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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第四章
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第三十四話 着替

こんにちは、吉良義人です。

今回も特に報告することがないので、前書きはこの辺りで。

それでは『第三十四話 着替』、どうぞよろしくお願いします。

 そこは、第四十二階層都市シュバルツの外れに位置する、展望台だった。

 世界中から生え出た枝のように展開する展望台からは、下の風景を一望することができ、また当然世界樹も見上げることができた。

 その展望台から、空高く立ち、逞しい姿を見せつける世界樹を見上げ、ハヤトは小さく溜め息を吐いた。

「神殿区内での戦闘、ねぇ」

「私たちが出ていった時の騒ぎは、それだったんですね」

 ルイスが得心がいったように頷き、横からハヤトの持っている紙を覗き込む。展望台に来たときのルイスは展望台から見える壮絶な風景に圧倒されたり、歓喜したり、はたまた展望台の通常ではありえない高さに戦慄したりと、実に様々な表情を見せていたが、今はもう慣れたらしい。

 ハヤトの手に持たれていたのは、冊子状にまとめられた大きな紙。それぞれの紙一面に細々とした黒い字で、世界樹内――特にシュバルツ周辺に関する情報が記載されている。先程、ハヤトがシュバルツの雑貨店で購入した、いわゆる新聞だった。とは言っても、印刷機のような優れた文明がまだないため、全てが専門の作業員による直筆なのだが。

「原因は神殿区での、次期教皇候補者争いって、今の教皇まだ死んでないだろ」

「えっ? それではなぜ候補者争いが……」

「う~ん……現教皇が危険な状態にあるのか。もしくは候補者たちが権力欲しさに争いを始めた、とか?」

 適当な憶測を述べたハヤトだったが、あながち間違っているともいえない。

 どうやら現在、有力な候補者は二人いるらしく、一人が柔和な顔立ちをした優男。もう一人が、妙なほど見覚えのある女性だった。

「――ってこれ、僕をあそこに連れていった人……」

 神殿区の次期教皇候補者になれるほど、位の高い人物だったのだろうか。

 少しばかり、紙に載っている女性を敵対視するハヤトだったが、やがて紙をめくり、世界樹攻略情報の欄に目を通す。

「最前線が第八十三層、全然進んでいないな……」

「……? 普通だったら、どのくらい進んでいるものなんですか?」

「えっ? そうだね……第八十五層くらいまでは行きたいところじゃないかな」

 実際のところ、第八十層台から早く抜け出してほしいのだが。

 三年前からあまり進歩の見られない世界樹攻略に、ハヤトは少なからず落胆を覚える。いったい、最前線でどういった障害が存在しているというのか。

 最前線の冒険者に対して否定的な思考を抱くハヤトだが、ルイスは違ったらしい。

「しかし、あまり急いで死傷者を出すよりは、ずっと良いことじゃないですか?」

「……まぁ、そうだろうね」

「私は、世界樹の攻略が遅れてでも、仲間の安全を大事にするというやり方は、決して悪いことではないと思います」

 堂々と、しっかりとした口調で言い切ってみせたルイス。

 だが、仲間たちに犠牲を強いてでも攻略を推し進めていたハヤトには、ルイスの考え方は甘いと思えてしまう。

 ハヤトは軽く息を吐き、気分を入れ替えるつもりで身体を解しながらルイスに声をかける。

「さて、それじゃこれからどうしようか?」

「私は特にこれといって……」

 ルイスは申し訳なさそうに、そう言う。だが考えてみれば、これまでただ監獄の中でボンヤリと暮らす日々を送ってきたルイスが、急に外の世界に出て何かをしたいなど、思えるはずもないのは当然なのだ。

 神殿区からの追手や刺客――件の仮面を付けた面々――の存在に気を配りながら行動しなければならない。

 ハヤトは少しの間思案した後、独り言のように呟く。

「……それじゃあ、テナたちと合流するかな……」

「あ、ハヤトさんの仲間の方、ですよね?」

 確認するようなルイスの言葉に頷いてみせながら、ハヤトはそのために何処に行こうかと思案を巡らせ、そして、思考を放棄した。

「……とりあえず、服を買おうか」

「えっ!? あ、はい……」

 一応、身の回りの管理は毎日施されていたが、だからといって外で未だに監獄内の囚人服を着ているのは気が滅入るだろう。もっとも、囚人服とは言っても要はただの真っ白な服であって、更にはシュバルツにいる人間の大部分が冒険者、もしくは引退した冒険者なのだから、こちらがどんな服を着ていようと問題ないのだが。

