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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第四章
38/47

第三十八話 甘言

こんにちは、吉良義人です。

なんかもー、本当にすみません。一週間ごとに更新とかほざいておきながら、堂々とそれを破る始末。

自分でもどうかしてると思います。

しかも二週間かけておいて、別に作品のクオリティはそんなに変わってないという……

本当に、申し訳ないです!!


今回の後書きで少し重要なお知らせがあるので、よろしければそちらを確認して下さい。

それでは『第三十八話 甘言』、どうぞよろしくお願いします。

 無音の夜闇に紛れ込んだ、一筋の閃光と金属音。

 矢継ぎ早に繰り出される必殺の連撃を紙一重で避けながら、ハヤトは仮面に空けられた穴ダ――仮面の目を、一瞥する。

 数メートル先を見通すのがやっとの夜闇よりも深く黒い仮面の眼球もまた、ハヤトの目を直視していた。

 一瞬の硬直。その好機を逃さず、ハヤトは一気に攻勢へと転じる。

 あまり持ち慣れない得物でありながら、それを感じさせない手捌きで連撃を叩き込む様は、さすがといったところか。だが仮面はそれを見ても尚、動じようとはしない。

 そしてついに、ハヤトの構えに乱れが生じる。得物の重さの違いで、普段使い慣れている型を外したのだ。

 仮面はその隙に身体を滑り込ませ、そしてハヤトの胸へと掌底を叩き込む。

「――んぐっ!?」

 胸から背中へと突き抜けた強烈な衝撃に、ハヤトは息を詰まらせ、背を折る。

 がら空きになったハヤトの背中へ、仮面の男は肘鉄を振り下ろすが、空を斬るだけに留まる。

「……ちっ」

 仮面の男が舌打ちを漏らす。それを聞きながら、ハヤトは仮面の男から距離を取り、そして気配を圧し殺していく。

 急速に気配が薄らいでいき、ハヤトの姿が闇に溶け込んでいく。一秒、二秒と経過し、三秒程経った頃には、ハヤトの気配は既に消え去ったも同然の程の薄さになっていた。

 ハヤトの姿をやはり見失ったのか、仮面の男は背中を建物の壁に預け、闇の中へ目を凝らす。

 音もなく石畳の上を滑るように移動し、仮面の男の胸元へ、苦無を突き立てる。黒い切先は外套を斬り裂き、そのまま建物の石壁に突き刺さる。

「――ッ!?」

「……その程度か。幻滅だ」

 思いがけない手応えに目を見張り、思わず身体を硬直させたハヤトの首筋に、何処からともなく出現した仮面の男は苦無を突きつける。

 首の皮を浅く斬り裂いた苦無の感覚、そして仮面の男の隠形能力に、ハヤトは冷や汗を垂らす。

 仮面の男はしばらく苦無を突きつけた後、余裕を感じさせるような動作でゆっくりと口を開いた。

「貴様、あの子供の居場所を吐け」

 ――あの子供。

 恐らく。いやほぼ確実にルイスのことだろう。

「……ふん、誰が」

 思わず言い返してしまってから、ハヤトは己の失策に後悔する。これではルイスと共にいると明言しているようなものではないか。

「そうか……やはりな」

 そして仮面の男も、それに気づいたらしい。

 ハヤトは己のかつてない頭の回転の悪さに、思わず歯噛みをする。いくら一年外界との交流が無かったとはいえ、平和ボケしすぎだろう。

 ハヤトの心中の焦燥を見透かしてか、仮面の男はその獣面から低い笑い声を響かせる。

「さあ、吐け。あの子供の居場所を」

「……脅しても無駄だぞ」

 せめてもの抵抗。

 獣面の奥に隠れている男の顔を、鋭い双眸でハヤトは睥睨する。

「言えば……そうだな、貴様の仲間とやらの罪も無くしてやる。もちろん、貴様の罪もだ」

「そんな甘言に、僕が乗せられるとでも――」

「思ってはいないな」

 いちいち、要領の掴めない男だ。

 どう粘ってみても、こちらのペースに引き寄せることは叶わないらしい。

 ハヤトはギリッと歯を噛み締めるが、仮面の男はそれを黙して見つめるのみ。

「だがよく考えてみたらどうだ罪人」

「何をだ」

 再び語りかけてきた仮面の男に、ハヤトは敵意を剥き出しにして応じる。それに苦笑で返しながら、仮面の男は言葉を続けた。

「貴様も、悪くない腕をしている。今後イオリア様への忠誠を誓い、その上で子供を連れてくれば、子供の処遇も良くなるかも知れんぞ?」

 所詮は、甘言。

 そう考えて黙殺しようと考えていたハヤトだが、仮面の言葉に考え込んでしまう。確かに仮面の言う通り、自分の立ち回り次第では事態をいくらでも好転させられるかも知れない。

