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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第五章
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第四十七話 終わりの予感

こんにちは、相良義人です。

相当遅くなりましたが、明けましておめでとうございます! 2013年をより良い年にするため、日々精進していこうと僕は思っています。

というわけで更新です。一応一週間更新を守ったことにしてください。

ようやく近づいてきた完結に、僕が恐らくは一番興奮しています。

それでは最新話、どうぞよろしくお願いします!

「――本当にありがとうございます」

 世界樹第八十五層、入口付近に設置された攻略拠点にて。

 簡素な天幕が張られただけの拠点で、ルティアは看病をしていた女騎士に頭を下げている。その姿を遠目で眺めつつ、ハヤトは手元の獣面をコツコツと軽く叩いてみる。シュバルツの街で何度も調べた物と質感も変わらない。完全に同一の物だ。

 仮面が見つかったということは、この近くに仮面の集団が潜んでいるということだろうか。ということは、この近くでルイスも……?

「それもそうだけど……」

 この仮面が何故、ルティアの近くに転がっていた――いや、ルティアが持っていたのだろうか。

 彼女が、仮面の集団に名を連ねる一人だということだろうか。だが、ルティアは二年前、ハヤトの目の前で確かに死んだはずだ。ならばハヤトが今見ている彼女は、ルティアではないということだろうか。

「だけどなぁ……」

 チラッとルティアの方を伺ってみるが、彼女の動作は、ハヤトの記憶にあるルティアのそれと、寸分違わないものだ。彼女がルティアでないと考えるのは、少し無理があると思う。

 ロイの件もあるが、今回の事態には不可思議な事象が絡みすぎている。死んだはずの人間が、目の前で平然とした顔をして生きている。死者を生き返らせるような、そんなことが起きたのか。そんな奇跡が、果たして起こりうるのか。

「――なぁ、ハヤト」

 いつの間に来ていたのか、センが話しかけてきた。

「どうかした?」

「あの女、どうするつもりだ? 仮面の奴らの一人なんだろ?」

 ルティアが仮面を持っていたことは、センを始めとして確実に信頼できる面子にだけ話しておいた。下手に話を広げて、暴動が起きたりしたら一大事だからだ。

「……始末するか?」

 センが静かに殺気を漲らせ、懐の苦無に手をあてる。

 確かにセンならば、誰も気付かない内に、極めて自然死したように始末することもできるだろう。だが……。

「いや、しばらくは様子を見よう」

「……そうか。つまらないことを聞いたな、すまない」

 できることなら、このまま仮面の集団にたどり着いてしまいたい。これまで掠めもしなかったのだから、できることならこれをチャンスとして、一気に近づいてしまいたい。

 ハヤトの考えていることを、センも察したのだろう。首肯を返して、仲間たちの方へ戻っていく。

 彼の後ろ姿から目を反らし、ハヤトは再び目を仮面へと戻す。猿にも犬にも狐にも見える獣の顔はハヤトに何も語らず、ただ不気味な笑みを浮かべているばかりだ。

 ふと視線を仮面から戻すと、ルティアの元に歩み寄るロイの姿が目に入る。黙ったままロイの方を見ていると、ロイはルティアに穏やかな顔で話しかける。一言二言会話をした後、ロイは冒険者の輪の中に戻っていく。その後ろ姿を、ルティアは黙したまま、やや熱のこもった目でジッと見つめている。いつかどこかで見たことのある光景だ。

 何を二人で話していたのだろう。

 少しばかり気になったが、それを直接聞くのは何故かためらわれ、ハヤトは水筒の水を口に含んで思考を切り替えようとする。今は、手にしているこの仮面について――仮面の集団について考える方が、遥かに先決すべき事柄だ。だがそうと分かってはいても、そう考えれば考えるほど、ハヤトの思考はルティアとロイのことについて働き始める。

「――やぁ、この前の話についてなんだけど……」

 不意に、ロイがハヤトに声をかけてきた。先程まで冒険者たちの中にいたはずだが、いつの間にか抜け出してきたらしい。

「少し、考えてもらえたかな?」

 ロイの言葉に、ハヤトは黙ったまま目頭を揉み解す。

 できることならまだ慎重に事を運んでいたかったが、ルイスがこの近くにいるかも知れないとなると話は変わってくる。

「……分かった。君たちと手を組もう。君の言う通り、そっちの方が遥かに効率が良い」

 まだ騎士たちには話していないものの、一つの焚き火を中心に輪を作って、騎士たちと冒険者たちが談笑に興じている。あの様子を見れば、異論は出ないであろうことが大体予想できる。

