第七話 過去
こんにちは、作者の吉良義人です。
最近、昼間の太陽の光を浴びると溶けそうになります。
……どうでも良いですね、反省しています。
それでは『第七話 過去』、よろしくお願いします。
高速で回転しながら目の前に迫ってくる、巨大な剣。
アリアは限界まで身体を捻って、それを回避しようとするが、抵抗むなしく、剣はアリアの右肩を斬り裂いた。
剣の勢いに身体が押され、アリアは後ろへと少し飛ばされながら地面に倒れこんだ。
「嫌ああぁぁぁーーー!!」
テナの悲鳴のような声が耳に入ってきたが、今はそれどころではない。
背中を叩き付けた衝撃に咳き込みながら、アリアは鮮血が流れ出ていく肩を押さえるが、血は止まるどころか、ますます勢いを増して流れていく。
流血による血の不足と、日常では感じる事の無い激しい痛みに、意識が遠のきそうになる。
「……アリア! アリア!!」
魔物と戦っていたはずのテナが、いつの間にか傍にいて、自分の名前を必死に呼んでいる。その目からはぽろぽろと大粒の涙が幾つも零れており、真っ赤に充血してしまっている。
テナはもう、自分が何を言っているのかも分からない、錯乱した状態なのだろう。しきりに「ごめん、ごめん」と繰り返している。
どうにかして、テナに「自分は大丈夫だ」と伝えたかったが、相変わらず肩を中心に走っている激痛に、意識がどんどん遠のいていく。
××××××××××
エーレンの学園区、冒険者になる事を志望する若者を育成する学園内部に、その少女はいた。
輝くような金色の髪に、美しい碧の眼。背筋をきちんと伸ばし、堂々とした態度で廊下を歩くその少女の名前は、アリア=フェルノ。
冒険者たちにとって馴染みの深い貴族、フェルノ家の娘で、現在はエーレンの学園区にて学業を修めている途中だ。
すれ違っていく生徒や教師までもが、アリアに敬語を使って、礼儀正しくお辞儀までしてくる。
その一つ一つに柔らかな笑みを浮かべ、やはり丁寧な応対をしていくアリアだったが、近くに誰もいなくなると、うんざりしたように大きく溜め息を吐いた。
「まったく……。こういうのも疲れますね」
そう独りで零し、アリアは歩き続ける。
しばらく歩き続けたアリアは、学園の正面玄関を抜け、広場に出る。次の授業は、冒険者としてもっとも大事な戦闘力を高めるための訓練、要は戦闘訓練だ。
広場には、アリアと同じく戦闘訓練を受ける生徒たちが立っている。
その一人一人がやはり、アリアに頭を下げ、敬意を表すように丁寧に挨拶してくる。
それに応対しながら、アリアは、馴れ馴れしい笑顔で近づいてくる少女を見ていた。
歩くたびに後頭部で一つに結われた髪が揺れ、見る者に活発な印象を与えるその少女はテナ=レスター。アリアが学園で最も苦手としている人物だ。
「こんにちはアリア、今日もよろしくね」
そう言ってにこやかに微笑むテナに、アリアも言葉を返す。
「こんにちはレスターさん。こちらこそ、よろしくお願いします」
他の人にそうしているように、礼儀正しく挨拶を返したアリア。しかし、テナは不満気な顔をした。
「もぅ~……。私の事はテナ、で良いってば」
「……はい、次からは気を付けさせて頂きます」
アリアの言葉に、テナはまだ何か言いたそうな様子だったが、教師がやって来るのを見て、その口を閉ざす。
二年前までは現役で冒険者として活躍し、現役時代は世界樹攻略の進歩に多大な貢献をしてきたと言われているエルダ=ヴェノム。まだ若く19歳でありながら、学園区一の鬼教官にして最強の教官として、その名を知らない者は学園区にはまずいない。
その美貌のため、多くの男たちが近づいてきたが、全ての人間を文字通り粉砕してきた女性で、素手で魔物を何匹も倒したという伝説まで語り継がれている。
喧騒に包まれていた広場は、エルダが来た途端に、耳が痛くなるほどの静寂に包まれる。
無言で生徒たちの目の前まで歩いてきたエルダは、はっきりとした声で言った。
「今日は、世界樹第5層までの区間で実地訓練を行う。各自、これまでに会得した全ての技術を総動員し、慎重に事に当たれ!」
そして、エルダは「以上だ」と締めくくり、広場を出て行く。エルダの後から入ってきた女教師が、あたふたと実地訓練に関する詳しい説明を行っている。
それを半ば聞き流しながら、アリアはエルダの後姿を見ていた。
学園区において、ほぼ全ての教師がアリアには敬意を払っているのに対し、エルダのみはアリアを一生徒としてしか見ておらず、当然敬意などを払うような事は全くない。
これまでの人間はアリアがフェルノ家である事に遠慮し、そうそう近づいてこない。それに対し、テナやエルダは無遠慮にずかずかとアリアに近づいてきて、馴れ馴れしい言葉を聞く。
この二人には、いつもの対外用の顔が崩される。その事が、アリアには腹立たしかった。
