気化冷却法と霧の向こうに見えるもの!?
「いざ――濃霧!」
俺は手をかざし、タオルとヘアバンドの水分を蒸発させていく。
二人が驚いた顔で言う。
「おおっ!?
ひんやりするっス!」
「頭がスースーします!」
俺はにやりと笑って説明する。
「水が蒸発するとき、周囲の熱を奪う!
これが気化冷却だ!」
トウコが俺の言葉にうなずきながら、したり顔で言う。
「吸血鬼が使いそうな技っスね!」
まさにそれだ!
マンガで見た憧れの技が今この手に!
「ま、俺の術で相手を凍らせるのはムリだけどな!」
「スキルレベルを上げたらできるんでしょうかー?」
リンの言葉に俺は首を横に傾ける。
「どうだろうな?
大量の水を一気に気化させれば氷が作れるはずだけど……」
「じゃあスキルレベルを上げちゃえばいいっス!
もっと涼しくなるっスよ!」
涼しさ特化ビルドかよ!?
暑いフロアではいいけど、他の状況で微妙になるだろ!
「まあ、攻撃用の技として使える可能性はあるか……。
氷を作るくらいならさておき、人体を冷凍するのは、かなりのパワーがいるだろう。
少なくとも、ちょっと上げたくらいじゃ難しいな」
四段階か五段階か……。
レベル次第だろうけどスキルポイントが足りない。
「クール系忍者もいいと思うんスけどねー」
ずいぶん推してくるね!?
涼みたいだけだろ!
「ま、考えておくよ。
他にも取りたい術がいっぱいあるからな」
「そうですよねー。
私もスキルポイントがぜんぜん足りなくて……。
あっ、敵さんが来ました!
ゴブリンさんです!」
リンがハッと気づいたように、前方を指差す。
横穴からゴブリンのざわついた声が聞こえてくる。
先を越されてしまったな。
俺はまだ敵に気づいていなかった。
リンの【魔力知覚】のほうが索敵能力が高いのだ。
【水探知】で敵を探すには工夫が必要だ。
何しろ敵は水中にはいない。
暑さ対策ばかりして、そっちまで手が回っていなかった。
次の機会にチャレンジしてみよう。
「ナイス索敵だ、リン!」
「はいっ!」
「んじゃ、撃ちまくるっス!」
トウコが銃を構えて不敵な笑みを浮かべる。
撃ち放題チャンス!
赤い肌のゴブリン達もこちらに気づき、騒ぎ始めている。
ゴブリンの一体が投げ槍を構える。
大きく腕を引き、投げようとする。
「ピアスショットっ!」
「ウギッ!?」
その肩を銃弾が貫く。
ゴブリンは槍を取り落とす。
槍は床に落ちたが、爆発はしなかった。
別のゴブリンが石のようなものを投擲。
「走操水刃の術!」
「ギィッ!」
熱水の川の水を遡るように水の刃が走る。
ゴブリンの腹を切り裂き、塵へと変える。
「ば、爆弾が来ます!
私の後ろに!」
「おうっ!」
リンが両手の盾を構える。
俺はその後ろで身を低くして衝撃に備える。
トウコはもっと後方へ下がったようだ。
床に落ちた赤い石が赤熱するような光を発し、だんだんと光が大きくなる。
破裂音と共に激しい熱が周囲に広がる。
リンの盾に何かがぶつかる、ぱらぱらという音。
俺は身を起こす。
ダメージはない。
リンは……。
「リン姉、燃えてるっス!」
「あっ!?」
リンの構えた盾が燃え上がっている!
体まで燃え移ってはいない。
だがリンは焦った様子でうろたえている。
「ああっ……!?」
俺は【水刃】でまき散らした水へ意識を向け、術を発動。
「リン、消火だ!
――【濃霧】っ!」
濃い霧が立ち上り、リンの体を包む。
盾の炎が小さくなっていく。
「しょ、消火っ!」
リンの声とともに魔法が発動。
小さくなっていた炎が、これで完全に鎮火する。
俺はそれを横目に駆け出し、一気にゴブリンへと距離を詰める。
「チャージショット!」
トウコの弾丸が俺の横を閃光のように駆け抜け、ゴブリンが倒れる。
残ったゴブリンは二体。
ゴブリンがツルハシを振り上げる。
だが遅い。
俺は足を止めず、すれ違いざまに首元を刀で一閃。
続く一振りで、最後のゴブリンの胸を斬り下げる。
二体のゴブリンがほぼ同時に倒れ、塵に変わる。
俺は空中に生成された魔石の一つをキャッチし、もう一つを引き寄せる。
ダブルキル!
これで最後のはずだ。
だが、まだいるかもしれない。
俺は上下左右に目を走らせる。
敵は見当たらない。
水中にも、岩壁にもいない。
「これで敵は仕留めたはずだ……!
そこの横穴を索敵するから、二人は背後と正面の確認を頼む!」
二人に指示を出しつつ、俺は漂う霧を操る。
そして散りかけていた霧を一か所に集めていく。
霧は濃く、より濃密になったところで、それを横穴へ送り込む。
霧も水の仲間。
なんとか【水探知】で知覚することができる。
とはいえ、水に比べると曖昧で、頼りにならないほどふわふわした感覚だ。
ぼんやりと存在が感じられる程度。
それでも、横穴に敵がいるかくらいはわかるはずだ。
横穴は狭くて暗く、折れ曲がっていて奥が見えない。
ゴブリンたちはここから出てきたのだ。
すぐ近くだが、視線の通らない未確認地点。
こんな場所を調べるにはちょうどいい。
【濃霧】はわずかに霧を移動させられる。
さらに【操水】を併用して移動の速度を上げる。
【水探知】で霧を感じることで、操作の精度が高まっているように思う。
横穴は奥まで続いている。
人間が通るには少し狭い。
ゴブリンなら立ったまま通れるかもしれない。
ひとまず、敵の姿はないな。
これより奧へ霧を進ませても、感覚が薄れてしまって読み取れない。
「よし、ここは大丈夫そうだ」
「正面も大丈夫ですー」
「うしろもオッケーっス!」
よし、戦闘終了!
敵の増援もない!
少しゴタついたが、なんとか切り抜けた!
霧を使った索敵も一応できたが……まだ課題があるな。
もっといい方法を考えよう!