 ハヤトの言葉を聞くと、ロイはそれまでより一層表情を柔らかくして、笑顔のまま左手で拳を作って差し出してくる。

「良かった。それじゃあ、これからの交友の記念ってことで」

「……そう、だな」

 ロイの差し出す拳に、ハヤトも軽く拳を合わせる。

 それを見て明るく笑い声を上げるロイ。その姿に微笑を浮かべつつも、ハヤトの心中から暗雲は晴れようとしない。彼らと手を組むということは、危険分子を常に傍に置いておくということだ。

 悶々とした気持ちを抱えたまま、その夜は静かに何事もなく明けていった。



     ××××××××××



 世界樹第八十五層。

 かつてないほどの速度で攻略が進められた最前線では、後続の冒険者も加わって次々に空白の地帯が埋まっていった。シュバルツから連絡が届いていたのか、下層から物資の補給も冒険者と共に届き、世界樹攻略は順風満帆といったところだ。負傷者こそ出ているものの、いずれも軽傷ばかり。死傷者どころか、重傷者でさえ未だに報告されていない。

 もう間もなく、第八十六層への道が見つかるだろう。

 思ったよりも順調に事が進み、ハヤトの心も今日は幾らか晴れやかだ。既に相当数の魔物が駆逐された世界樹を歩き、時折遭遇する仲間から内部の情報を交換していく。

「この調子なら、今日中に八十六層まで行けるな」

 ハヤトの言葉に、ハヤトと行動を共にしていた騎士たちは首肯を返した。彼らも更にもう一歩、遠征の終点が近づいたことに喜びを感じているのだろうか。

「……何か、具合は悪くなったりしていない?」

「はい、大丈夫です。……ありがとうございます」

 後ろを振り返り、一人でずっと沈黙を保っていたルティアに声をかける。

 ルティアの処遇については結局、ハヤトが責任を持って身の安全を守るということで解決した。身の安全を守る、とはいうものの、実際やっているのは不審な行動を起こさないかどうかの監視だ。

 自身がそのことを一番理解しているためか、ハヤトはルティアに対して妙な引け目を感じてしまう。

「ハヤトさんっ、あそこにあるのって……!」

 一番戦闘を歩いていた騎士が、虚空の中を指差す。

 そちらの方に目の焦点を合わせて注視すると、確かに大人が一人入れるか程度の穴がぽっかりと天上に空いている。

「あぁ……! 八十五層もこれで終わりだ!」

 駆け寄ると、穴から縄梯子が一つ、だらりと垂れ下がっている。既に先客がいるようだ。

 騎士たちとルティアに先を行かせ、ハヤトは一番最後に縄梯子に手をかける。まだあまり人は登っていないのか、新品同様のそれを手早く登り、ほぼ前人未踏と言って良い地に足を着ける。

 目を上げると、見覚えのある冒険者たちの一行が手馴れた様子で天幕を設置している。セオリー通り、数人が魔物が来ないかを警戒し、残った者が手早く天幕を立てていく。よく見れば、魔物を警戒している冒険者の一人がロイだ。片腕を失ったにも関わらず、最も危険であろう役割を引き受けているらしい。

 それらを確かめている内に、騎士たちは天幕設置の手伝いに走っていく。ルティアもそちらに行ったのを見て、ハヤトはロイの方に足を進めた。

「もう着いていたのか、早かったな」

 ハヤトが声をかけると、驚いたように肩をビクッと震わせたロイが振り返る。その顔が尋常でないほど青ざめていることに気が付いたハヤトは、思わずロイの肩に手をかけて尋ねる。

