表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第五章
44/47

第四十四話 勝利の美酒……?

こんにちは、吉良義人です。

今回の内容は少し短くなっています。軽い気持ちでパラパラ読んでもらえれば、幸いです。

それでは第四十四話、よろしくお願いします。

「――はぁぁあああっ!!」

 裂帛の声を上げながら、白銀の鎧を身に付けた騎士は長剣を大上段に構え、魔物の脳天へ振り落とす。白刃は魔物の振り上げた腕ごと魔結晶を斬り裂く。断末魔の叫びを上げながら、目に見えないほどの砂塵となって消え失せる魔物から目を外し、未だに相当数が残っている魔物たちに、切先を向ける。

「くそ……、本当に俺たちが勝てるのかよ……!?」

 倒しても倒しても、魔物の数は一向に減っている気配を見せない。むしろ、数を増やしているような気さえしてくる。開戦時の戦意は既に消耗し切って、今や胸の内を占めているのは、途方もなく大きな虚無感だけだ。

 ――もう、諦めてしまおうか……

 ――そうだ、無理に戦う必要なんて……

 身体から、どんどん力が抜けていく。構えていた長剣が、手の中から滑り落ちる。ガランッと硬質な音を立てて地に落ちた剣。その音を聞いた彼の仲間の騎士たちまでもが、次々に剣を取り落としていく。


「――まだだッ!! このくらいで、諦めちゃ駄目だッ!!」


 騎士たちの間に漂い始めた脱力感を、男の鋭い叱咤の声が斬り裂いた。

 騎士たちがその声の主の方を見ると、彼らをここまで牽引けんいんしてきた青年の姿があった。冒険者にしては細身の体育に、少し長めの黒髪。その奥に潜んでいる瞳は鋭く、無数の魔物たちとそれに絶望する騎士たちを映している。

「魔物だって、無限に湧き続けるわけじゃない! 倒し続ければ、必ず切り抜けられる!」

 必死に鼓舞する彼に応えようと、どうにか体躯に力を込めようとするが、既に戦況は大方決まっていた。未だに戦死者は出ていないものの、騎士たちの顔には消耗が色濃く映り、肩で荒く呼吸をしている状態だ。

 そんな騎士たちに向けて苛立ったように舌打ちを鳴らす青年――ハヤトだが、彼自身も相当体力を消耗していた。

 彼らが今立っているのは、世界樹攻略最前線と言っても差し支えない階層、第84層だった。ハヤト自身も足を踏み入れたことがなく、完全に未知の領域。最前線から途切れ途切れに伝わってくる情報を頼りに歩を進めていた矢先のことだった。突如出現した魔物たちが、ハヤトたち一行に牙をむいた。恐らくは、これだけの数の人間を始めて見て、興奮したのだろう。

 ――少し焦りすぎたか……?

 今更ながらに、ハヤトの脳裏をそんな後悔がよぎった。頭を振って邪念をどうにか払い除けて、ハヤトは目前の魔物たちを注視する。

「……少し退こう。できるだけ一固まりになって、一気に突破する」

 それしか、生き残れる道は残されていないように思われた。だからこそ、騎士たちもハヤトの指示に従って固まり、刃の切先を魔物の大群の一角のみに向ける。

 もう何度目だろうか。肌が粟立つほどの死の濃密な気配に身震いが起こる。ブンッと軽く剣を一振り、震えを追い払ったままの勢いで突撃の指示を飛ばした。雄叫びを上げながら疾駆する騎士たちの先頭に立ち、ハヤト自身も雄叫びを上げた。そうでもしなければ、死の恐怖に立ちすくみそうだった。

 胸部目掛けて突き出された、蜘蛛に似た魔物の刺突を避け、その鉤爪に反撃の一閃。節の付いた足は緑色の液体をまき散らしながら空を舞い、ポトリと地面に落ちる。それとほぼ同時に、ハヤトの後ろから続いていた騎士が槍で魔結晶を刺し貫く。

 それを一瞥し、ハヤトは更に足を前へ動かす。獅子のような魔物の突撃を受け流し、いわゆる鳥人というものに似た魔物のくちばしを剣で叩き割り、岩の巨人の足の間を滑り抜け、手が八つ生えた人間の形をとる魔物を脳天から斬り裂く。

 ――もう少し。もう少しだ――!!

 壁のように群れる魔物たちの間から、魔物のいない空間がチラリチラリと覗けた。あそこまで突破すれば、状況打破も可能だ。

「どけぇぇええええッッッ!!」

 渾身のタックルを当てるのと同時に、ハヤトの身体が魔物の壁からボンッと音が鳴りそうな勢いで飛び出る。一度穴が空いてしまえば、どんな壁だって意外ともろく崩れるものだ。白光をまとった騎士たちが続々とハヤトの後に続いて飛び出てくる。

 実際の時間に換えれば、ほんの数秒のことだが、戦況はガラリと変わった。魔物たちの被害は相当数。こちらも被害は大きいが、戦意を削ぎ落すほど深刻なものではない。

「慎重に行こうッ、絶対に後ろを取られるなッ!」

 ハヤトの言葉に首肯を返し、騎士たちは慎重に下がり始める。その間にも魔物たちは攻撃をしかけるが、心理的に余裕の生まれた騎士たちにとってそれを受け流す程度のことは難しくない。重装備で固めた騎士が前線で魔物を押しとどめ、軽装の者たちで抜け出た魔物の処理を行う。後方では遠距離道具を持った騎士たちが弓の豪雨を降らせる。

