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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第五章
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第四十六話 嵐の予感

こんにちは、吉良義人です。

今回は更新が遅れてしまい、本当に申し訳ありません。

理由は、クリスマスは彼女が全く寝かせてくれなくて……!!

………。

………。

……すみません、嘘吐きました。

新作の構想をしばらく練っていたのと、そもそもモチベーションがなかなか上がらなかったというのが主な理由です。本当にすみません。

それでは、どうぞ今回もよろしくお願いします。

 世界樹第八十五層、攻略拠点にて。

 今日一日の探索を途中で切り上げたハヤトたちは、どこか浮かない顔で地べたに座り込んでいた。

「………。」

 誰も、口を開こうとしない。

 ハヤトたちの顔に浮かんでいるのは、色濃い疲労。いつになく濃密な内容となった探索に、皆心身共に消耗し切った様子だ。

 ハヤト自身も、身体が泥沼の中に浸かっているような感覚、ひどい倦怠感に逆らうのも億劫な気分に囚われ、手傷の応急処置を施すような余裕も無く、焚き火の熱気に当たっている。

「――君が、ここのリーダーかい?」

 不意にかけられた声に、ハヤトは首を動かすのも気怠く、眼球だけを動かしてそちらを見やる。その先に立っているのは、案の定ロイだ。思わず右腕の先に視線を走らせると、白い包帯で包んでいる。

「……そうだけど、何か用かな」

 少し言葉に刺が入ってしまった気もするが、ロイはそんなことに気を留めず、言葉を続ける。

「今日のことは残念に思うけれどね。僕はあれを、僕たちと君たちの親交のための一歩にしたいんだ」

「………。」

「そのためにも、明日は僕たちも君たちの探索に混ぜてもらえないかな? まだこの層は攻略も進んでいない。人数が多い方が、ずっと安全だと思うんだ。……それに君たちにとっても、僕たち冒険者の知識と経験っていうのは、あって損は無いと思う。……どうかな?」

 普通に考えれば、彼の言葉通り世界樹攻略の効率化を目的とした、協同提案。だが二年前の経験があるハヤトとしては、ただ素直にそう思うことはできない。ロイの考えているのは、一体何なのか。空回りばかりを繰り返す自分の思考に苛立ちながら考えるが、どうしても答えは出てこない。

「……とりあえず、考えさせてくれないか? 僕一人で結論を出すことはできない」

「そうか。うん、分かった。いつでもいいから、答えを聞かせて欲しい。……いい答えを期待するよ」

 ひらりと手を振って、ロイは仲間たちの方へ戻っていった。

 その背中を見送ったハヤトは、軽く目を閉じて、一人考え始める。

 通常であるならば、受諾しない理由がないような魅力のある提案だが、今回ばかりはそうもいかない。下手に行動を起こせば、シュバルツから連れてきた仲間たち全員の命が危うくなる。

 全身を包み込むような疲労や倦怠感も相まって、脳内に濃霧が立ち込めているようだ。いくら答えを求めて足掻いても、答えの片鱗さえ見える気がしない。焦燥感ばかりが、ハヤトの中で燻り続けて苛立ちを生んでいる。

 ふと顔を上げたハヤトは、ロイの方に駆け寄るテナの姿を見る。

「………?」

 何をしているのだろう?

 ハヤトの視線の先で、テナはロイに声をかけ、そして何か必死な様子で話し始める。対してロイは通常通り温厚な態度で接している。テナが張り詰めた顔で何事かをロイに訪ねた瞬間、それまで優しげだったロイの表情が固まり、にわかに緊迫したそれへと変化する。平静さを失った様子で今度はロイがテナに何か問い詰めているが、対してテナはそれに戸惑う様子を見せるばかり。

 後々、問題になりかねないような事態は、なるべく避けたい。

 混迷の霧の中を彷徨う思考に区切りを付け、ハヤトは愛剣の鞘を掴んで二人の元に歩み寄る。

「二人とも、何かあったのか?」

 近くまで歩いたハヤトは二人に声をかける。ロイは平静を少しばかり取り戻したのか、ハヤトに頭を下げると、やや紅潮した顔のままで離れていく。

「……何があったんだ?」

 残されたテナに尋ねると、テナは気まずげに視線を反らした後に躊躇いながら口を開いた。

「……ハヤトさんは、私が冒険者になった理由、アリアから何か聞きましたか?」

 冒険者になった理由?

