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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第四章
39/47

第三十九話 決意

お久しぶりです、吉良義人です。

結局一ヶ月もの間お待たせしてしまい、本当に申し訳ありません。しかも一ヶ月も待たせたわりに、そんなにストックは溜まっていないという体たらく。ダメですね。

どうにも僕という人間は、追い詰められないと基本的にダメな人間のような気がしてきました。直さないと……!!


およそこれまでの休載期間の内およそ八割の時間を費やしてちまちま書いていた第三十九話、どうぞ可愛がってやってください。

それでは『第三十九話 決意』、どうぞよろしくお願いします。

 バタンッと音を立てて扉が締まるのを背中越しに聞きながら、ハヤトは部屋に設置されているベッドに倒れ込むようにしてうつ伏せになった。

「……寝よ……」

 常日頃から早寝早起きの規則正しい生活を志していたハヤトには、たとえ一晩であっても徹夜は相当身体に堪えるものがあるらしい。疲労の滲み出る深い溜め息を一つ、ハヤトは目を閉じて眠ろうとする。が、

「暑ぃ……」

 気怠い心地のままムクリと起き上がったハヤトは辺りを見渡し、そしてカーテンの閉められていない窓から陽光が相も変わらず、眩しく降り注いでいるのを確認する。

 ジャァーッとやや乱暴にカーテンを閉め、今度こそ眠ろうとするハヤトだが、未だに暑さが消えていない現実を目の当たりにする。よくよく考えてみれば、部屋に篭った熱気が吐き出されない限りは暑いままではないか。

「……くそっ」

 その日で一番の怨念が篭った暴言を吐きながら、ハヤトは窓を少しだけ開ける。元々の標高の高さも相まって、すぐに涼しい風が窓の隙間から流れ込んでくる。

 少しだけそのまま風に吹かれ、大分熱くなっていた顔を冷ますハヤトだが、すぐに身体の節々を襲った鈍い痛みに顔をしかめる。

 今度こそ眠ろうとベッドに横たわるハヤト。鬱陶しい陽光も差し込まず、そよそよと涼風が吹き込んでくる。実に快適だ。

 脳を急速に侵略してくる睡魔に身を委ね、意識を落とそうとする。が、突然窓から強い風が吹き込んでくる。

 窓が風の力でゆっくりと押し開けられ、カーテンが強くはためく。それと同時にハヤトへと強襲する目映い陽光。

「――うなぁぁあああ!! そこまで自己主張するなら、やってやろうじゃないかぁーッ!!」

 ガバッと起き上がり、ハヤトは風にはためくカーテンを相手に終わらぬ戦いを始める。どうにかしてカーテンを固定しようとすると風が通らなくなり、風が通るようにするとカーテンが開いてしまう。だからどうにかしてカーテンを以下省略。


 見る者全てが不毛だと認める戦いを小一時間続けたハヤトは、ついに己の敗北を認めた。

「……眠くなくなった……」

 無駄に身体を動かしたがために、身体は疲れきっているのに反して意識は冴え渡ってしまった。

 疲労の色に染まった溜め息を吐き、ハヤトは先程まで格闘していた窓の先に目を向ける。ハヤトと戦いを続けた太陽と風は、疲れきったハヤトの心中を何も知らない様子で、いつもと変わらず地を照らし、草木を揺らしている。

 「争い」という言葉が存在しないような様体を見せる自然を前にして、ハヤトは己の中で昨晩の仮面の男が発した言葉を反芻はんすうする。

「――投降しろ、か……」

 投降する。

 それもまた、テナやアリア、ルイスたちの日常を守る一つの手段――いや、もっとも確実な手段と言えるか。

 何気なく見上げた空はどこまでも青く透き通るように光り、全てを飲み込むように広がっていた。



     ×××××



 ――夜。

 にわかに強くなりだした風の音を遠くに聞きながら、ハヤトは昼に買っておいた長剣の手入れをしていた。

 さすがは冒険者が集う街シュバルツの武器屋だ。質も数も相当なものであり、事実としてハヤトもそれなりの剣を買うことは出来た。ちなみに金はアリアの家――フェルノ家所属の商人の下で買ったため、払わなくてもいいとのこと。ますますアリアに頭が上がらなくなる。