いつの間にか女教師の説明は終わっており、生徒たちはそれぞれで即興のパーティを組んでいた。急いで自分も組まなければ、一人だけ取り残されてしまう。そんな事態は、屈辱以外の何物でもなかった。
誰か残っていないかと、周りを見回していると、一人の少女が近づいてくるのが分かる。
テナ=レスターだ。
テナは大きく口を開け、何やら叫んでいる。しかし、周りの生徒たちの声がうるさく、よく聞こえない。
「…………! ………!!」
「何ですか? 何て言っているのですか!?」
何故かは分からなかったが、アリアは自分がそのテナの言葉を聞き取ろうと必死になっている事に気が付いた。
そして、テナの言葉が、耳に入ってきた。
「……アリア!!」
××××××××××
「……アリア!!」
テナの言葉に、アリアははっ、と目を覚ます。
あまりの激痛に、意識を失っていたようだ。それがどの位の長さなのか、アリアには良く分からなかったが、恐らくはほんの数秒だったのだろう。
アリアが目を覚ました事に気が付いたテナは、安心したような表情をし、そしてアリアの傷を見て再び悲しそうな顔をした。
テナの視線を追い、自分の傷を見たアリアは、その痛みが先程までより感じなくなっている事に気が付いた。とはいえ、やはりかなりの激痛だが。
長時間、激痛を感じ続けた事で、痛覚が麻痺してしまっているのだろう。とはいえ、やはり右肩から下の感覚は消えうせており、ぴくりとも動きそうに無い。
だがそれより、アリアにはテナに伝えたい事があった。
「………っ。………っ!」
何とかして声出そうとするが、口から出てくるのは掠れた息のような声ばかり。安定しない呼吸と、肩にまだ残っている激痛のせいで、まともな声が上手く出せないのだ。
それでも、テナはアリアが何をしようとしているのかは分かったのだろう。真剣な顔をして、アリアの口元に耳を寄せている。
アリアは何度かの試行錯誤の末に、何とか言葉を出す事に成功する。
「……左っ……脇に……」
そして力を使い切ったのか、アリアはことんと頭を落とし、目を閉じた。
一瞬、アリアがその命を使い切ってしまったのかと危惧したテナだったが、アリアの口から微かにだが息が漏れているのを感じて、安心したような表情をする。
そして、アリアの言葉について考えようとするテナだったが、後ろから聞こえてきた物音に、後ろを振り返った。
テナの耳に入ってきた物音、それは魔物相手に戦っていたハヤトが地面に叩き伏せられた音。
ハヤトは再び立ち上がろうとしているが、その手は虚しく地面をかくだけだ。
そして、テナの目には、床に刺さっていた両手剣を抜き、ゆっくりとこちらに近づいてくる魔物の姿があった。
その不気味な圧力に、膝が震えてくるのを感じながら、脇においてあった自分の剣を手に取り、立ち上がる。
そんなテナに構わず、魔物はテナたちの前まで歩いてくる。その一歩一歩が地面を揺らしているような錯覚まで感じられ、テナには魔物が、自分たちの死を告げる死神のようにまで見えた。
全身は情けないほどに大きく震え、ろくな身動きも取れない状態だ。
テナは身体を叱咤し、どうにか動かそうとするが、そうこうしている間に目の前まで迫っていた魔物は、その巨大な剣を両手で掲げようとしている。
テナには、それをただ目を見開いて見つめている事しか出来ない。
魔物が剣を振りかざし、そして振り下ろせば、全ては終了する。
もはや、テナとアリアの心の中には、諦めに似た感情があった。テナとアリアが自分たちの死を感じ、目を閉じかけた時。
「だらああぁぁぁ!!」
と大きく気迫の声を上げながら、ハヤトが魔物の背後に向かって突進してくる。
突進してくるハヤトに気が付いた魔物は、大きく横に跳び、突進の軌道上から逸れる。
ハヤトは、魔物とテナの間に立ちはだかり、魔物に剣を向ける。
その背中は地面の土が付いてひどく汚れており、鎧はあちこち傷だらけ、服は皺だらけという有様で、御伽噺に出てくるような、少女の窮地に颯爽と駆けつける英雄といったものからは、遠くかけ離れている。
しかし、
「……ハヤト……」
「テナっ!? 大丈夫か!?」
今のテナには、ハヤトの姿が御伽噺に出てくるようなものではなく、本当の英雄のように見えていた。
『第七話 過去』、如何だったでしょうか。
物語自体はあまり進行していませんが、このエピソードは物語上必要だと思ったため、一話かけて書かせて頂きました。
……最近、物語のサブタイトルのネタが尽きてきました。
僕の語彙能力の無さが露呈するーーー!!
……どうでも良いですね、反省しています。
それでは気になった事、感想、批評など、何でも受け付けておりますので、気軽に書き込んでください。
それでは、次回の更新も、よろしくお願いします。




