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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第四章
33/47

第三十三話 脱出

こんにちは、吉良義人です。

なんかもう、この話がどこに向かっているのかが微妙に掴めなくなってきました、マズイですね。

今のところ、必死にある程度綺麗な形で締めようと考えている途中ですが、まあどうなるかはこれから次第です。

それでは『第三十三話 脱出』、どうぞよろしくお願いします。

 世界樹第四十二階層都市シュバルツ。

 世界樹攻略が盛んに行われているこの世界で、世界樹第零層都市エーレンに次いで発達した都市だ。ただエーレンと決定的に違うのが、街にいる冒険者の多さ。逆にいえば、それ以外は大した違いが無いということにもなる。

 道行く人々の大半が冒険者稼業を営んでいるため、何らかの武装をしている。各通りに開かれている露店で取り扱われているのは、世界樹攻略必需品の品々や、冒険者向けの武具など。

 だがそれ以外の場所へ目を向ければ、エーレンと同様に一般人が数多く住みつき、また神殿区の支部まで設置されている。

 その神殿区支部の地下深くにある、秘密の罪人監房に、ハヤトは一人の少女――ルイスと一緒に収監されていた。

「僕がここに来てからもう一年経つぞ……」

「え? なんで分かるんですか?」

「ああ、規則的に配達される食事の回数を数えて、それを三で割っただけだよ」

 おおよそ千以上にはなる数をハヤトは記憶していたことになるが、ハヤトにとっては大したことでもないらしい。

 ハヤトは純白のベッドの上で胡座あぐらをかきながら、焦りを滲ませる表情をする。

「……早く、戻らないといけないのに……!」

「あの……、ハヤトさん?」

 ギリッと音がするほど強く歯を噛み締めるハヤトだったが、隣のルイスの声にはっと自我を取り戻す。

「ご、ごめん。少し疲れているみたい。もう大丈夫だから……」

「そうですか……?」

 ルイスの気遣わしげな声に、ハヤトは若干の後悔を覚える。自分よりも大分幼い少女に、何を心配させているのか、と。

 だがそんな後悔をしたところで、ハヤトの焦燥感が消えるわけではない。ハヤトは落ち着きなさげに扉に向かって視線を送ったり、身体の各部をグルグル回して解したりしている。そんなことをしたところで、現状が打破されるわけでもないのに。

「ハヤトさん、やっぱり、外に出たいですか……?」

「え? いや、そんなことは――」

「――正直に答えて下さい」

 いつになく強く迫ってくるルイスに、ハヤトは戸惑いを隠せない。だがその一方で、ルイスの問いを肯定する部分もあるのも事実だった。目を左右に泳がせ、部屋の中ではないどこか遠くに焦点を合わせ、ハヤトは一言一言を慎重に選ぶようにして、言葉を返す。

「……ああ、僕は、外に出たい。そして、早く仲間たちと合わなくちゃいけない。彼女たちに、心配させたくない」

「……そう、ですか……」

 なぜかハヤトの答えに意気消沈するルイス。

 そんなルイスを訝しげに見つめるハヤトだったが、不意に、扉が開かれる音を聞き、身構える。

「どういうことだ、まだ食事の時間ではないはず……」

 これまでの経験上、この部屋の扉が開けられるのは毎日三度、食事を決まった時間に渡される時だけ。だが今は、その決められた時間ではない。

 もしかしたら、外に出られる――っ!?

 僅かな希望がハヤトの脳裏を駆けるが、すぐにその可能性は否定された。

 扉を開けたのが、いつも扉を守護していた件の騎士ではなく、獣を模した仮面を付けた、黒衣の男だったからだ。

「……誰だ」

 ルイスを背中の後ろに回し、ハヤトは仮面の男を睨みつける。だが仮面の男はハヤトの殺気を浴びても動じず、黙々と近寄ってくる。

「お前、何が目的だ」

「…………私の目的は、その者の存在を抹消する事なり」

 ハヤトの二度目の問いに、仮面の男は消え失せそうなほど小さな声で答える。その者というのが、ハヤトではなくルイスのことを指しているのだということは、すぐに理解できるが……

 ハヤトがその答えに眉をひそめるのと同時に、仮面の男が滑るように動き出す!