「大丈夫か? 何処か痛めたのか?」

「い、いや、何でもない。何でもないんだ……」

 そうは言うものの、ロイの顔色は明らかに悪くなっている。

「ルティア! ちょっと来てくれ!」

 思わず、二年前は後方支援担当だったルティアの名前を呼んでしまう。

 しまったと思うのも束の間、ルティアはハヤトの声に反応して駆け寄ってくる。

「どうかしましたか? ってどうしたんですか!?」

 ルティアもロイの顔色が悪化しているのに気が付いたのだろう。明らかに取り乱す。

「少し調子が悪いらしい。応急処置とかできる人を知らないかな?」

 苦し紛れながら、どうにか話をできるだけ自然になるように言葉を続ける。

 ルティアは慌てた様子で先着している面子を見ていくが、皆完全に前衛を努めるような生粋の戦士ばかり。傷の手当はできても、病気の類を治療するのは到底無理だ。

「仕方ないか……。ロイ、少しだけ歩くんだ。とりあえず横になろう」

「……ロイ……?」

 しまった。

 これまで、ロイは一度も自ら名乗ってはいない。ハヤトは普通であれば、彼の名前を知らない。

 いつになくボロを出しまくる自分に苛立ちながら、ハヤトはロイの身体を引きずるような形で運んでいく。その最中、ロイは掠れた声でハヤトに尋ねてきた。

「……ロイって……誰だ?」



 世界樹第八十六層、攻略拠点にて。

 全員が到着したのを確認して、騎士たちと冒険者たちは手持ちの酒で祝杯を上げる。今朝届けられた物資の中には酒も少量ながら含まれており、彼らはそれらを少しばかり拝借したらしい。一気に飲み干すようなことはなく、しっかりと味わうようにチビチビと飲んでいる。中には、既に就寝してしまった者もいる。

 そんな姿を遠目で眺めつつ、ハヤトは襲ってくる眠気に耐えるため持ってきた異常に硬い干し肉を必死にかじり続ける。

 夜番としての役割を請け負ったハヤトは、抜き身の剣を片手に、世界樹の仄かな光で照らされた闇の中を凝視する。まだどのような魔物が潜んでいるのか分かっていないのだから、慎重になるのは当然だろう。見張りの人数も、大抵の場合より多くしている。

 ロイは天幕の奥で、後から来た面子に看病されながら就寝している。調子を悪くした原因は、腕を切り落としたことのショックが襲ってきたのではないかとのことだが、詳しくは分からなかったらしい。

「記憶喪失か、ただの人違いか……」

 ロイを運んでいる時に耳にした言葉が、ハヤトの頭の中で何度も鳴っている。

 記憶喪失だとすると、いよいよ何が起こっているのかが理解不能になる。死んだはずの人間が生き返っていて、それでいて記憶を失っている? そんなことがあってたまるか。

 人違いであるならば、彼は仮面とは何の関係も無い、ただ冒険者たちの指導者として立っているだけの男ということになる。テナとの会話で態度が豹変したのも、全く別の要因が絡んだだけ。全てが偶然起こったこと。一応話は通じてしまうが、そう考えて納得するほどハヤトは能天気な性格ではなかった。

「何が何だかもう……!」

「ちょっと、いいかい?」

 不意に背中越しにかけられた声に、ハヤトは驚いてビクッと肩を震わせる。振り返ると、そこに立っていたのは寝ていたはずのロイだ。

「……もう大丈夫なのか?」

「うん、心配かけたみたいだね。ごめん」

 言いながら、ロイは真新しい干し肉を差し出してくる。気が付けば、手の中の干し肉は粗方食べ尽くしてしまっていた。

 礼を言いながら受け取ると、ロイは地べたに腰を下ろし、深く息を吐いた。

「……少し、話をしてもいいかな?」

「………」

 ハヤトの沈黙を肯定と受け取ったロイは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出し始めた。

「僕はね、少し前までの記憶が無いんだ。気が付けば傷だらけで冒険者の一行に見つかって、手当をされていたらしい。だから、僕の名前も知らない――分からないんだ」

 記憶喪失の可能性が濃厚になっている。

 あまり望みたくは無かった展開に渋い顔をハヤトはするが、ロイは構わず話を続ける。

「今はレンっていう名前を使っているけど、でも君がロイって呼んだ時に、何かこう、しっくり来たんだ。それが僕の本当の名前じゃないかって、そう感じた」

「……そうか」

「……君は知っているんでしょ? 本当の僕のことを。僕が知らない間のことを。……僕に、教えて欲しい」

 何と答えたものか。

 彼の話が全て真実だとすれば、ロイは仮面の一味だという可能性は低そうだ。だがだからといって、彼に二年前のことを話してしまって良いものだろうか。

 カラカラになった口の中を水で湿らせ、ハヤトは言葉を発しようと口を開く。が――

「どうやら、今回は話せそうにないな……」

 明らかに戸惑った様子を見せるロイを天幕の中に押し込め、ハヤトは下ろしていた剣を構える。虚空の中に一瞬だけ感じた殺気は、紛れもなく本物だ。

「出てこいよ、いるのは分かっているんだ……!!」

 ハヤトに遅れる形で、騎士たちも武器を構え始める。だがその切先を向けている方向はバラバラ。敵が存在しているのかすら全く分かっていない。

 ここで満足に戦えるのは、ハヤトを始めとする極少数の実力者だけだ。大人数で襲いかかられると、とてもじゃないが対処しきれない。受け手に回れば、損害が出るのはほぼ必至だ。