 そんなハヤトの葛藤を知ってか、仮面の男は再び笑みを漏らす。

「さあ選択しろ。ここで犬死するか、それとも我らの下で戦うか」

 ハヤトは黙ったまま俯き、そのまま何も答えない。完全に、戦闘意思を奪い取った。もはやハヤトに選択の余地は残されていない。そう考えた仮面は、無意識の内に苦無を突きつける手を緩めた。


「………バーカ」


 ハヤトの漏らした言葉に、仮面は一瞬だけ硬直する。

 完全に密着した状態では、しかもハヤト程の手練にとっては充分過ぎる程大きな隙。

 ハヤトは即座に仮面の腕を掴み、そして仮面の男の懐に潜り込む。

「貴様――ッ!!」

「……ぅうらぁ!!」

 裂帛の叫びと共に、ハヤトは己の腰に仮面の男の身体を乗せ、やや力任せに投げ飛ばす。グルンッと大きく一回転した仮面の男の身体は、背中から石畳へと叩きつけられる。

「ぐっ!」

「形勢逆転、かな?」

 一瞬の天地が逆さまになる感覚の後、背中から肺を突き抜けた強い衝撃に、仮面の男は苦悶の声を上げるが、ハヤトはそれに構わない。

 仮面の男から取り上げた苦無を逆手に持ち、それを仮面の首元へと突き付ける。

「……ちっ」

「さあ、聞かせてもらおうか。まずお前たちは、何者だ?」

「………」

「何故、ルイスのことを狙い回している?」

「………」

 ハヤトの問いに全て、仮面の男は沈黙しか返さない。

 段々と焦れてきたハヤトは喉元に突き付ける苦無を少しずつ進ませながら、質問を続けようとするが、

「どうやら、時間切れのようだな、罪人」

「――ッ」

 仮面の男はハヤトを嘲笑い、ハヤトは露骨に嫌悪感と不信感を示す。だがその直後、ハヤトの頭部目掛けて何処からともなく苦無が飛来する。

 慌てて身体を仰け反らすハヤトだが、その隙に仮面の男はハヤトの拘束から逃れる。

 思わぬ横槍に苛立つハヤトだが、周囲に気を散らしてみれば、仮面の男が夜闇に紛れて集まり始めているのが分かる。援軍だ。しかも仮面の男のいずれもが、相当の手練らしい。

「さあ、早く行かなければ貴様も死ぬぞ」

「……覚えてろよ」

 自分でも驚く程の殺気に満ちた声を響かせて、ハヤトは仮面の男に背中を向け、路地裏へ一気に駆け込む。背後から幾つか、苦無が飛来してくるが、夜闇の中ではろくに標準も合わせられまい。全てがハヤトの肌を掠めるだけだ。

「我らの傘下に下るつもりがあるならば、明日の夜更けに再びここに来い。待ってるぞ」

「……ッ! 誰が!」

 苦い敗北の味を喉奥に感じながら、ハヤトはひたすらに走った。



     ×××××



 念入りに道を何度も折り曲がり、完全に仮面たちの追跡を振り切ったと判断したハヤトが宿に戻ってくる頃には、既に東の地平線から陽が顔を覗かせ始め、空が薄らと明るみ始めていた。