 記憶の中を片っ端から探るが、そのような類のことを聞いた覚えは一度もない。

「いや、無い」

「そうですか……。元々私には、一人兄がいたんです」

 兄。

 ハヤトは兄弟というものを知らないが、テナの性格なら恐らくは仲のいい兄弟だったのだろう。

「その兄は、ずっと冒険者というものに憧れていたらしくて、十六になるのと同時に世界樹攻略に名乗りを上げたんです」

 十六歳。

 第零層の階層都市エーレンに限らず、ここら近辺では成人したと認められる年齢だ。そしてエーレンではその多くが、冒険者として名乗りを上げる。ハヤトも、その内の一人に数えられる。

「兄は仲間にも恵まれていたらしくて、史上最年少の攻略最前線に立つ冒険者として知られていたらしいです。長い間会えていなかったんですけど、定期的に手紙も送ってきてくれて。私は、そんな兄が誇りでした。でも……」

「………」

「ある時から、兄からいつも送られていた手紙が来なくなったんです。みんなは、冒険者として忙しいんだろうって言うんですけど、私にはどうしてもそう思えなくて……」

「それで、お兄さんの消息を確かめるために?」

 こくっとテナは首肯のみを返す。

 冒険者はその仕事上、死亡率が極めて高い。大半の冒険者は、世界樹攻略を始めて一月以内には致命的な負傷、もしくは死亡する。その枠から外れた者のみが世界樹上層へと歩を進め、そして攻略最前線に立つのは、更にそこから九割九分の人間を省いた者のみ。

 普通に考えれば、テナの兄が生き残っている可能性は無いに等しいだろう。

 そしてここまでの話から少しだけ考えれば、先程ハヤトが見たことはつまり――

「……じゃあ、もしかして……」

「……まだ確証はないですけれど……」

 やはり、そうだ。

 テナの記憶では、ロイという男が兄の姿と重なったのだろう。

「でも、彼にそのことを尋ねたら、何か様子がおかしくなって……」

 なぜロイの態度が豹変したのか。そのことについては、テナも身に覚えがないらしい。

「……そうか。ありがとう、そんな話を僕に聞かせてくれて」

 ハヤトの言葉にテナも手を振って返す。それに微笑みを浮かべながらも、ハヤトの表情はどことなく優れなかった。

 今の状況は、どことなく二年前のそれと被る点が多い。何か事件が起こらなければいいのだが……

 そう願いながら、世界樹の闇の中を見つめるハヤトだったが、その闇は依然として照らされることなく、沈黙を守り続けていた。



     ××××××××××


 一夜明けて。

 外では薄らと明るくなり始めているだろう早朝に、ハヤトたちは世界樹第八十五層の探索を行っていた。

「負傷者はいないな!? 少しでも怪我をしたら、必ず申し出るんだ!」

 いつにもなく張り詰めた様子の騎士たちに一抹の不安を覚えながら、ハヤトは声を張り上げ、消耗しつつある剣を片手に歩み続けていた。

 これまでの攻略方法とは異なり、今回は慎重に、穴のないようにじっくりと階層の中を探索していこうと今朝決めた。より効率良く階層内の情報を集めるために、全体を三つの組に分けて手分けをさせている。慣れない人数での戦闘に戸惑うかとも思われたが、思った以上に騎士たちは魔物との戦闘に慣れていたらしい。すぐに少人数での戦闘に慣れ、次々に魔物たちを屠るようになった。

 今はまだ一つの組に十人程が参加しているが、早い内に一組につき五人程度にまでは分けられるだろう。そうなれば、更に探索の効率も良くなる。

 予想以上の捗りを見せる攻略の様子に、ハヤトの顔からもどことなく緊張感が抜けているが、それでも妙に表情の固い騎士たちに不安を覚えないわけがない。

 彼らも、先日の顛末に何か思うところがあったのだろう。

「……休憩を取ろう。あまり速く進んでも、危険が増すだけだ」

 ハヤトの言葉に無言で首肯を返して、騎士たちは手頃な場所に腰を下ろし、携帯食を淡々と口元に運んでいく。

 そんな彼らを心配しながらも、だからと言って何を起こすでもない自分に若干の苛立ちを覚えながら、ハヤトも壁に背を預け、水筒の中身を口に含む。

 不意に、コツコツッと靴音が闇の中から聞こえてきた。

 冒険者、だろうか。だがそれにしては音の調子が、どことなく妙だ。何と表せばいいだろう。戦いを知らない人間の足音、とでも表せばいいか。

 そろりと剣の柄に手を滑らせたハヤトは、同様の行動を起こそうとしていた騎士たちを手で制し、一人で靴音のする方へ歩いていく。

 一歩、二歩。十歩目を刻んだところで、ハヤトは剣を滑らかに抜き払い、その切先を音源の方へと向ける。音の大きさと闇の中から微かに感じる気配で、おおよその距離を測る。ハヤトの足なら十歩程の距離だろうか。剣の間合いではないが、もう少し近づけば一気に斬りかかり、接近戦に持ち込める。

