新観光スポットは熱湯の大滝で!
「おぉ!」
俺は壮大な熱湯の大滝を見上げ、感心の声を上げた。
リンは目の前の光景に圧倒されたように、トウコは興奮気味に、それぞれ声を上げる。
「わあ……!
すごい光景ですねー!」
「スゲーっ!
でもめっちゃ暑いっス!
まるでサウナみたいなんスけど!」
目の前に広がる光景は、まさに圧巻の一言だった。
ごうごうという轟音を立て、断崖絶壁から膨大な量の湯が一直線に流れ落ちている。
滝壺で砕けた湯は、もうもうと湯気を立ち上らせ、この広い空間全体を熱気と湿度で満たしていた。
そして、滝が流れ落ちる岩壁には無数の赤い結晶――熱水晶が鉱脈のように埋め込まれ、不気味な赤い光を放っている。
俺は赤い水晶群を指差す。
「この熱水晶のせいで、川の水が湯になっていたわけか。
これだけの量があれば納得だな」
滝の水が熱水晶に触れると、水晶が光を増す。
熱を放っているのだ。
「滝の裏に何かありそうだな」
「いかにも隠し通路がありそうっス!」
近くに寄ってみると、滝の裏には空洞があるとわかった。
リンが【サポートシステム】を送り込む。
「あっ、ありましたー!
後ろに通路が伸びていますよ!」
俺は滝の向こう側、水のカーテンの奥に目を凝らす。
湯気で視界が不鮮明だ。
逆に、その湯気を【水探知】で感じ取ってみる。
ほうほう。
背後に空間があるようだ。
通路になって、奥へ続いているな。
「俺にも奥の空間が感じ取れる。
進めそうな広さだな!」
トウコが顎に手を当てて思案顔で言う。
「んー。
でも、あんなところ、どうやって行くんスかね?
ここでもお湯がはねてアツいのにっ!」
トウコは薄着だからなぁ……。
むき出しの腕や腿に湯の飛沫がかかって熱いのだ。
リンが盾を構えながらトウコを呼ぶ。
「トウコちゃん、こっちにおいでー」
トウコがリンに近寄っていく。
そして、するっと盾とリンの間に潜り込んだ。
そこ!?
普通、後ろに隠れるだろ!?
「いやー助かるっス、リン姉!
こんなところに癒しのスポットがあるとはっ!
まるで砂漠のオアシスみたいっス!」
「う、うん……?」
リンは何かがおかしい、という顔で困惑気味だ。
俺もおかしいと思うよ!?
「んで、ここを突っ切るんスか?」
「いや、熱湯のカーテンを突っ切るのは無謀すぎるだろ!
火傷じゃ済まないっての」
「さすがに無理だよトウコちゃん!
きっと、他の方法があると思うなー」
正面突破は無謀だ。
俺たちは周囲を調べ、滝の横手に回ってみる。
お、こっちから通れそうだな。
「滝の横側から回り込めるようだぞ。
滑りそうだが、足場もちゃんとある」
滝の裏にくぼみがある。
濡れていて滑りそうだが足場もある。
「よし、ちょっと行ってみるか」
「大丈夫でしょうか?」
水流を直接浴びるわけではないが、湯気や飛沫が跳ねてくる。
「湯気は【濃霧】で防げそうだな。
だけど飛沫は防げそうにない」
「ヤケドしそうっスねー」
【操水】は空中を飛んでくる水は防げない。
雨粒や飛沫は操れないのだ。
なにしろ、浮遊させられないからね。
念動力とは違う。
「なら水で壁を作って……。
いや……待てよ?
これなら……!」
「何か思いついたんですか?」
「ああ。
薄い水の膜で体を包むんだ。
こんなふうにな!」
俺はペットボトルの水を自分の腕に降りかけ、纏わせた。
それを見てトウコが目を輝かせる。
「おーっ!
ウォーターシールドっスね!
涼しそうっス!」
「どちらかと言うとウォーターアーマーかな?」
「水の鎧ですねー!」
常温のぬるい水だ。
だけど高温多湿の滝付近では、むしろ冷たく感じられる。
膜で空気を遮り、水飛沫も防げる。
ぜんぜん熱くない!
「なかなか快適だぞ!」
「どうせなら、全身鎧にしたいっスね!」
腕を包む水を引き伸ばして、肩から胴体へさらに伸ばそうと試みる。
「やってみるか。
ふむ……これは、なかなか難しいな」
「ゼンジさん、頑張ってください!」
薄く伸ばそうとすると途端に難しくなってくるのだ。
パワーよりテクニックが求められる感じ。
かなり集中すれば更に引き伸ばせないこともないが……。
いや、ダメか。
ペラペラの薄い膜では強度が足りずに崩れてしまう。
その状態を維持して素早く動くとなると……。
なら水を増やしてみるか。
少ない水を引き伸ばしているから難しいのだ。
量が多ければ簡単になる。
【水生成】で水を足し、厚みを保ったまま全身を覆って……。
よし……!
顔は呼吸のために開けておこう。
「できたぞ!」
「うまくいきましたねー!」
リンがパチパチと拍手を贈ってくれる。
かなり苦労したが、全身を覆う水鎧の完成だ!
トウコがふざけて笑い、俺を指差す。
「出たっスね!
妖怪水男っ!」
「ん、そんなにヘンか?」
リンが首を横に振る。
「いえいえ、カッコいいですよー!」
「そうか……?」
それはさすがに……色眼鏡が過ぎるだろ!?
水を纏った状態で動いてみる。
ふむ、なんとか維持できそうだ。
鎧は崩れず、ちゃんと体についてくる。
ほう……これはなかなか。
何かこう、可能性を感じるな!
トウコが手をくいくいさせて催促する。
「店長、あたしにもプリーズっス!
はよはよ!」
「急かすなよ……【操水】!」
自分の分を維持しながら、更にさらに水を生成し、操る。
トウコの体を水が覆っていく。
だが、水は安定せずに波打ってしまう。
「うへへ。
くすぐったいっスよ!?」
「むむむ……。
これは難しいぞ……!」
右手で空中に丸を書きながら左手で三角を書くような作業だ。
その上で左右の足で複雑なステップを踏むような……。
頭がこんがらがってくるな!
俺は息を吐き、術を止める。
「ふう……ムリそうだ!
どうにも、二人分を維持するのは難しい」
「えーっ!?」
トウコが不満げに口をとがらせる。
リンが誇らしげに盾を掲げて言う。
「私は盾があるので大丈夫ですよー」
さっそく盾が役に立っているじゃないか。
「なら、水の膜はトウコに集中させよう!
俺はボディースーツ装備だから飛沫がかかっても大丈夫だ」
俺は自分の周囲からトウコに水を移していく。
「おーっ!
涼しいっスね!
これでバッチリっ!
じゃあ出発進行っス!」
トウコが元気よく滝の裏へ向かっていく。
俺はそれを指差し、笑みを浮かべる。
「ああ、行こうか……妖怪水女!」
「ふふっ」
リンが小さく吹き出す。
俺たちは和やかに、滝の裏へ歩みを進めた。




