第八話 隼
こんにちは、作者の吉良義人です。
ついに長期休暇も終了し、これから週6日学校に行かなければならなくなりました。
……すごく面倒くさい……。
どうでも良いですね、反省します。
それでは『第八話 隼』、よろしくお願いします。
「嫌ああぁぁぁーーー!!」
テナの悲鳴のような声が響き、テナは魔物の下から離れ、負傷したアリアの下へと走っていく。
「テナっ!? こいつに背中を見せちゃ……っ!!」
ハヤトはテナを静止しようと声を上げるが、テナはかなり錯乱しているらしく、ハヤトの声が聞こえていない。
こうなると仕方が無い。出来る限りの時間を、自分が稼ぐしかない。自分が時間を稼ぐ間に、テナが正気を取り戻し、アリアを連れて退避する事を願うだけだ。
すぐに気を取り直したハヤトは、魔物に単身で突っ込んでいく。
ハヤトが剣を持っているのに対し、魔物は剣を投擲したため、今は素手だ。それに加え、魔物は疲弊している。ハヤトは、この状態ならば自分ひとりだけでもある程度は時間を稼げると踏んだのだろう。
しかし、その考えは甘かった事を、ハヤトはすぐに悟った。
魔物は先程までの疲弊した様子は噓だったかのように、拳を構えて軽やかにステップを刻み始めたのだ。
「……鎧にステップって……」
ハヤトはそんな魔物に、色んな意味でげんなりとした顔をしているが、それに構わず、魔物はハヤトに襲い掛かってくる。
鎧を纏っているにも関わらず、素早い動きでハヤトに接近してくる魔物は、高速で拳を突き出す。
それを後退する事で避けたハヤトだったが、魔物の次の行動に目を大きく見開いた。
魔物がその場で一回転しながら、右足で遠心力を乗せた回し蹴りを放ってきたのだ。
「どわっ!?」とよく分からない声を上げながら、ハヤトはそれも後退する事で避ける。しかし、魔物の攻撃はまだまだ続いていた。
右足での回し蹴りから、左膝での飛び膝蹴り。それから右拳での捻りを込めた突き出し。
一つ一つの攻撃の動きは緩慢なのだが、その威力は馬鹿高いため、容易に反撃が出来ない。下手をすると、大きな反撃を受けるからだ。
そうこうしている間に、ハヤトに疲れが見え始め、魔物の攻撃を避け続ける動きにも乱れが出てくる。
それを見た魔物は、これまでの緩慢な動きではなく、俊敏で強力な回し蹴りを放つ。
突然の回し蹴りに反応出来なかったハヤトは、剣で回し蹴りを止めようとするが、抵抗むなしく剣ごと吹き飛ばされ、地に叩き伏せられる。
背中を強く叩いた衝撃に咳き込みながら、ハヤトは、上下逆さまになった視界の中で、魔物が剣を拾い、テナとアリアの方へと歩いていくのに気が付いた。
アリアは痛みに気を失っているのか、身動き一つ見せていない。テナは魔物に剣を向けているが、あれでは戦力になると考えない方が良いだろう。
どうにかしてテナたちの方へと行こうとするが、魔物から受けた攻撃が思いのほか重く、上手く立ち上がる事が出来ない。しかし、早く立ち上がらなければ、テナはあの魔物に殺されてしまう。
焦りばかりが積もり、指が地を大きくかいた。しかし、そんな事をしても、立ち上がる事は出来ない。
ようやく身体を反転させ、うつ伏せになったハヤトがふと目線を上げた時、魔物はテナの前まで移動し、剣を頭上に掲げているのが見えた。
あの剣が振り下ろされれば、赤い鮮血が飛び散り、テナは死ぬのだろう。
そこまで考えた途端、ハヤトにふと、二年前の世界樹攻略の光景が、頭の中で再生された。