 ハヤトの警戒する先で、その靴音も停止した。間違いない、靴音の主は、剣の間合いを熟知している。それにも関わらず、こちらが警戒するようにわざと靴音を響かせてきたということだろうか。だとすれば、一体何が狙いだ? 決まっている。ハヤトなり騎士なりを釣り出すのが狙いだ。

「……乗ってやるよ!」

 力強い踏み込みで距離を詰める。即座に闇の中の人間も戦闘態勢に入り、迎撃の構えが整う。向かってくる。それに対してハヤトは長物の間合いにギリギリ入らない程度の距離まで一気に後退する。戸惑ったように、気配の主が急停止した。

「――もらったッ!!」

 一気に急停止した直後ともなれば、人間は即座に行動を起こすことは難しい。それが、自分の意図していない形で行われたものならば尚のこと。

 転進して一気に肉薄したハヤトの動きに、気配の主の対応が遅れた。真一文字の一閃。硬い感覚が剣越しに返ってきたが、すぐに消える。キンッと硬質な音と、地滑りの音。返す刃で更に斬りつけると、今度は布が破れるような音が聞こえる。更に踏み込み、気配の主の腹部に肘打ち。あまり深くは入らなかったが、確実な衝撃は与えたはず。

「……ッ!」

 微かに聞こえた苦悶の声を最後に、気配の主の身体から力が抜ける。倒れ込む身体を支えたハヤトは、ぼんやりとした淡い光でその顔を確かめる。

「―――ッ!?」

 口の中から漏れ出そうになった驚愕の声を、辛うじて飲み込む。

 急上昇した拍動を鎮めるように深呼吸をしてから、もう一度腕の中で気絶した、その人間の顔を確かめた。

「……嘘だろ……ッ!? どうして……」

 ハヤトの脳裏を凄まじい勢いで、二年前の情景が駆け巡る。

 世界樹全体を埋め尽くす勢いで広がった炎の海と、その中を這いずり回る異形の魔物の姿。傍らには、青年が血を流して倒れている。焦燥感ばかりが頭を埋め尽くし、必死にハヤトは炎の中を駆け回っている。そうだ、この後見るのは、忘れたくても忘れられない、あれだ――!

 あまりの衝撃にぐらつきそうになる頭を押さえて、再びハヤトはその人間――ルティアの姿を見る。その顔は、まるで二年前のことなど無かったとでも言いたげな、傷のない端正なそれだ。

「どういうつもりだよ……何がしたいんだよ……ッ!!」

 二年前と現在が、何らかの形で繋がっている。

 二年前に起こったことが、現在で起こりつつある。

 ということは、二年前で起こったあの顛末が、これから起きようとしてる……!?

「くそッ、どういうことだよ! ……?」

 苛立たしげに髪をかきむしったハヤトは、視界の端で転がっている物体に目を留めた。ぐったりとしたルティアを寝かせ、その物体を手に取ったハヤトは、再び驚愕の声を上げそうになる。

 ――獣を模した、仮面。

 ハヤトが先程斬りつけた跡が、獣面の額を真一文字に走っている。

 不意に、闇の中から何か巨大なものが這いずる音が聞こえてくる。

「……マズい」

 背中越しに騎士たちの、ハヤトを呼ぶ声が聞こえてくる。咄嗟に獣面を手持ちの袋の中に仕舞ったハヤトは、ルティアを抱き抱え、騎士たちに声をかけながら駆け足でその場を離れた。

 ハヤトが去った後の、闇に閉ざされた空間で、這いずりの音はしばらくの間、絶えることなく静かに響き続けていた。

さて、今回は如何だったでしょうか?

ここ数話で一気に急展開を見せている本作ですが、そろそろ終わらせる予定です。前にも書いた気はしますが。

できれば年末に終わらせたいと考えていましたが、少し難しいかもですねぇ。できる限り頑張らせてもらおうと思います。

それでは、今回はこれぐらいで。

後残り少ない本作ですが、どうぞ最後までよろしくお願いします! 僕もどんどん書いていこうと思いますので。

それでは!

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