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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第四章
37/47

第三十七話 戦慄

こんにちは、吉良義人です。

今回の投稿が予定よりも大幅に遅れてしまったことを、お詫びします。本当にすみませんでした。

理由もクソもなく、ただ自分の力不足が原因ですが、拙作の更新を待っていた方々には頭が上がりません。


待たせてしまったわりに短くて恐縮なのですが、『第三十七話 戦慄』どうぞよろしくお願いします。

 幾多もの道に枝分かれする裏通りを走り抜け、大通りに出たあたりでは既に仮面たちの追撃は無くなっていた。

 テナとルイスの待つ宿への道すがら、ハヤトはアリアに、これまでの経緯を簡単に説明しており、ちょうど話が一段落した辺りで、目的地が見えてきた。

「あそこ。あの宿に、テナとルイスがいるよ」

「……テナ……」

 小さく呟くように、アリアが親友の名を呼んだ。

 やはり、一年近くも会えていなかったのだ。心配にもなろう。

 ハヤトは黙って、宿に向かって足を踏み出す。

 一歩、二歩と進み、三歩目を刻もうとしたところで、後ろから聞こえるはずの靴音が聞こえてこないことに気が付く。

「……アリア?」

「……私に」

 振り返ってみると、アリアは俯き、立ちすくんでいる。そして、絞り出すように喋り出した。

「私が、テナと会っていいのでしょうか」

 アリアの震えた声を聞き、ハヤトは思わず生唾を飲み込む。アリアはそんなハヤトに構わず、己の心中を吐露していく。

「私は、神殿区に盾突きました。神殿区の処置が不当なものだと思ったから。今も、それが間違っていたとは思っていません。でもその行為は、私だけでなくテナまで危険な立場に置いてしまった」

「アリア……」

「私がまたのうのうとテナの前に現れることが、許されるでしょうか。私が……」

 アリアはおもむろに顔を上げ、ハヤトを見つめる。その目は揺れて、縋るような光を宿していて。アリアの身体もどこか細くて、今にも砕け散ってしまいそうな儚さを醸し出していて。

 ハヤトはそんなアリアから目が離せなくなり、そして一方で少しも身動きが取れなくなる。何か、気の利いた言葉をアリアに言ってやらなければならない。それは分かるが、肝心の内容が全く浮かんでこない。頭が真っ白になって、思考が乾いた音と共に空回りを続ける。

「……っ」

 何とか喋りだそうとしても、舌が貼り付いたように口内から動かず、喉から空気が微かに漏れ出すだけ。

「私が……テナと会って……そんなことが、許される――」


「――アリア?」


 ハヤトは、唐突に背後から聞こえてきた声に振り向き、そして安堵のあまり溜め息を吐く。

 テナが、扉の脇に佇むようにして立っていた。その目は親友の顔のみを映し、見る見る内に涙が溜まっていく。

「……テナ……?」

 アリアが、茫然という様子で呟く。

 テナはそれには答えず、ただ覚束無い足取りでアリアの下に駆けていく。

 その後ろ姿を見送って、ハヤトは黙って宿の中へと戻っていく。ただ今は、二人を邪魔してはいけない。そんな気がした。

 ハヤトが建物に入り扉を閉めると、受付のカウンターからハヤトのことを心配そうに見つめてくるルイスと顔が合う。

「……やぁ、ルイス。ただいま」

「お、おかえりなさい……。ハヤトさん? どこか具合が悪かったり……」

 ルイスが気遣うように声をかけてくる。その言葉で、ハヤトは己の顔に手を当て、そして驚愕する。

 自分の顔とは思えないほど、冷たい。頬も凍り付いたように動かない。これでは、ルイスが心配するわけだ。

「……いや、何でもないよ」

 ひどく動かしづらかったが、それでも表情筋を酷使して何とか笑みを浮かべてみせる。

 足を動かし、カウンターに身体を預ける。すると、まるで世界樹最前線を思い切り駆け回ってきたような、重度の疲労が身体にのしかかってきた。

「……ハヤトさん、本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈――」

 大丈夫、そう言おうとして、思い直す。ルイスは一般常識からかけ離れた環境で育ってきたとはいえ、聡い子だ。下手な嘘を吐けば吐くほど、余計に心配されてしまうだろう。それに今の状態で大丈夫と言って、信じてもらおうということが虫のいい話だ。