自分が世界樹攻略最前線で戦う冒険者として活躍していた時期の、最後の攻略の事だ。
自分はパーティのとある少女に恋をしし、そしてその少女を絶対に守り抜こうと決意していた。しかし、その少女は、その攻略の時に、自分の目の前で魔物の手によって殺された。
あれ以来、自分は世界樹攻略から離れ、罪に追われ続けてきた。
そして、テナに世界樹攻略に誘われた時に、こう思ったのではないのか。
――この少女は絶対に守り抜く。もう二度と、自分の目の前で誰も死なせはしない。と――
それがどうだ。
今現在、テナは魔物の手によって殺されかけ、そして自分は地面に這いつくばっている。
「これがお前の決意か」という言葉がハヤトの中で駆け巡り、ハヤトを問い詰める。それに、ハヤトは心の中で叫ぶ。「絶対に死なせはしない」と。
ハヤトの中でカチリッ、と何かが動き、元ある場所へと戻るような音がした気がした。
「………っ!!」
自分の足に、手に、身体に「動け」と強く念じる。
手が地面に立ち、上半身が少し持ち上がる。このまま行けば、無事に立ち上がる事も出来るだろう。だが、今は一秒さえも惜しかった。
地面に指を立て、後ろへとかく。それと同時に足で地面を強く蹴り、何とか走り出す。
「だらああぁぁぁ!!」
魔物に向けて立ち上がった自分の存在を知らしめるように、大きく声を張り上げながら、ハヤトは剣を下段に構え、突進した。
何度も転びそうになり、足がもつれそうになるが、全て無視して、ただひたすらに走り続ける。
魔物は立ち上がったハヤトの存在に気が付いたらしく、ハヤトの突進を避けるべく、大きく横に跳んだ。
何とかテナと魔物の間に転がり込んだハヤトは、魔物に向けて剣を構えた。
「……ハヤト……」
テナの言葉が聞こえ、それにハヤトは答えた。
「テナっ!? 大丈夫か!?」
「………うん……」
テナの返答を聞き、ひとまず安心したハヤトは、魔物を注意深く見つめる。
魔物は予想以上に立ち上がるのが早かったハヤトに驚いているような雰囲気を出していたが、やがて剣を構えなおした。
相変わらず、その魔物の不気味な圧力は健在だ。しかし、今のハヤトには、それが前ほど脅威的だとは思えなかった。
「……テナ。あいつをこれから倒す。だからアリアを連れて――」
「待ってハヤトさん! さっき、アリアが『左脇』って言って……」
ハヤトの言葉を遮るように言ったテナの言葉に、ハヤトは思わず魔物の左脇腹に目を走らせる。
魔物の鎧の節々には、アリアの放った矢が幾つも顔をのぞかせている。しかし、左脇腹にだけは一本も矢が刺さっていない。そういえば、幾度にも渡る攻防の中でも、魔物は左脇だけは攻撃させようとしなかった。
これの意味する事は――
「魔結晶っ!」
恐らくは、魔物の左脇腹の辺りに、魔物の核となる石、魔結晶があるのだろう。
「ありがとうテナ。ここは僕に任せて、テナはフェルノさんをお願い」
「……ハヤトさんは?」
ハヤトの言葉に、テナは不安そうな顔を見せる。そんなテナに少し微笑みながら、ハヤトは言った。
「……大丈夫。必ずあいつを倒して、生きてカナレアまで行こう」
ハヤトの言葉に、テナは安心したような表情を浮かべ、そして頷いた。
それを確認し、ハヤトは再び魔物に向き合う。
魔物は、重心を低くして、剣をハヤトに向けている。どうやら、自分の方から攻めていくつもりは今の所無いようだ。
そんな魔物の様子を見て、ハヤトは軽く笑みを浮かべ、そして一気に接近する。
先程までよりも速いハヤトの動きに、魔物は若干遅れながらも、時を合わせて拳を突き出す。
