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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第四章
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第三十六話 使命

こんにちは、吉良義人です。

今回もなんか微妙な長さですが、よろしくお願いします。

それでは『第三十六話 使命』です。

……サブタイトルが段々テキトーになっていく。どうにかならないものか……

 陽光がまともに差し込んでこない裏通りを、ハヤトは全速力で疾駆していた。

 ハヤトの前には、例の仮面が同じように疾駆している。

「――あぁもうっ、速すぎるっての!!」

 苛立ちを織り交ぜた声で怒鳴るハヤト。その声の端々には疲労が滲み、息も既に大分荒くなっている。肩を大きく上下させながら、足を時折ふらつかせながらも、ハヤトは走ることを止めようとはしなかった。

 ハヤトが仮面を発見したのが、一刻程前で、それからハヤトは休まずに仮面を追って走り続けていた。

 徐々にハヤトが仮面との距離を縮め、ついに手を伸ばした時、仮面が突然、裏通りの横道へ身体を滑り込ませる。

 慌ててハヤトも方向を変えようとするが、人間の身体はそう便利に出来てはいない。走ってきた勢いを殺せず、無様に地を転がる。

「――っ、痛ぇ……」

 転倒した際に打ったのだろう。ハヤトは頭部を押さえながらも、再び仮面を追随するように走り始める。

 それから、半刻程は走り続けていただろうか。

 ハヤトの前を走っていた仮面は、そこにたどり着いた。

 放浪者によって投棄されたゴミが所狭しと転がり、異臭を放っている広間。広間の中央では、十人以上はいる仮面が、輪を作るように並んで、ハヤトに背を向けていた。

「……なんだ……?」

 思わず茫然としてしまったハヤトだが、すぐに我を取り戻す。仮面たちが取り囲んでいるものは何なのかを探ろうとして――目を、鋭くさせる。

「――どけぇぇえええ!!」

 身体を一瞬、深く地面に沈みこませる。膝に渾身の力を込め、そして思い切り蹴りだす。瞬時に最高速度にまで達したハヤトの身体は、そのまま滑るように仮面たちの作る輪に接近する。

 仮面たちも、迫りくるハヤトの存在に気が付き、迎撃態勢をとる。ハヤトに向かってきたのは三人。全員が剣を持っている。その構えからは、それなりの手練であることが容易に伺える。だがその情報は、ハヤトの脚を止めるだけの抑止力を持っていなかった。

 ハヤトは三方向から迫る切先に臆せず、身体を前進させ、突如身体を沈み込ませる。

 仮面たちが振るった剣は空を斬り裂くに留まり、その間にハヤトは地を滑り、仮面の足下を抜ける。

 仮面たちの動揺を表わすように、輪がぐにゃりと大きく波打ち、歪む。ハヤトは再び駆けだし、そして輪の中央で腕を大きく振りかぶっていた仮面に向けて、渾身の力を込めた拳を叩きこむ。

 拳は仮面にヒビを生み、そして小片へと砕く。仮面の破片の間を通って、黒いもやが漏れだし、空気にとけ込む。

「……ハヤト……さん……」

「アリア! 大丈夫だった?」

 背中の後ろで倒れこんでいるアリアに、ハヤトは声をかける。アリアの返事を聞きながら、ハヤトはジリジリと輪を縮ませる仮面たちに、殺意の篭もった視線を向ける。

「アリア、立てる?」

「は、はい。問題ありません」

 慌てて立ちあがり、再び弓を構えるアリア。ハヤトはその姿に、安堵を感じる。

「聞きたいこともたくさんあると思うけど、今はとりあえずここから出ることを優先する。いいね?」

 無言で、アリアはこくりと頷いてみせる。

 ハヤトはそれを横目で確認しながらも、冷や汗が頬を滴るのを感じる。正直、これだけの数の手練を相手にして、脱出することも難しいだろう。最悪、自分の身を犠牲に捧げても――