「……そうだね。少しだけ、疲れたかも」

 ルイスはカウンターの奥から水を取り出して、ハヤトに注ぐ。

 ハヤトは水を煽り、そして大きく息を吐く。

 程よい清涼感が喉元を過ぎ、胃に落ちる。ボゥッとした頭が、少しだけ冷えた気がする。

 目を瞑り、目頭を指で揉み解す。心地よい快感が目の辺りを包み込む。

「今日はもう休みますか?」

 ルイスはハヤトの顔を覗き込み、尋ねてくる。これではまるで、宿の従業員と同じではないか。

 ハヤトは微かに苦笑を漏らし、答える。

「いや、まだここにいるよ。ちょっと考えたいこともあるしね」

 ルイスは尚も心配そうにハヤトの顔を見つめているが、ハヤトの意思に介入するつもりはないのだろう。ハヤトに椅子を用意した後、自分もカウンターに備えられている椅子に腰掛けて一口、水を飲む。

 そんなルイスの行動を嬉しく思いながら、ハヤトはもう一口水を煽り、そして思い返す。

「……全然駄目だな、僕は。これじゃリーダーだなんて言えないよ」

「……? 何のことですか?」

 律儀に問い返してくるルイスに適当な返事を返しながら、ハヤトの頭の中では後悔が募っていく。

 自分は、アリアの激情に気圧されて結局何も言ってやることができなかった。運良くテナが現れてくれたから良かったものの、こんな有様ではいずれ誰も頼らなくなってしまうだろう。

「もっと……しっかりしなくちゃ……」

 手を目の前に掲げてみる。

 ある程度は身体を動かしていたとはいえ、一年近くは大した運動をしてこなかった身体は、一年前のそれとは比べ物にならないほど衰弱していると考えていいだろう。現に、眼前の己の手も、肉は削げ落ち、見るからに弱々しい有様だ。

 何度か握ったり開いたりを繰り返しただけで、手に疲労が溜まっていくのが分かる。

 己のあまりに惨めな有様が見るに耐えなく、ハヤトはカウンターに突っ伏す。

 額に当たるカウンター板の冷たさが、心地よい。やはり、結構な疲労が溜まっていたのだろうか。目を瞑るだけで、一気に睡魔が押し寄せてきた。

 意識を急速に包み込んでくるまどろみに身を委ね、ハヤトは目を瞑った。



     ××××××××××



「……んん……ぁ?」

 未だ心地よいまどろみに囚われたまま、ハヤトは薄目を開ける。

 視界は、暗い。が、暗闇に目が慣れてくると同時に、そこが宿の受付カウンターであることが分かってくる。

 ボゥッとした頭で、ハヤトはゆっくりとここまでの経緯を思い出す。

「あぁ……あのまま寝たのか……」

 そこまで考えた辺りで既に、意識は大分冴え渡ってきた。眠気は、もうほとんど残っていない。意識を閉ざす前までは、心の中を占めていた鬱々とした感情も、今では大分晴れている。

 外から物音らしいものも聞こえてこない。どうやらかなり夜も更けているらしい。

 随分凝り固まった身体を解そうとしたハヤトは、身体にかけられた毛布に気が付く。

「ルイス、かな……」

 相変わらず、気の利いたところがある。そしてそれが、心地よかった。思わず笑みを零しながら、ハヤトは毛布を軽く折りたたんでカウンターに置く。

 とりあえず席を立ったハヤトだが、己のみが時間を持て余していることに気が付き、もう一度椅子に腰掛ける。

「……もうみんな、寝ているか……」

 既に夜も遅く、外に出たところで何もやっていないだろう。だがだからと言って、このまま寝れるほどの眠気はない。

「……とりあえず、歩いてくるか……」

 少し時間が経てば、自ずと眠気も訪れるだろう。

 一口だけ水を口に含み、ハヤトは扉を開けて外に出る。

「うっ、寒……」

 外に出た瞬間、肌を夜の冷気が出迎える。思いがけない寒気に身震いをして、外出を考えたことを僅かばかり後悔する。

 だが今更引き返すのもどこかしゃくだったため、そのまま行く。妙なところで頑固なのだ。

 軽く身体を擦ってから、ハヤトは歩き出す。

 宿前の通りを抜け、シュバルツの大通りに出てみるが、やはりどこにも営業をしている店などは見当たらない。

 冒険者は仕事柄、夜は休まないと身体が持たない。そのため、夜に営業するような店に入る客は、どこにもいないのだ。特にシュバルツなどの、冒険者が住人の大半を占める街では。