 新品らしく、一片の濁りも無い、鏡のような輝きを放つ白刃を丹念に磨き上げながらも、ハヤトの神経は手元の剣ではなく外へ向けられている。

「……あのぅ、ハヤトさん」

「うん? どうかした、ルイス?」

 外に向けていた意識を引き戻し、ハヤトはルイスに顔を向ける。

 もはや定位置となりつつあるのか、ルイスはカウンター奥の席に腰掛けながら、ハヤトをまっすぐに見ている。テナとアリアはいつの間にか、部屋に戻ったらしい。

「何か、あったんですか? 今日は何か、いつもより様子がおかしいと言いますか……」

「……僕の様子がおかしい?」

「は、はい。なんかいつもより刺々しいというか……あ、いえ! 私たちにそう当たっていたというわけではなくて、なんか雰囲気が――」

 あたふたと慌てながら言葉を続けるルイスに、ハヤトは驚愕を隠せない。確かに今日一日は周囲に警戒しながら過ごしていたけれど、まさかテナやアリアでなくルイスにそれを悟られるとは。

 ルイスに対する評価を少しだけ変えながら、ハヤトは言葉を返す。

「別に何もないよ。ただ……確かに、いつもより疲れているのかも知れないね。今日は少し早く寝ようかな」

 日を重ねるごとに上達していく誤魔化しの技術に、自分のことながら嫌気が差す。

「そうですかっ、分かりました。……後で何か、持ってきましょうか?」

 ルイスの心遣いをやんわりと断ると、ルイスは再び可憐な笑みを一つ、ペコリとお辞儀を返してから軽やかに階段を上がって二階に姿を消す。

 その後ろ姿を見送りながら、ハヤトは最後の一拭きとばかりに、少しだけ力強く布巾で剣を拭う。軽く手の中で転がして感触を確かめてから、一緒に買っておいた木製の鞘に剣を収める。

 カウンターに置いてあった、ルイスの出してくれた水を軽く煽り、口内を湿らせる。目を閉じて、外から聞こえる物音に全神経を注ぎ込む。

 ――路地を吹き抜ける烈風の音、それに巻き上げられる木の葉や小石が擦れ合う音。上の階で住人と思わしき人が歩く音。住人のいびきの音。――階段を一階に向かって降りてくる、小さな足音。

 足音、と形容するのは正しくないだろう。ハヤトが確認出来たのは足音ではなく、階段の板が軋む音なのだから。つまり足音が板の軋む音よりも小さかったか。その原因は、歩行者が軽かったか、もしくは意図的に消していたか――

 傍に立てかけていた長剣の柄を軽く握り、階段を射抜くような目つきで注視する。一段、また一段と板が軋む音。それが近づくに伴って、柔らかい足音も微かに聞こえてくる。

 息を潜ませ、気配を出来る限り薄くしながら立ち上がり、ハヤトは手早く抜剣出来るように軽く、鞘から剣を滑らせる。

 足音はどんどん近づき、そしてすぐそこまでやってくる。こちらの様子を伺っているのか、そこで立ち止まって動こうとしない。焦りにも似た感情がハヤトの心でくすぶり始める。

 ――動くか、今だ――ッ!

「……ハヤトさん?」

「ル、ルイスか……。ふぅ~……」

 見慣れた少女の顔を前にして、ハヤトが全身に張り巡らせていた力が一気に抜ける。それと同時にドッと押し寄せてくる疲労の波。気が付けば、全身至る所に脂汗を浮かべてしまっている。