 ハヤトは脚に力を込め、血路を開く決意を固めた時だった。

「――お前たち、退け」

 仮面たちの輪が崩れ、一本の道が開かれた。

 驚愕に目を見開いてそちらを見つめるハヤトとアリアの前には、一人の女が立っていた。

「……イオリアさん?」

 アリアが小さな声で、呟くように言う。アリアの知人だろうか。

 対してハヤトは、どこかで見たことのあるその女に、脳を総動員して己の記憶を探り、そしてその答えを発見する。

「……次期教皇候補者……」

「おや、知っていたのか大罪人。脱獄早々に情報収集とは、賢明ではあったな」

 ハヤトを嘲笑う女――イオリア。ハヤトの記憶とは大分違う彼女の様子に、ハヤトは少しばかりの困惑を覚えるが、表には微塵も出さない。

「随分変わり果てたな……何かあったか?」

「ふん、お前には関係のないことだろう。大罪人」

 イオリアの言葉に、ハヤトは苛立たしげに顔をしかめるが、決して行動を起こさない。行動すれば最後、脱出が困難になるのは目に見えていたから。

 それをイオリアも理解しているのだろう。唇を弧の形に歪め、ハヤトを嘲笑っている。

「……それで、一人の罪人に構っているほど暇なあんたが、僕に一体何の用だい?」

「……ちっ」

 ハヤトの言葉に対して、今度はイオリアが苛立たしげに顔をしかめ、舌打ちをする。

 それを無感動に見つめながら、ハヤトは高速で頭を回転させる。先程からの、今一つ要領を得ないイオリアの行動は、いったい何を目的としているのか。

 必死に思考を続けるハヤトだが、答えは一向に出ようとしない。

 これまでの経験上、相手の狙いが掴めないのは悪い報せだ。こちらの何気ない行動で、一気に足下をすくわれかねない。

 警戒を強くするハヤトだが、そんなハヤトに対して薄らと笑みを浮かべながら、イオリアはあろうことか仮面たちの中から抜け、ハヤトたちの方へ歩み寄ってくる。

「な……っ?」

「どうした大罪人。私に恐れをなしたか?」

 更に、ハヤトを挑発してくるような言動。仮面たちまでもが、イオリアの行動に疑問を抱いているのか、動揺の波が走っている。

 ますます、イオリアの狙いが掴めなくなり、ハヤトは困惑を深める。だが、今の状況がハヤトたちにとって、非常に好機であることは確実に思われた。

 取り乱した様子の仮面が、慌ててイオリアを引きとめようと腕を上げる。だがイオリアは不敵な笑みを浮かべたまま、仮面たちの静止を聞かない。

 ハヤトは脇に立つアリアの腰から矢を抜き取り、音もなくイオリアの後ろに回り込む。そのままその首筋に矢尻を突き付け、そのままイオリアを抱き寄せるようにしてアリアの下に戻る。

「おや? 意外にも強引なのが好みなのかい?」

「黙れ。抵抗するな」

 端的に要点だけを告げるハヤトに、イオリアはやれやれとでも言いたげな様子で肩をすくめ、そして口を閉ざす。

 一方仮面たちは、自分たちの指揮官を人質に取られ、少なからず動揺している様子だった。

「お前ら! こいつをられたくなければ、大人しく道を開け!」

 仮面たちに向けて脅迫の言葉を投げかけ、イオリアの首元に矢尻を少しだけ強く、押し付ける。そして強気に笑みを見せるハヤトだが、その内心では冷や汗を流していた。

 元々、イオリアが何故前に出てきたのかが分かっていないのだ。そのため、何か奥の手が存在する可能性は否定出来ない。むしろ、それが無い方が不自然だ。

 だがハヤトの心配とは裏腹に、仮面たちはしばらく静止した後、大人しく道を開いていく。思いがけない、仮面たちの行動に目を丸くするハヤトだったが、慌てて気を取り直し、小声でアリアに自分から離れないよう、伝える。

「……殺しはしないから、大人しくしてくれ」

 ハヤトは小声でそう告げるのに対し、イオリアはコクリと小さく頷いてみせる。が、その顔には依然として余裕の笑みが浮かんでおり、ハヤトの疑心は膨れ上がっていく。

 イオリアに矢尻を突き付けたまま、一歩、また一歩と慎重に歩を進めていく。とその時、イオリアから小さな声が聞こえてくる。

「……あのは、どうなった?」

「なに? 何か――痛ぁっ!?」

 つま先を踏みぬかれるような痛みに、ハヤトは思わず涙ぐみ、悲鳴のような声を上げる。

 抗議の目をイオリアに向け、首元に沿えていた矢尻で喉を突き破ろうとした瞬間、イオリアから続けられた言葉に、その動きを止めた。

「……馬鹿っ、声がでかい。口を動かすなっ」

 つまりは、情報交換を求めているという認識で良いのか。

 突然の申し出を訝しげに思いながらも、ハヤトはとりあえずイオリアの話に答えてみることにする。

「……それで、『あの娘』というのは、いったい――」

「……ルイス、と君に名乗ったはずだ。銀色の髪をした」

「……っ!」

 思いがけずイオリアの口から出てきた言葉に、ハヤトは目を丸くする。思わず警戒を強めようとするハヤトだが、イオリアの口調がどこか、憂いを帯びたものに聞こえ、その警戒を弱める。