「――野郎っ!!」

 初動が遅れたハヤトだったが、地面すれすれのところを、斬撃と錯覚するような鋭い回し蹴りを放つ。常人であれば、それ一撃で昏倒どころではすまないほどの、容赦のない一撃。だが仮面の男は、それを僅かな跳躍で避けてみせると、圧し掛かるようにしてハヤトを地面に押し倒す。

「ぅぐっ!」

「――死ね!」

 ハヤトの喉元目掛けて突き出された、必殺の一撃。直撃すれば、喉元を貫通させられるほどの威力と殺意が秘められた攻撃。

 ハヤトは強引に身体をねじり、仮面の男の体勢を無理矢理崩し、大きく距離を取る。

「ハ、ハヤトさん、大丈夫ですか……っ!?」

「ああ、ごめん。今は少し危ないから下がってて」

 今にも泣き出しそうな声でルイスが心配してくる。

 そんなルイスの気持ちをありがたく受け取りながらもハヤトは、ルイスに下がるように進言する。ルイスは躊躇うように瞳を何度か左右に往復させた後、ハヤトの言う通り、壁の近くまで下がる。

 それを背中越しに確認して満足そうに頷いてから、ハヤトは目の前の仮面の男に向き直る。

「…………何故、私の邪魔をする? 貴様はただ横から見ていればいいものを」

「ふんっ、誰だって攻撃を仕掛けられたら防衛行動をとるだろ。それに、知り合いが殺されるのを黙って見ているほど、僕は腐った人間になったつもりはない」

 ハヤトの答えに沈黙を返してから、仮面の男は何の前触れもなく身体を地に沈め、そして恐ろしいまでの無音で地面を疾駆する。だがハヤトも、熟練の冒険者として名を轟かせた人間だ。

 仮面の男が右拳で真っ直ぐ突きを放つ。空気を切り裂きながら迫ってくる拳は、その一撃だけで岩石を砕けるか。だがハヤトは察知していた。仮面の男の攻撃が、多段構えであるということを。

 突きを寸前で回避し、その勢いのままに地面に沈み込んだ仮面の男が放った大回し蹴りを後ろに回転して避ける。体勢の立て直した男がハヤトの懐に潜り込んで、顎目掛けて鋭いアッパーを繰り出してくる。文字通り、繰り出されたが最後、九割方の確率で死滅する必殺の一撃。だが――全て、ハヤトは予想済みだった。

 後方への回転の直後で体勢が不安定なハヤトは、そこから回避運動を取ることが出来ない。だから、受け流す。

 両足で地面を蹴り、身体を空を浮かせる。男の拳はハヤトの顎を打つが、大した衝撃を与えることも叶わない。対してハヤトは、空中で身体をひねり、右足のつま先で男の顎を、蹴り上げる!

 悲鳴も上げられず、仮面の男は地面に投げ出される。ドスッと鈍い音が部屋に響くのと同時に、男の仮面が真っ二つに割れる。そして仮面の中から、黒く禍々しい気を持ったもやが放出される。

「なんだ……?」

「何か、嫌な感じがします……」

 ハヤトとルイスはそろって不快げに顔を歪めるが、もやはすぐに霧散し、跡も形もなく消え去る。後に残されたのは、真っ二つに割れた仮面と、男の着ていた黒衣だけ。

 ハヤトは慎重に黒衣に近寄り、一気に布を蹴飛ばす。だが、やはり中には何も入っていなかったらしく、黒い布はひらりと空を舞うだけ。

 次いでハヤトは、額から顎にかけて真っ二つに割れた仮面を手に取る。木で出来ているらしいそれには、獣を模した形の面に赤い線が描かれている。その赤い線の塗料が気にかかり、ハヤトは軽く匂いを嗅ぐ。