 目に入ってきそうになった汗を拭い取りながら、ハヤトは沈み込むように椅子に腰掛ける。

「どうした? 忘れ物?」

「は、はい。毛布を……」

 やや恥かしそうに俯きながらルイスは言って指差す。そちらに視線を移せば、なるほど確かに、カウンター奥の席に亜麻色の毛布が畳まれた状態で置いてある。

 軽く腕を伸ばして毛布を手に取り、ハヤトはルイスにそれを手渡す。

「これで合ってるよね?」

「はい、ありがとうございますっ」

 ペコッと頭を下げたルイスは、毛布を胸の前に抱きながらトットと軽快な駆け足で階段に近づき、脚をかける。

「……ハヤトさん」

「うん? まだ何か忘れ物でもあった?」

 からかうようなハヤトの口ぶりにルイスは顔をぶんぶんと横に振る。そんなルイスの反応を愛おしく思いながら、ハヤトはルイスの言葉を待つ。

「あまり……無理はしないで下さいね」

「――えっ?」

 まさか、仮面の男たちと接触したことを知っているのか。いや、でも昨夜はそんな気配を感じなかったはずだけれど……

 戸惑いに瞳を揺らすハヤトを真っ直ぐに見つめながら、ルイスは言葉を続けた。

「私、ハヤトさんが何をしているのかは分かりません。ですけどそれって、『危ないこと』なんですよね?」

「………」

 否定しようと思えば、いつものように誤魔化すことは容易だっただろう。でもハヤトは、そんなことはしたくなかった。

「……いつ、気が付いた?」

「私は夕方頃です。でもテナさんとアリアさんは、お昼頃には何か気づいたみたいでしたよ」

「……そっか……」

 となるならば、テナとアリアは僕を気遣って何も言わなかったのか……

 ハヤトの心中が、何か温かいもので満たされていく。

「僕が何をしているのか、知りたい?」

 ルイスが「イエス」とだけ言ってくれれば、もう全てを打ち明けるつもりだった。けれどルイスは、ハヤトの望んでいた答えとは異なる――それでも、ルイスの意思が篭った言葉を返してくれた。

「……知りたい、とは思いますけれど、でもハヤトさんにとってそれって大切なことじゃないんですか? だったら、私は口を出すつもりはありません」

「………」

「ハヤトさんがやったことが間違っていたとしても、私はそれを責めません。きっとそれはハヤトさんが必死に考えて悩んでやったことだから。それに――」

 ルイスの澄んだ声が、ハヤトの心に溜まったわだかまりを取り除いていく。濁りきった沼地が美しい湖へと変わっていくような、胸を爽やかな風が吹き抜けていくような、そんな感覚さえ覚える。

「――私は、ハヤトさんを信じていますから」

 ルイスの言葉が鼓膜を揺らし、脳を揺さぶり、心を揺さぶる。ドクッと一際大きく、心臓が脈打つ。身体中に心地よい熱が駆け回っていく。

 軽く会釈をしたルイスが、階段を駆け上がっていくのを音で感じる。

「ルイス。……ありがとう」

 小さく呟くように出されたハヤトの言葉が届いたのかどうかは定かではないが、それでもハヤトは、ルイスにちゃんと届いた気がした。

 胸の中に火花を散らす炎を感じる。思わず硬く握った拳を胸に当てて、深く深呼吸をする。

 ――もう、答えは決まっていた。

 腰の剣を握り締め、ハヤトは戸を開け放つ。冷たい夜風が身体に吹き付けるが、依然として身体の芯は相当な熱を放っている。

 靴裏に硬い石畳を感じる。昨夜の記憶を軽く引き出して、約束の場所を思い出す。体内に潜む熱を吐き出すように深く溜め息を吐いてから、ハヤトは思い切り石畳を蹴って駆け出した。

さて、久しぶりの投稿なのですが、如何だったでしょうか?

読者の皆様方が楽しめていただけていれば、幸いなのですが……

さてさて「世界樹のはやぶさ」、今年に入ってからチマチマと投稿させていただいておりましたが、次話でとうとう四十話に突入ですッ! 何だか長かったような短かったような……

これからも完結目指して頑張っていく所存ですので、どうぞ温かく見守って頂ければと思います。


それでは今日はこの辺りで失礼します。

これからも「世界樹のはやぶさ」をどうぞ、よろしくお願いします。

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