「……ルイスは、僕と一緒にいる。今も、信頼出来る仲間の下で守られているはずだ」

「……ほ、本当だな?」

「……僕が嘘を吐いてどうする。本当だ」

「……そうか……!」

 心なしかイオリアの言葉の調子が明るくなった気がする。

 イオリアはその後も「そうか、そうか……!!」としきりに頷いている。突然のイオリアの変貌に驚きながらも、ハヤトはイオリアを連れて仮面たちから一歩ずつ離れていく。

「……では、あの娘によろしく頼む」

「……? 一体何の――痛ぁっ!?」

 再びつま先に、全身を走り抜ける強い痛み。二度目の強襲はさすがに応えた様子で、ハヤトは身体の力を思わず抜いてしまう。

 イオリアは脱力したハヤトの懐に潜り込み、そのまま腰に乗せ、投げ飛ばす。

 視点が百八十度回転するのを感じながら、ハヤトは身体を丸め、衝撃に備える。刹那、背中を突き抜けて全身を襲った、強い衝撃。

「ハヤトさんっ!? 今助け――」

「走るんだアリア!!」

 アリアの言葉を遮って、怒鳴るように言葉を返すハヤト。アリアは一瞬の逡巡の後、名残惜しそうにハヤトを見つめてから、駆けだす。

 イオリアはハヤトが倒れている隙に仮面たちにアイコンタクトを飛ばし、仮面たちもそれに応えて行動を開始する。

 だが倒れた次の瞬間に受け身をとっていたハヤトは、起き上がりざまに、握りしめていた矢をイオリアの腹部目掛けて打ち込む。

 矢尻はイオリアの服を裂き、その先の肉を斬り裂く。はずだったが、ハヤトの手に返って来たのは鉄を打ったような硬い感触。

「――っ!?」

 驚愕に目を見開くハヤトだが、イオリアはそれに何も答えず、ただ唇の端を持ち上げて笑みを浮かべる。

 ハヤトはそんなイオリアの顔を睨みつけるが、ゆっくりしているような時間はどこにもない。イオリアの身体の脇を抜け、地を蹴りだして身体を空に投げ出すと同時に背後へ向けて矢を投擲。その標的は、イオリアの後頭部。

 イオリアが武芸に心得があったとしても、もはや矢の回避は至難。

 仮面たちの間に動揺が走り、動きが鈍る。一段と素早く行動した一体の仮面が、イオリアを庇うように矢の軌道上に立ち塞がり、イオリアの代わりに一撃を被る。

 矢は深く仮面の額に食い込み、大きなヒビを作る。だが、破砕するにまでは至らなかったようだ。

 額を押さえてうずくまる仮面に視線を向けながら、ハヤトは地面に足が着くと同時に疾駆。前方を走っていたアリアを追いかけた。



「追わなくていい。放っておいたところで、何も出来ないさ」

 通りを駆け抜けていくハヤトとアリアの後ろ姿を見ながら、イオリアは仮面たちに指示を飛ばした。

 仮面たちは戸惑ったようにお互いの顔を見つめるが、やがて渋々了承したといった様子で頷き、そして姿を闇の中に消す。

 そして広間に残されたのはイオリアと、額に矢を受けた仮面だけになる。

「……イオリア様。貴方の意図を、お聞かせ願いたい」

 額から深紅の血を流しながら、仮面がよろよろと立ちあがり、依然として人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべているイオリアに向けて口を開く。どうやらその仮面は他とは違い、言葉を話せるらしい。

「……意図、とはどういう意味だい?」

「そのままの意味です。何故貴方は、自分から敵の手に渡るような行動をとったのか。そして何故、奴らを見逃したのか」

 二人の間を包み込んだ、しばしの沈黙。

 イオリアは笑みを引っ込め、真面目な顔になってから仮面に向けて告げる。

「お前には関係の無いことだろう? お前の要求は、神殿区を私の手中に入れること。ではなかったか?」

「いかにも。そして、そのための障害と成る可能性のある物は全て駆逐する。これもまた、我が使命」

「……使命、ねぇ……」

 仮面の放った言葉を馬鹿にするように、イオリアは鼻で笑う。仮面はそれを聞き咎めて、「何か?」と鋭い声で言ってくるが、イオリアは無視する。

「そう何度も言わせないでくれ。奴らは、お前の目的の障害となるような人間ではない。それに私は、防具を纏っている。矢尻程度で打ち砕かれるような代物でもないようなのを、ね」

「我は言ったはず。障害となる可能性が微塵でもあれば、滅却する、と」

 更に詰め寄ろうとする仮面をイオリアは、邪魔そうに手で払い除ける。仮面は不満気に舌打ちを漏らし、己も闇の中に姿を紛れ込ませる。

 仮面の姿が消えた瞬間、イオリアは疲労感が滲み出る溜め息を吐き、軽く目頭を揉み解しながら、壁に背中を預ける。

「……狂信者が」

 イオリアの、怨念が込められたような一言は、闇の中に静かにとけ込んでいった。

今話は如何だったでしょうか?

読者の皆さまの中で娯楽として存在出来ればと願っております。

さて、近況報告なのですが来週、実は学校の用事が立て続けに入っておりまして、次回更新は二週間後になりそうです。

楽しみにして頂いている方には申し訳ありませんが、ご了承ください。


それでは今回はこの辺りで。

これからも『世界樹のはやぶさ』を、どうぞよろしくお願いします。

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