 ――ならば、取るべき行動は一つか。

「下層まで退避。戦える人間だけ残って足止めするぞ!」

 ハヤトの言葉に従って、大部分の騎士たちが下層への穴を降り始める。それに対して冒険者たちはやはり実力が相当あるのか、その場に残って戦闘態勢を維持し続けている。

 前の方へ意識を集中させる。幸い、相手の数はそう多くはない。切り抜けるのは充分可能だろう。

「……おいハヤト。こいつら……」

「あぁ、間違いないだろうね。こいつら、魔物じゃない」

 近寄ってきたセンが、仮面との戦闘に備えて大量に所持している暗器を鈍く光らせる。センの感じた通り、恐らく今前にいるのは魔物ではない。――仮面の奴らだ。

「手加減する理由はどこにもない。全力で行こう!」

 ハヤトの叫びに、戦士たちは雄叫びを上げた。



「――これで終わりか?」

 足元の仮面に一閃、木端微塵に砕きながら、ハヤトは顔を上げた。

 あまりにも呆気ない、そう感じてしまうほどの戦いだった。仮面たちもほんの五人ほどしかおらず、すぐに始末できた。

 仮面たちが現れた理由はいったい何だ? わざわざハヤトたちに存在を伝えたところで、彼らは何も得することなど無いはずだが……。

「……釣り針……?」

 考えられるとすれば、ハヤトたちに存在を伝え、警戒させることが仮面たちの狙い。

 ふと、足元に転がる仮面の裏に何か赤いものが見えたハヤトは、仮面を手にとって確かめてみる。仮面の裏側を見て、ハヤトは口元に獲物を前にした獣のような獰猛な笑みを浮かべる。

「……上等だ。乗ってやるよ……!」

「ハヤト? 何か見つけたのか?」

 後ろからセンが言葉をかけてくる。彼に仮面の裏側を見せると、センは何かを察したのか、顔をしかめてハヤトの傍まで駆け寄ってくる。

「これは……枝、か?」

「確かにそう見える。だけどこれって、何かの地図じゃないかな」

 一番下から一本に延びた赤い線が、途中で枝分かれしていく。何回も枝分かれを繰り返したところにある線の一端に、赤く丸印が刻まれている。

「……そう見えるな。確かに」

「これの通りに進んだ先に行けば、何か見つかるかも知れない」

 もしかしたら、仮面たちが仕組んだ罠かも知れない。いや、ほぼ確実に罠だろう。だが、一刻も早く事態を解決したいハヤトにとって、この誘いに乗らない手は存在し得なかった。

 そのことをセンを察したのだろう。諦めたように溜め息を吐き、肩をすくめる。

「分かった、この件は全部お前に任せる。……無茶はするなよ」

 ハヤトは黙って首肯のみを返す。それにもう一度溜め息を吐いたセンは、先程までのハヤトと同じく、呆気ない勝利に茫然としている冒険者たちに声をかけ、下層に退避していた者たちを呼び寄せていく。

 それを横目で見ながら、ハヤトはようやく手に入れることができた確かな手がかりに、近づいてきた終着点を感じる。仮面たちとの決着を付けさせすれば、ここまでの苦労も報われるというものだ。全てが終わった後は、二年前と同じように、世界樹の頂上を目指して戦い続けていくのもいいだろう。エーレンに戻って、平穏な日常を満喫するのも良い。

 振り返って見た世界樹の闇は、心なしかいつもよりも遠くまで見通せるような気がする。世界樹の中を覆う闇でさえ、今ならそう不穏なものに見えない。

 間近まで迫った終わりの予感に、ハヤトは胸の高鳴りを抑えられなかった。

最新話、如何だったでしょうか?

ほぼ一日で仕上げているため作りが雑になっているなぁと自覚しているのですが、ここまで来たら一気に突っ走りたいと思います。

当初の目標だった2012年以内での完結は果たせなかったものの、絶対に完結させる! という第一話投稿時の意気込みだけは果たせそうなので安心です。

それでは、今回はこのくらいで。

残りは短いですが、最後まで拙作とお付き合い頂けると嬉しいです。

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