「……眠い……」

 予想以上に激しい運動をしたハヤトは、どうやら当初の目的であった眠気を呼び戻すことには成功したらしい。だが明け方から寝始めるというのも、どうだろうか。

 しばしの間だけ熟考するハヤトだが、考えていても仕方がないという結論に達したらしい。眠気を隠そうともせず、大きなあくびを出す。

 仮面の男に出会ったなどということは、万が一にもバレてはいけない。知られたら、彼女たちに心配させてしまう。

 気合を入れるつもりでパチンッと軽く頬を叩き、思った以上の痛さに涙目になりながら、ハヤトは宿の戸を潜った。

「……ただいま~」

 返事が返ってこないと分かりつつも、ハヤトは小声で帰宅の挨拶をする。すると驚いたことに、

「あ、おかえりなさいハヤトさん。お散歩はどうでしたか?」

 既に割烹着エプロンを身に付けたルイスが、宿の従業員よろしく礼儀正しくお辞儀をしながら、挨拶を返してくる。

 思わぬ展開に目を白黒させながら、ハヤトは軽く手を上げる。

「なかなか気持ちが良かったよ。おかげで、もう一眠り出来そうだ」

「えぇ!? また寝るんですかぁ? でも、もう朝ですよ」

「眠い時に寝るのが、一番健康的な生活だと思うんだ」

 「それじゃっ」と片手をピシッと正して額に軽く当てて、背中越しにルイスの「えぇ~」と呆れたような声を聞きながら、ハヤトは宿の二階――自室へと戻ろうとする。

「あら、ハヤトさん。おはようございます」

「おっと、アリアか。昨日はよく寝れた?」

「はい。昨日は申し遅れましたが。ハヤトさん、これからもよろしくお願いしますね」

 ふわり、と優雅に微笑むアリア。何気ない動作の一つ一つに、名門貴族の令嬢らしいみやびさが感じられる。

 久々に見れたアリアの、前と変わらぬ様子に安心感を覚えながら、ハヤトは二階への階段を上る。が、またもやその道中を何者かに塞がれる。

「……んぅ……眠い……」

「――ッ!?」

 全身が白い掛け布団に覆われ、もぞもぞと動く。

 布団の奥から低い声が漏れ出し、手のような二本の突起が何かを掴むように上下左右にゆらゆらと揺らいでいる。

「テ、テナ、なの?」

「はぁい……? 呼びましたぁ~……?」

 布団の中から漏れてくる声は確かにくぐもってはいるが、テナの声で間違いない。

「い、いや、何でもないよ。それじゃあ気をつけてね」

 あれでは目の前が見えないだろう。階段を転がり落ないものか。

 心配するハヤトをよそに、テナは驚く程しっかりした足取りで階段を一段一段降りる。

 思いがけずテナの特技(?)を見れたことを嬉しく思いながらも、割と不可解な現象を見たハヤトは狐につままれたような顔をする。

「……見えてるのかな?」

 恐らく見えてないと思うのだが、それでも見えているのだろうか。

 階段下を見てみれば、アリアはテナの様子に一瞬だけギョッとした様子だったが、すぐに落ち着いた風に戻った。

 アリアにとっては既知の特技、だったのだろうか?

 妙な心地になりながらもハヤトは、自室に戻るために廊下を歩こうとする。が、すぐにその足を止める。

「……なんてこったい」

 思わず、言葉が漏れる。

 それもそのはず、宿の二階の住人がみんなしてテナのことを、(生)暖かい視線で見送っていたらしく、妙な程慈愛に満ちた眼差しをしていたのだから。

 ハヤトは知る由もないことだが、テナはこの宿ではちょっとした名物になっていたらしい。

 少し、いや相当の居心地の悪さを感じながら、ハヤトは自室に戻るのだった。



 

 階段からのそのそと這い出てきたテナを見て、ルイスは明らかにギョッとした顔になる。モーニングティーを楽しんでいたアリアは、やれやれといったような顔になって、カウンター席にもそもそと登ってきたテナに声をかける。

「テナ、布団は戻してきなさい」

「ふぇ……? ……あ~い……」

「駄目だこれは」

 昼間であれば多少強引であってもテナを引き戻したであろうアリアだが、どうやらモーニングティーの時は例外であるらしい。

 満足気に溜め息を吐いて、紅茶の香りを楽しんでいた。

 そんなアリアの様子を見て諦めたらしく、ルイスはどうにか自分でテナの布団を引き剥がそうと奮闘を始める。

「ほ、ほらテナさん! 布団が汚れちゃいますから!」

「う~ん、分かってるよぉ~」

「全然分かってないじゃないですかーっ!! ちょっ、ちょっとテナさん!? 布団の中に引っ張り込まないでーっ!!」

「う~ん……もふもふ……」

 その日の朝は、いつもよりも少しだけ騒がしかったそうな。

『第三十八話 甘言』、如何だったでしょうか。

読者の皆様の暇を紛らわすくらいになればいいのですが……


それでは前書きで書きましたお知らせを。

最近、僕の作品は一週間間隔更新を守らないばかりか、二週間ごとになっている現状に問題を感じました。

ですので、しばらく休載させていただいて、ストックが貯まり次第投稿を再開させていただこうと思います。

僕の身勝手な理由での休載、本当に申し訳ございません。ですが作品を投げ出すことだけは絶対にしたくないと思ってますので、長くても一ヶ月。短かったら二、三週間になると思います。

ストックも、精々二、三話分程度ですので、気長にお待ちいただければ。


それでは、これからも『世界樹のはやぶさ』を、どうぞよろしくお願いします。

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