 照れくさかったのか、俯いてしまったルイスを少しだけ可愛らしく思いながら、ハヤトは展望台を後にした。



     ×



「――えっ!? そ、そんなところまで!?」

「えぇ、もちろんですとも。ささ、早く早く」

「ちょっ、ちょっと待って下さい、まだ心の準備が――きゃぁっ!?」

 何をやっているんだろうなぁ……

 シュバルツにある中では唯一と言っていい、希少価値の高い服屋の中で、ハヤトは更衣室から聞こえてくるルイスの嬌声に、悶々とした感情を抱いていた。

 ハヤトの身を包んでいるのは、監獄で支給された囚人服ではなく、一般人がよく着ているような、簡素なシャツとズボン。決して涼しいとは言えない気候にも関らず長袖のシャツを選択しているのは、ハヤトの好みか。

 世界樹攻略を通して、大概の事態に対する耐性を得たと自負していたハヤトだったが、どうやら女性関係に対する耐性は一向に付かないらしい。もっとも、それへの耐性を得ることの方が問題な気もするが。

 頬を微かに赤く染めていたハヤトだったが、やがて更衣室の戸が開かれる音を聞いて、振り向き、そして思わず息をのむ。

「えと……どう、でしょうか……?」

「え、ええと……」

 不安げな色を覗かせた目で、上目遣いでハヤトの方を見てくるルイス。先程の騒動が尾を引いているのか、その頬には微かに朱が差し、目が潤んでいる。そして身につけているのは、先程までの真っ白な囚人服とは打って変わり、柔らかな亜麻色のワンピース。エーレンでは街娘がよく着ているような服だが、まだシュバルツでは珍しい格好。しかし、どこかの高貴な貴族の令嬢と見えなくもない。

 ハヤトはそんなルイスを直視できず、思わず目を反らしながら、曖昧な調子で答える。

「ま、まあ似合っているんじゃないかな?」

「ほ、本当ですか?」

「うん。すごく……その……可愛いと思うよ」

 自分の発言に顔を真っ赤にするハヤトだったが、それ以上にルイスは、トマトと見間違うほど顔を赤く染め、頭から煙を出しながら俯く。いや、実際には出ていないが。

 互いに気恥ずかしさのあまりに俯き、辺りにあたかも付き合いたての恋人のような雰囲気を振りまく。

 周囲から注がれた生温かい視線にようやく気が付いたハヤトとルイスは、二人してギシッと硬直してから、ぎこちない動作で動きを再開する。

「そ、それじゃあ、行こうか」

「は、はい……」

 ヒューッ、ヒューッと辺りから飛ばされる野次馬たちの喝采に、これまた妙なまでの気恥ずかしさを覚えながら、二人は街路を歩く。

「えっと、ハヤトさん。これからどこに行きますか?」

「そうだね……とりあえず、宿だけとっておこう。休める場所がある方が、ずっと楽だからね」

 そう決めてしまってから、二人はまた妙な誤解を周囲に植え付けていることに気が付き、再び生温かい視線の雨にさらされることになるのだが、それもまた別の話である。



 簡素な戸棚に白い布のかけられたベッド、陽の光が差し込んでくる窓。

 決して広いとは言えない部屋ではあったが、一日の大半を世界樹内で過ごす冒険者たちが暮らす街、シュバルツにある宿にしてはなかなか上質なものだろう。だがしかし、ハヤトとルイスには一つ、どうしても宿に文句を言わなければならない問題が目の前にあった。

「なんでベッドが一つ……」

「………」

 ハヤトがげんなりした様子で呟き、ルイスは顔を赤くして俯いてしまっている。外の世界との接点を持ってこなかった彼女だが、やはりこういったことへの羞恥心は持ち合わせているらしい。