それを身体を捻り、紙一重の所で避けたハヤトは、魔物の左脇腹目掛けて剣を横薙ぎにする。が、剣は、後退した魔物の腹部の鎧を掠めるに留まった。
距離を大きく取った魔物は、ハヤトの様子が先程までとは大分違う事に気が付いたのか、ハヤトに強い警戒を示す。
そんな魔物に向けて、ハヤトは余裕のあるような笑みを浮かべているが、内心、焦りを感じていた。
先程の魔物の攻撃により、かなり体力が削られたのが災いし、長期戦はまず出来ない。ならば速攻で魔物を倒さなければならない訳だが、魔物はどうやら戦い慣れしているらしく、引き時を間違えるような事は滅多にしない。
となると、多少無理をしてでも、魔結晶を砕かなければいけない。
若干荒くなっていた息を整えたハヤトは右脇に剣を構える形で、再び魔物への突撃を行った。
自らの前を覆うような形で、魔物は剣を斜めに持ち、ハヤトを待ち構える。恐らくはハヤトが肉薄してきたところで、力任せに押し返すつもりなのだろう。
だが、ハヤトは構わず魔物に突撃を仕掛け、魔物の剣の真ん中に、突撃の速度に身体の捻りを加えた、強烈な突きを見舞う。
「……っ!!」
痛みに声を漏らしたハヤトだったが、続けて魔物の剣に、全体重をかけた体当たりを当てる。
二つの強力な衝撃を立て続けに受けた魔物は、後ろへとよろめき、思わず剣から手を離す。
その隙を逃さず、ハヤトは魔物に向けて剣を横薙ぎにする。
ハヤトの剣は魔物の鎧を砕き、その中に真紅の結晶を露出させるが、その衝撃で真っ二つに折れる。
折れた剣の先には見向きもせず、ハヤトは魔結晶目掛け、膝蹴りを叩き込もうとするが、突然、小さく呻き声を上げ、そのまま倒れこみそうになる。
ハヤトの腹部に、魔物が拳を叩き込んだのだ。
拳を引き戻した魔物は、倒れこんでいくハヤトの顎を目掛けて再び拳を放つ。
顎を強打され、視界が暗転する。平衡感覚が無くなり、自分がどうなっているのかも良く分からない。ただ、自分が敗北した、という事実が頭を占めていた。
だが、自分が敗北するという事はテナが死ぬという事ではないのか。
テナの事だ。自分が敗北したら、やはり魔物に一人で立ち向かっていくだろう。
テナを死なせてはならない、と本能が大音量で叫んでいた。そして、意識の片隅で、テナが何かを叫んでいたのが分かった。
テナが何を言っていたのかは良く分からなかったが、ハヤトに再び戦わさせる意思を戻すには、十分だった。
自分の顎を打った魔物の腕を、暗くなっていく視界の中で掴み、魔物の場所を掴んだハヤトは、魔結晶の位置の目星を付け、そこに折れ残った剣を叩き込む。
「グウゥゥ……」
魔物が微かに漏らした苦悶の声に、魔結晶に当たったのだと推測したハヤトは、何度も剣を叩きつける。
2度、3度と叩きつけ、5回叩き付けた時に、ピシッ、とひびが入ったような音がハヤトの耳に入る。それが魔結晶のものなのか、それともハヤトの剣のものなのかという事は分からなかったが、構わずハヤトは剣を叩きつける。
そして、
「グオオォォ……!!」
断末魔の声を上げ、魔物は大量の塵となって消え失せ、後には魔結晶の欠片が、血のような紅い輝きを放っていた。
その紅い輝きを見ながら、今度こそ意識が飛んでいくのが分かった。
『第八話 隼』、如何だったでしょうか。
今回も気になった事、感想。批評などは大歓迎ですので、辛口批評でも何でも気楽に書いてください。
それでは、次回の更新も楽しみにして頂けると幸いです。