「……血の匂い……!?」

「ど、どうかしたんですかハヤトさん?」

 怯えたようで、声を震わせながらルイスが尋ねてくる。出来るだけ心配させないように「何でもないよ」と短く告げ、ハヤトは再び仮面に見入る。

 目から頬を通り、顎まで続く二本の赤い線は、見ようによってはただの模様にも、血涙にも考えられる。何かの、儀礼的な意味を持った模様の一種なのかもしれない。

 身体に走った寒気を追いだし、ハヤトは無意識に震える脚を叱咤して立ち上がる。ルイスの方を見ると、彼女は突然の事件にショックを隠せないらしく、顔を青くしていた。

「……ルイス」

「は、はい、何でしょう?」

 ハヤトの声に自我を取り戻したのか、はっとした様子でルイスはハヤトの顔を見る。だがその目の焦点はハヤトに合っておらず、ここではないどこかを見つめているようだ。出来ればルイスが冷静になるまで時間をとっていたかったが、今はそう待っていられない状況になってしまっている。

「ルイス、ここから出よう」

「えっ? で、ですが……」

 ハヤトの言葉に、ルイスは躊躇うように言葉を濁す。だが、視線は扉の方へと何度か注がれる。明確な拒絶ではない、と考えていいだろう。

「今ここにいるのは、危険だ。さっきの奴がまた来ないとも限らない」

「………」

「大丈夫、何があっても、君に怪我なんてさせない。僕が、君を守ってみせる」

 我ながら、随分と調子に乗った発言だ。

 ハヤトの頭の隅でそんな声が響くが、それに構っている暇はない。例え連れ出した先で何か問題があったとしても、ここでひたすら仮面の男たちに怯えながらいるよりは恐らく幾分かましだろう。

 ルイスは自分の中で葛藤に苛まされていたようだが、やがてこくりと小さく頷く。

「よしっ、それじゃあ急いで行こう!」

 言うと、ハヤトはルイスの前で屈み、ルイスに背を見せる。

「さあ、早く乗って!」

「えっ!? で、ですが……」

「こっちの方が、ルイスも安全だし、僕も動きやすい」

 ルイスは恐らく、長い間この部屋で静かに暮らしてきたのだろう。なら、大して体力もないはず。それに対してハヤトは、まだこの部屋に入ってから一年の上に、暇な時間を使って軽い運動をしていた。ルイスとハヤト、どちらがより激しく動けるかは、一目瞭然だろう。

 ルイスもそのことは分かっているらしい。躊躇いながらも、ハヤトの背に身体を乗せ、ゆっくりと体重を預けてくる。身体の小柄さも相まって、ルイスは非常に軽い。まるで、置物を背負っているような印象さえ受けるが、背中越しに感じるルイスの脈拍が、それを否定する。

「ルイス、ちゃんと僕に掴まって!」

「あ……」

 背中のルイスから、小さく声が漏れる。だがルイスの細い手はハヤトの首を周り、両膝でハヤトの脚をしっかり挟む。ハヤトが確認のために数度飛び跳ねるが、離れない。しっかりと固定されている。

「それじゃあルイス、走るから、舌を噛まないように気を付けて!!」

「……っ!」

 ルイスが、大きく息を吸う。ルイスの体温を背中に感じながら、ハヤトは扉の隙間を抜け、暗い階段を登る。踏み外す危険があるため、ここでは走らない。

 階段を登りきったところで一度ハヤトは立ち止まり、辺りの様子を伺う。廊下に響くのは、慌ただしく廊下を駆ける人間の足音と、狼狽の声。やはり、何か異常事態が起こっていると考えていいだろう。

 腹をくくり、ハヤトは大きく息を吸って、吐く。背中では、ルイスが緊張しているのか、呼吸を若干浅くしている。

「……ルイス」

「……っ!? な、なんですか?」

「落ち着いて。大丈夫だから」

 ハヤトの言葉で、ルイスはようやく自分が狼狽していることを自覚したらしい。身体に入っていた無駄な力を抜き、深呼吸をする。

 ルイスが落ち着いたのを確認して、ハヤトは腰を深く落とす。手を腰の後ろに回してルイスの身体をしっかり固定すると、もう一度廊下を確認する。誰もいないことを確かめると――


「――行く!!」


 強く地を蹴り出し、一気に加速。周囲の景色が霞むほどの速度に一瞬で達する。

 人間離れした速度で廊下を一気に駆け抜け、外の陽光の下に出てくる。神殿の中庭だろうか。武装した騎士たちが何人もいる。彼らはハヤトの姿を認めると、一瞬硬直した後に武器を構え、その矛先をハヤトとルイスに向ける。