「あぁ、えっとルイス? ちょっと僕は宿の方に用があるから……」

「………はぃ」

 ほとんど聞き取れないほどの小さな声だったがルイスが返事をしたのを確認して、ハヤトは部屋の戸を開け、廊下に出る。

 バタンッと音を立てながら戸が閉まるのを確認して、ハヤトは小さく溜め息を吐き、目頭の辺りを軽く揉みほぐす。

 疲れが溜まったのも無理はないだろう。神殿区支部から脱出してから一度も休息をとらないで、神殿区からの追手や刺客を警戒し続けていたのだから。まだその危険が去ったとは言えないが、全方位を見知らぬ人間が取り囲む、雑多な道よりは安全と考えていいだろう。

 グリグリとすっかり凝り固まってしまった肩を指圧しながら、ハヤトは宿の受付前まで歩き、そしてそこに誰も立っていないことを確認すると、宿の奥に向かって声をかける。

「すみませーん、誰かいませんかー?」

 数瞬の沈黙の後に、中から女性の声が聞こえ、そしてその声の主が現れる。入るときに応対した人とは違う。恐らくは、この宿で働いている従業員か。

 ハヤトは何気なく視線をその女性に向け、そして目を開いた状態のままでガチッと硬直し、思わず息をのむ。

 仔馬を連想させるような、後頭部で一つ結びにした茶髪に、丸く大きな茶色の目。比較的小柄で、俊敏そうな体躯をした彼女は、ハヤトの記憶の中にいた彼女とまったく変わらぬ容姿をしていて――


「――テナ?」


 ハヤトの口からこぼれた言葉に彼女――テナは不思議そうに小首を傾げていたが、やがてその目を大きく見開き、そして両手で口を押さえた。

「……ハヤト、さん……? どうして……」

 茫然とした様子でそう呟いたテナは、そのままへなへなと床に座り込み、大きく息を吐く。

「ど、どうした!?」

「……すみません、突然のことで……」

 驚きのあまりに腰を抜かしてしまったということか。

 とりあえず、テナに何か異変があったわけではないことに安心しながら、ハヤトはテナに向かって右手を差し出す。

「す、すみません……」

 軽く礼を述べてから、ハヤトの手を握るテナ。

 予想以上に軽かったテナの身体を引っ張り起こし、ハヤトは改めてテナに視線を合わせる。

「……本当に、ハヤトさんなんですよね……?」

「うん。紛れもなく、およそ一年前に放火の罪で捕まったハヤト・シラキ本人だよ」

「でも、どうして……」

「………えっとだね……」

 当然返ってきたテナの反応に、ハヤトは思わず言葉をつまらせる。

 正直に言えば「脱獄してきた」なのだが、それをそのまま告げることには何か抵抗が生じるのだ。だからと言ってそれ以外のこと――要は嘘を告げることにも、抵抗が生じるわけで……

 額に脂汗を滲ませながら硬直するハヤト。これまで茫然としていたテナだったが、そんなハヤトの様子に何か勘づくものがあったらしい。すぐにジト目を向けてくる。

「……ハヤトさん?」

「………えーっとだね……」

「正直に答えて下さい。なぜ、ここにいるのですか?」

「脱獄してきました」

 正直に答えてみせたハヤト。だが実際のところ、順序を追って説明すればよかっただけなのだが。

 ハヤトのあまりに簡略化された返事を聞いたテナは少々面食らった様子で、目を丸くしながら尋ね返す。

「えぇっと……なぜ?」

 やや言葉が足りないが、テナに言わんとすることはハヤトにも理解できた。

 自分のあまりに馬鹿げた言動に顔を赤くしながらも、ハヤトは一年前――神殿区の監獄に入れられ、そこでルイスと出会ったことからの経緯を、テナに話した。

『第三十四話 着替』、如何だったでしょうか。

今週(先週)はなかなか筆が進まず、結局投稿部分を執筆したのは一日でという、中々の乱雑っぷり。本当にすみません。

さて、最近のことを少し書こうと思いまして、何もないことに気が付いてしまった私ですが、そろそろ学校が夏休みに入ります。

「夏」といえば皆さまは何を思い浮かべるでしょう? 人にもよると思いますが、大抵の方は「山」であったり「海」であったりではないですかね?

たまに漫画やラノベを読むと、決まって夏には夏祭りが催されているものですが、生憎僕の周囲ではそういったことがない。非常に残念です。

もう本当にやることがなくて、結局は家にずっとひきこもっているんでしょうね。去年もそうでしたし。


では、何のオチもつけてませんがこの辺りで失礼します。

これからも『世界樹のはやぶさ』を見守っていただければと思います。

それでは。

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