リンの新スキルは前から相談していたアレで!?
リンがおずおずと、しかし決意を秘めた表情で口を開いた。
「ゼンジさん。
ご相談があるんですが……」
俺はリンの表情をまじまじと観察する。
大丈夫そうだな。
深刻な話ではなさそうだ。
「ん、どうした?」
「レベルも上がったので、少しスキルポイントに余裕が出てきました。
それで、前に相談していたスキルを取ろうかと思って……。
改めて、一緒に考えてもらえますかー?」
「ああ、もちろんだ。
レベルは三十一になったんだったな」
「はい。
盾やトンファーのスキルは、やっぱり私のスキルリストには出てこないみたいで……。
なので、予定通り【調理器具】でいいんでしょうか?」
やや不安げな表情。
ふむ。
以前から【調理器具】スキルを取得する話はしていた。
リンは簡易モードなので、一つのスキルに複数の効果が含まれる。
セット販売方式だな。
こんな感じだ。
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【調理器具】
調理器具を扱うためのスキル。武器、防具としても使用できる。
含まれるスキルは以下。
【調理器具・威力強化】【調理器具・精度強化】【調理器具・速度強化】
【調理器具・切断力強化】【調理器具・打撃力強化】【調理器具・刺突力強化】
【調理器具・強度強化】【調理器具・軽量化】【調理器具・修復】
【調理器具・衝撃吸収】
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この効果を見る限り、武器や防具に使えそうだ。
しかし、それに対応する専用装備をまだ作れていない。
だからスキル取得も後回しになっていた。
俺がなかなか言い出さないから、気にさせてしまったのかもしれないな。
「ああ、それでいこう。
リンの戦い方に合う装備も、いくつか試作品は作っている。
だけどまだ、完成はしていないんだ。
だから、普通の調理器具で使用感を確かめてみよう」
「はいっ!」
俺の言葉に、リンの表情がぱっと明るくなる。
リンはいそいそと空中に指を走らせていく。
「取れましたー!」
「よし、じゃあ早速試してみようか。
とりあえず、そこの普通の包丁で」
草原ダンジョンのキッチンスペースには、リンが公儀隠密の給料で買い揃えた調理器具がずらりと並んでいる。
俺のアパートのキッチンより、よほど充実している。
リンは収納から肉を取り出し、まな板の上へ。
そして、使い慣れた包丁を握り、そっと刃を入れた。
その瞬間、彼女はあっと驚きの声を上げ、目を丸くして俺を振り返った。
「わあ、すごいですよ、ゼンジさん!
包丁が……すっとお肉に入っていきます!」
リンが包丁を動かすたびに、スムーズに肉が切れていく。
「ほう、切れ味が上がったってことか」
「はい!
これが【調理器具・切断力強化】の効果なんですね!」
その様子を見ていたトウコも、感心したように声を上げる。
「おおーっ!
んー、でもリン姉がすごいのか、包丁がすごいのか分かんないっス!」
リンがやや困ったように笑う。
「そうだよねー?
スキルがなくてもお肉は切れるし……。
あ、カボチャでも切ってみようかな?」
スキルの効果は地味なものだ。
威力が二倍や三倍になるようなものじゃない。
とはいえ、実戦ではわずかな切れ味の違い、速度の違いが生死を分けることもある。
「切断力強化はいったんおいておいて、次はキャベツの千切りを試してみてくれ。
速度強化の効果は目で見て分かりやすいはずだ」
「はーい!」
まな板の上に乗せられたキャベツに、リンが包丁を当てる。
とととん、と軽快なリズムを奏でて、キャベツが千切りに変わっていく。
「あっ!
速度強化のおかげか、素早く刻めますよー!」
「すっごいっス!
まるで早送りっスよ!」
「おお、すごい手際だな!
うちの店で雇いたいくらいだ……」
これならキッチンで無双できるぞ!
と、ほぼ引退したファミレス店のことを考える俺。
つい仕事のことを考えてしまうが、別に負担はない。
トウコはまだ店でバイトをしている。
人手が足りない日はリンに手伝ってもらうこともある。
あっという間にキャベツの千切りが山のようにできあがっていく。
すごいね。
速度強化で素早い手さばきが実現している。
さらに精度強化のおかげか、動作は精密で全く危なげない。
これには軽量化の恩恵もあるかもしれないな。
スキルがセットになっている簡易モードでは、総合力が一気に上がる。
リンが笑顔を輝かせる。
「これは便利ですねーっ!
お料理がもっと楽しく、捗りそうです!」
リンは心底嬉しそうだ。
俺も笑顔を返す。
調理器具が料理に使えることが分かった。
まあ、当たり前だけど便利だね!