「どけぇぇえええ!!」

 だが、その程度はハヤトにとって脅威にもならない。

 一番近くにいた騎士に駆けより、その頭部まで跳躍。その頭を足場にして、近くにいた騎士の槍の柄まで飛び移る。

「おぉぅらぁっ!!」

 槍が振り回され、ハヤトの身体が投げ飛ばされる。だがハヤトは空で体勢を立て直し、飛ばされた先にいた騎士の肩の上に足を着く。

「貴様っ、何も――」

「遅い!!」

 騎士の肩の上から軽く跳び、騎士の後頭部を思い切り蹴り飛ばす。騎士は身体をよろめかせ、そのまま地に倒れ伏す。

 仲間が一人倒されたことに、騎士たちの間に動揺が走る。ハヤトの包囲網に、綻びが生じる。その隙にハヤトは再び跳躍。人一倍大柄な騎士の頭の上に足を乗せ、そのまま大きく跳躍する。ハヤトの身体はふわりと宙を浮き、中庭に生えていた大樹の枝に乗る。そこからすぐ近くに、神殿の屋根がある。ハヤトなら容易に飛び移れそうだ。

 それを確認すると、ハヤトは眼下でこちらを睨みつけてくる騎士たちに向かって声を上げる。

「じゃあな! 長い間世話になったな!」

「待て貴様! 一体何者だ!!」

 騎士の怒りが混ざった努号が聞こえるが、それに構うほどハヤトもルイスも暇ではない。

 ハヤトは枝から跳躍し、近くの屋根に飛び移る。トスッと確かな衝撃。それを頼もしく思いながら、ハヤトは屋根の上を駆け抜ける。

「ルイス、大丈夫?」

「はっ、はいっ、大丈夫です!」

 背中から聞こえる、ルイスの割りとしっかりした声。ハヤトがそちらに目を向けると、微妙に目を回したルイスの顔が映る。

 あれだけ激しく動いたのだから、気を失っていてもおかしくないのだが……。見た目と違い、しっかりした娘らしい。

「それじゃあ、もうすぐ外に――」

「――うわぁ!」

 不意にルイスの口から漏れ出た、感嘆の声。

 一体どうしたのかとハヤトがルイスを見ると、ルイスの目はハヤトよりもはるか前方――天高くそびえ立つ、世界樹へと向けられている。

「……世界樹か。……やっと戻ってこれた」

 ハヤトもルイスに釣られて目線を上げ、世界樹を視界に収める。ハヤトから様々なものを奪い取った世界樹だが、不思議とその巨大な姿が頼もしく見える。

 出来る事ならそのまま世界樹を見ていたかったが、状況は刻一刻と進んでいく。あまりゆっくりしていては、神殿周囲の警戒が強くなる恐れがあった。

「……急ぐよ、ルイス」

「――はいっ!!」

 ハヤトは再び駆けだし、屋根の縁まで到達すると跳躍、隣の建物の屋根に飛び移るという曲芸師のような軽業を、立て続けに成功させる。五回ほどそれを繰り返すと、たちまち神殿区支部の一番外側の建物に到達する。

「さあルイス、これでもう、僕たちは本当に外に出られる! これで僕たちは、自由だ!!」

 最後の跳躍は、これまでよりも一層高く。青く晴れ渡った空にまで手が届きそうなほど高く。

 ハヤトとルイスはその時、神殿区から脱出した。

『第三十三話 脱出』、如何だったでしょうか。

読者の皆さまが少しでも楽しめたら。そう願っております。

ところで、僕はいつも一話あたりに大体5000文字ほど入れているのですが、読者の方々としては、もう少し多い方がいいのでしょうか? それとも少ない方が?

個人的にはこのくらいの長さがちょうどいいかな、と思っているのですが、最近は他の作者様の作品を読まないから、よく分からないんですよね……

まあ結局は作者の好み次第だとは思うんですけれどね。


それでは話のネタも尽きましたのでこの辺りで。

これからも『世界樹のはやぶさ』を、どうぞよろしくお願いします。

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