濃霧百パーセント! 霧隠しの術!
「――さっさと次どうぞっス!」
俺はうなずき、術の集中に入る。
「うむ。
濃霧――空気を冷やせ!」
空気を冷却することで霧を発生させるイメージ。
結果は同じだが過程が違う。
温度を操る能力として使おうというのだ。
これができれば、氷すら操れるだろう。
だが……霧は発生しなかった。
「難しいな。
じゃあ、生成した水を蒸発させて……」
【水生成】で手の平に水をためる。
その水に【水探知】を向ける。
そこへ【濃霧】をかけるのだ。
新たに得た水を知覚する能力で、手のひらの水を感じる。
そのうえで【濃霧】の操作をかけていく。
よし、いける!
水が急速に蒸発して、霧が発生しはじめる。
「あ、うまくいきそうですねー!」
手のひらの水が減り、水蒸気が立ち上って霧となる。
まあまあ、うまくいっている。
「即座に霧になるほどじゃないが、かなりの速度だ。
うまくいったぞ!
これで暑さ対策ができる!」
「うぇ?
空気を冷やすのはムリだったんスよね?
なんで、対策できることになったんスか?」
トウコが一言発するたび、頭上にハテナマークを増やしていく。
困惑に染まった表情で、トウコが難しい顔で固まっている。
「そっちじゃなくて、蒸発によって温度を下げれるって話だよ」
「気化熱、ですねー!」
リンが瞳を輝かせ、感心したようにうなずいている。
「リン、正解!
水は蒸発するときに周囲の熱を奪うんだ」
トウコが首をかしげる。
「あれっ?
蒸発するのは水が沸騰したときじゃないんスか?」
「それは別の話だ。
水の中で活発に気化しているから、ぼこぼこと水泡が出る。
そもそも熱湯から出る湯気はアツアツだ」
ちょっと説明が難しいな……。
水は沸点に達しなくても蒸発する。
そうじゃなきゃ、洗濯物を干しても乾かない。
【濃霧】は、沸騰させて蒸発させるわけじゃない。
さっき冷やすイメージでうまくいかなかったのもこれが理由か。
温度を操る術じゃあない。
あくまでも水の状態変化を操っているだけ。
気化や凝結に限定されるんだろう。
そのイメージで使えばできるかな?
ただ、今欲しいのは熱い湯気じゃなく、涼しくなる方法だ。
俺の手は水を気化させたことでひんやりと冷えている。
その手をトウコの頬に当てる。
「ほら、冷たいだろ?」
トウコが驚いて跳びあがる。
「ひやっ!?
冷たいっス!」
「というわけだ!
これを使えば、涼しくダンジョンを攻略できるぞ!」
トウコが目をぐるぐるさせて言う。
「な、なんでっスか!?
むずかしくて頭が沸騰しそーっス!」
あれ?
まだ伝わらないのか?
頭から煙を上げそうな様子のトウコの頭に絞った手拭いを乗せる。
そして【濃霧】をかける。
「こういうことだ。
冷たくなっただろ?」
手拭いから霧が立ち上り、気化によって熱が奪われていく。
「よくわからないけど、ひんやりっス!」
病気の看病で頭に水タオルを乗せるのは、頭を冷やすためだ。
水が蒸発することで熱を奪ってひんやりする。
「汗をかいて体温を下げたり、夏場に水をまいたりするだろ?
あれと同じだ。
さて、【濃霧】はかなり使えそうだとわかったし、検証は充分だろう。
のぼせそうだし、俺は先に上がらせてもらうぞ」
俺は水を生成して頭からかぶる。
そして、それを蒸発させて霧に変える。
頭が冷やされ、すっきりと冴えていく感覚。
「あ、そうでしたね。
私もすぐ上がりまーす!」
俺は霧をまとわせて立ち上がる。
下半身を重点的に、しっかりと隠している。
これぞ、霧隠れ……いや、金隠しの術!
こうして俺は悠々と湯船から上がったのだった。
没タイトルシリーズ
■やらしき中にも礼儀あり!?