 いつもであればただの日常として見過ごすことだが、今に限っては少々恨ましくもあった。

 ハヤトは少しばかり嘆息して、そして再び足を進める。が、すぐに足を止め、顔をしかめる。

「……嫌だなぁ、まったく」

 面倒くさそうに頭を掻き、そして物陰の方に視線を投げかける。目つきを険しくさせながら、すり足で見つめた先から距離を取る。

「さあ、早く姿を見せたらどうかな?」

 声をかけるのと同時に、ハヤトが目を向けた先から微かに光が漏れる。外からの光を反射したときのような、鈍い光。

 それを視界に収めたところで、ハヤトは上体を反らす。

 刹那、ハヤトの胸があった辺りを何かが通り抜けるような気配と共に、背後の壁にその何かが突き刺さった音。

 振り返って確かめてみると、東洋で使われている暗器の一つ、苦無くないだ。

「……ははっ。まったく、危ないね」

 努めて明るい声を出すが、声は自然と震える。明らかに今の攻撃は、暴力的なまでの殺意が込められていた。

 背中を冷や汗が流れ、寒気が走る。

 昼にも仮面たちと交戦したが、その時よりも数段は強烈な殺気が襲いかかってくる。

 世界樹最前線で、一際強力な魔物と一人で遭遇してしまった時のような、そんな戦慄がハヤトの中に走る。

「くっそ……まずいかもな……」

 先ほどまでとは比べ物にならないほど、意識が鋭敏になっていく。ただ冷たいとだけ感じていた夜風でさえも、戦術上の一要素に変換される。

 ハヤトを取り巻く空気が、目に見えて変わる。

 それを相手も感じ取ったのだろう。ハヤトが注視する物陰から、その人間は出てきた。

 全身を余すところなく包み込む黒い外套に、獣を模した仮面。外套から黒い苦無の輝きが、ハヤトの目には眩しく映る。

「……またお前らか……」

「………」

 ハヤトが威嚇するように呟き、そして壁に突き刺さったままの苦無を抜き、構える。使い方などは心得ていなかったが、無いよりはマシだろう。

 仮面の方もハヤトと同様に、苦無を構える。

 一秒、二秒と時間が経過し、五秒ほど時間が刻まれたところで、仮面が唐突に言葉を放った。

「……貴様、イオリア様の知己だったのか」

 突然投げかけられた質問に、ハヤトの思考が一瞬だけ、戦闘状態から離れる。

「何のことだ?」

「そうか。違うのか……。ならば、そういうことか……」

「お前、さっきから何を言っているんだ」

 ハヤトが怪訝そうに聞くが、仮面は何も答えない。無言のまま苦無を持ち直し、構えを更に低くする。

 戦闘態勢に入れという、無言の指示だろうか。こちらが構えるまで待っているとは、随分と気前がいいものだ。

 ハヤトは仮面に対する認識を無意識の中でわずかに改める。再び意識を切り替える。

 仮面はそれを確認するのとほぼ同時に、足を踏み出した。

『第三十七話 戦慄』如何だったでしょうか。

今回の内容、投稿前の一日で書いているため非常に荒削りで、誤字脱字なども紛れているかと思いますが、見つけた場合は感想欄などで教えていただけるとありがたいです。

今回、いつも宣言していました一週間間隔の更新を私事で二週間にしたばかりか、更に一週間ほど延期して、結局三週間ほど作品をほったらかしにしたことになります。本当にすみませんでした。


これからはこのようなことがないよう、精進していく所存ですので、どうかお許し下さい。

それでは今回はこの辺で。

『世界樹のはやぶさ』を、これからもよろしくお願いします。

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