔力を回復しておこう。
「あー、暑いっスねー」
トウコが着物の裾をパタパタさせ、体に風を送る。
見えちゃうぞ。
「外より階段のほうがマシだが……まあ、暑いな」
「そうですねー」
「ひんやりの術プリーズっス!」
「……濃霧!」
トウコの服に水をかけ、蒸発させる。
霧は邪魔なので動かしてどける。
「ひやー。
生き返るっス!」
それを、リンがうらやましそうな顔で見ている。
「あの……」
「濃霧!」
続いてリンにも同じようにする。
リンが嬉しそうに笑う。
「えへへ、ありがとうございまーす!」
「店長店長!
これ、限界まで冷やしたらどうなるんスか?」
「どうなるって、答えは簡単だ。
俺がすごく疲れる、だよ!」
こんなことばかりしていると魔力が回復しない。
【瞑想】のおかげで回復する量のほうが多いからいいけど……。
「あ、ゼンジさんはずっと魔力を使っているからお疲れですよね。
それなら、拠点に帰ってからゆっくり試しますか?」
「まーまー、いいじゃないっスかー。
どーせ、二号が偵察から戻るのはまだまだ先っス!」
自律分身から強い危険信号は届いていない。
ということは、偵察は順調なのだ。
多少魔力を使ったところで、回復する時間はある。
「じゃ、試してみるか。
水を限界まで気化させてみよう」
トウコのタオルに水をかけ、術をかける。
そのまま【濃霧】をかけ続ける。
すると、どんどん霧が発生していく。
しかし、氷はできなかった。
また、完全に乾かすこともできない。
「ふーむ。
【操水】と同じで、布にしみこんだ水はうまく操れないんだな」
「でもかなりひんやりしたっス!」
実験の結果が出たな。
俺が疲れてトウコが喜ぶ!
リンが俺に微笑みかける。
「お洗濯に便利ですよ!
干す前に使えば、すぐ乾きそうですね!」
「脱水の仕上げみたいなもんだな」
いいように解釈すれば便利だ。
この術だけでは生乾きになるってことだけどね。
「布にしみ込ませた状態だと生乾きまでで、氷はできなかったが……。
ペットボトルの水ならどうだ?
濃霧……!」
少しずつ霧に変わっていき、だんだん水位が減っていく。
すべての水を一瞬で蒸発させることはできない。
「お、かなり冷たくなってきたな。
さらに続けてみるぞ!」
ペットボトルを持つ手が冷えてくる。
水が固まり、氷ができてきた!
ペットボトルを左右に振る。
底にできた氷がガラガラと音を立てる。
「ふう……。
なんとか氷ができたな」
「でも霧がすごくて、よく見えないっス!」
トウコがぶんぶんと手を振って、霧をあおぐ。
お互いの顔がぼやけるほどの霧が立ち込めている。
「ふふっ。
トウコちゃん、霧のスキルなんだから、あたりまえだよー」
まあ【濃霧】は霧を出すのが主な効果だ。
気化は過程であり、それによる冷却はオマケの効果。
「ふむ。
思ったよりも水が減ったな」
トウコが不思議そうに言う。
「いっぱい霧を出したからじゃないっスか?」
「何か、おかしいんですかー?」
俺は水忍術のためにネットで色々と調べた。
にわか知識なので、あまり自信はない。
「俺も詳しくはないんだけど……。
水の比熱を考えれば、もっと少ない水で氷を作れると思ったんだよ」
水の比熱は高い。
少量の水でも、氷を作れるだけの冷却効果が得られたはずだ。
おそらく、スキルに対して物理法則はちゃんと働いていないんだろう。
水から霧が発生するプロセスは物理法則に近い。
だけど奪う熱量は物理法則とは違っている。
この差は……俺自身の認識か?
物理法則への理解が足りないのか。
あるいはスキルの仕様だろうか。
思い込みやイメージにも限界がある。
そもそも、そんな物理法則をイメージできないしな。
逆にファンタジー方向への思い込みにも限度がある。
爆発的に霧を作って水蒸気爆発!
とか、そんなことを考えてもうまく発動できない。
これくらいの氷でも、作れただけで満足しておくべきだろう。
スキルは融通が利く。
とはいえ、なんでもアリではない。
「ふーん。
ま、どーでもいいっスね。
氷もらいっス!
はー、ちべたいー」
トウコがペットボトルを額に押し当てて、ゆるんだ表情を浮かべる。
即物的な奴だな。
リンが嬉しそうに言う。
「これで、冷蔵庫が壊れても安心ですね!」
「ダンジョンに冷蔵庫はないし、外だとスキルレベルが下がって使えないけどな」
マジレスしてもしょうがないけど。
そこへ自律分身が戻ってきた。
「ん、何してるんだ?」と自律分身。
「濃霧で氷を作ってたんだ」と俺。
へえ、と感心した表情を浮かべる自律に、リンが微笑みかける。
「おかえりなさい、分身さん。
偵察はどうでしたかー?」
「まあ、二十一階と大差ないな」と自律分身。
さて、自律分身から細かい話を聞こう!
そして、せっかくだからこのまま二十二階もちょっと見ていくぞ!