 連携を取り戻した騎士たちは、次々に魔物をほふっていく。

 第84層での大規模先頭は、どうにか無事に終わりを迎えられそうだった。



     ××××××××××



「「「―――乾杯ッッッ!!」」」

 男女が入り混じった、世界樹第85層入口付近の拠点。

 前例にない人数で突入したハヤトたちは、今宵こよいをここで過ごすことに決定していた。そしてそれを通達した途端にどこからか発泡酒を取り出す者が幾数名。そのまま流れで宴会を開いていた。

 今回は負傷者多数であれども、どうにか死者を出さずに済んだ。ただそれだけの事実に騎士たちは歓喜し、一日を共に戦った仲間と酒を酌み交わす。

 あちこちから溢れる笑いを見て聞いて、ハヤトは人知れず口元を緩ませた。

「どうかしたんですか、ハヤトさん?」

 騎士たちの中にも女子組というのが、いつの間にかできていたらしい。そこからアリア――やはり彼女の顔にも、どことなく嬉しさが混じっている――が声をかけてきた。彼女に「何でもない」とだけ返して、ハヤトは自分の手にもある発泡酒に口を付け――ようとして、その手を止めた。こんなことを言えば場が冷めてしまうが、ここはあくまでも世界樹の中だ。危険と常に隣り合わせの状況で、まともに戦える人員がいないというのはマズいだろう。

「あれぇ? 飲まないんですか隊長さん?」

「あぁ、あまりお酒は得意じゃなくてね。それと前から言ってるけど、僕は隊長じゃ――」

「じゃ、それもらっていきますねぇ~♪」

「えっ、ちょっ……」

 女子組の中から抜け出てきた女性に、半ば強引に発泡酒を奪われる。「あまり深酒すると翌日にも響く」と言おうとするが、その前に女性は女子組の中に戻っていってしまった。

 寂しくなってしまった手の中に新たに干し肉を握り、ハヤトはそれをかじる。硬い。どうにかして解さなければ、歯も通らない。少し分厚いのを買いすぎたか。およそ一ヶ月前の自分を恨めしく思いながら、ハヤトはガジガジと干し肉をかじる。が、すぐに断念する。このまま続けていれば、ほぼ間違いなくあごを痛める。

 さてどうしようかと思案するハヤトだったが、ふと近づいてくる足音に視線を上げる。彼の目が映したのは、女子組から抜け出てきたテナだ。何やら少し疲労した様子で、足取りもどこか覚束無い。

「テ、テナ? 大丈夫?」

「………」

「……テナ?」

「きゅぅぅううう~~~……」

 バタンッと盛大に音を立てる勢いで倒れるテナ。慌ててテナの身体を支えたハヤトは、テナが頬を紅潮させ、目を回していることに気が付く。そして同時に――どこか、酒の香りが漂ってくることにも。

 唐突に笑い声が上がった女子組の方に目を向けてみれば、何やら酒を豪飲している姿が多数。辺りを見回せば、男衆はそれに気圧されている模様。

 頬が引きつるのを感じながら、ハヤトはテナを伴って、そろりそろりと女子組から距離を取り始める。彼女らに巻き込まれれば、ほぼ確実に相当な量の酒を飲まされることになるだろう。それも、彼女たち自身が飲んだ量よりも遥かに大量のを。

 少量ならばまだしも、大量に飲むのはさすがに避けなくては。

 身体を縮め、テナを背負ってゆっくりと歩き始める。五メートル。いい調子だ。十メートル。よし、このまま寝所まで脱走すれば――

「タイチョーッ、私たちと飲もーよー!!」

 脱走失敗。

 グイッと力強く首に回された女性の腕に拘束され、ハヤトはガチッと身体を硬直させる。

「……い、いやぁ、申し出は嬉しいんだけどね。僕はあまり、お酒に強くないから……」

「隊長強くないんですか?」

「う、うん。前に飲んだ時は、結構ひどかったらしいからね。それ以来、飲んでいないんだ」

 嘘だ。

 だが、本当のことを言わなくてはならない理由など、どこにもない。

 このままやんわりと断ってしまえ。

 少し迷ったような表情を浮かべている女性は、だが次の瞬間には悪魔を連想させる邪悪な笑みを浮かべる。

「……隊長」

「な、なんでしょうか」

 ジリジリと後退りするハヤト。ふと背中に視線を感じそちらを見てみれば、同情的な視線を送ってくる男たち。その後ろには、「俺たちは飲んでいないから安心しろ」的な意味合いで親指を立てる面々がいる。確かに彼らの手元に酒はないようだ。

 ――逃げ道が、閉ざされた。

「隊長一人、ごあんな~~い!!」

 悪魔からの通告に、ハヤトはただ上を仰ぐことしかできない。異様なほど手際よく、女子組はハヤトの背負っていたテナを回収し、ハヤトが身動きを取れないように取り囲み、酒を差し出し始める。その全員に邪悪な笑みさえ浮かんでいなければ、幸福を感じることもできただろうが。

 口内に満ちていく酒に酩酊感を感じながら、ハヤトは酒に溺れていくような錯覚に囚われるのであった。


さてさて、如何だったでしょうか? 楽しんでもらえていればいいのですが……

今回から新章突入ッ、という次第なのですけれど、実はこれ、最終章だったりします。このままのペースで更新していくと、年内は無理でしょうけれど来年の一月下旬くらいに完結するかも。

もう大まかな内容は決めていますので、更新は多分守れると思います。多分。

こんな作者で本当に申し訳ないです(笑)。

それでは来週も、どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